
人に言えないけれど、ひとりで寝るのがこわい
20代後半のわたしは、部屋でひとりで眠るのが怖い。真っ暗にした瞬間から聴覚があり得ないくらい研ぎ澄まされ、仕事中のわたしに分けてほしいくらい想像力豊かになる。
月に一度はひとりでビジネスホテルに泊まるし、一人暮らし歴5年以上。なのに、眠るまでが怖い。
電気を消すと、ほとんど何も見えなくなる。
そうすると、外の車のライトや家電の電源ボタンの光が目立って見える。少し経って目が慣れたら、グレーのソファの位置や鏡らしきものがほんの少し見える。
気にしなければほぼ見えないのに、目が冴えてしまう。
だから、視界からの情報で眠気が去る前に、目を閉じる。
疲れが溜まっている日や、近くに同居人の気配がするときは、そのままスーッと眠りに沈んでいく。
けれど、そうでない日のほとんどは、目と交代に耳が覚醒する。普段の聴覚は微妙で聞き返すことも多いのに、寝ようとするときは遠くの小さな音まで聞こえる。聴力検査で覚醒したらいいのに。
部屋や冷蔵庫がパキッと鳴る小さな音、
風で窓が揺れる音、
バイクが停まるような音、
遠くのどこかの夜間工事と思われる音、
生き物の鳴き声。
普段気にならない様々な音が押し寄せる。
それだけならまだいい。
音を認識した途端(その音自体妄想なのかもしれないが)、想像力で心がざわざわする。
地震の前兆を察して鳥が鳴いているのでは?
家の敷地に不審者が来たから音がしたのでは?
心霊現象的な何かなのでは?(こういうとき、突然桁違いの記憶力を発揮する。子どもの頃見た怖い話の内容や、流し見しただけの心霊系YouTuberから得た知識が一気に蘇る。)
これを意識し始めると、もう眠れない。
テレビをつけっぱなしにして適度な雑音と光の中で眠るか、眠気でスマホが手から滑り落ちるまでXを見続けるか、諦めて起き上がり夜明けを待つか。
電気とテレビをつけておけば安心できそうだけれど、中途半端な眠りのせいで金縛りになってからは避けている。
片岡鶴太郎さんは23時に起床するらしい。だからわたしが寝る頃は鶴太郎さんにとってはもう朝。そう念じながら眠ろうとした時期もあった。これは案外効果がある。
けれど鶴太郎さんは、わたしの自宅で朝活しているわけではない。だからやっぱり不安だ。
そんなことを思いながらなんとか眠り、朝になって思い返せば、何を恐れていたのか自分でも謎である。睡眠不足で運転することの方が怖い。
成人してだいぶ経つのに、ひとりで眠るのが怖いなんて。恥ずかしくて今さら誰にも言えない。
どうして、寝る前になると不安と恐怖が襲ってくるのだろう。
そう言えば子どもの頃は、睡眠中の記憶がほぼ無いということ、意識がないような空白の時間ができることが、どうしようもなくこわかった。
昔読んだ本によると、不安の多くは、“わからない”ということが原因らしい。
ものがよく見えない真っ暗な部屋、寝たら意識が弱まるだろうということ。それらが、自分で管理しきれない“わからない領域”を感じさせて、不安を誘うのかもしれない。
そう考えると、同居人の気配を感じるときは眠りやすいというのも納得できる。
何も見えず、記憶も意識も曖昧。そんなわからないことだらけの無防備な睡眠の空間に、信頼できる人がいる。
それが、“わからない”による不安を、同じ場にいる他者に守られているような“わかる”空間という安心に変えてくれるのかもしれない。
とはいえ、できれば自分ひとりでも気持ち良く入眠したい。