
10年目のハサミさん
友人と話しているとき、唐突に言われた。
「妹にブックマーケットの袋貸したら、なくされた」
ブックマーケットとは、都内で開催されていた本のイベントだ。
本を3冊買うと手提げ袋が1枚貰える特典で、その時しか貰えないものだから、なくされたことへの悲しみはよくわかる。
1枚あげようかと話していたら、立て続けに
「お気に入りのブックカバーも、なくされたっぽい」
こういうのは重なるんだよな、と思った。
本が汚れるのを恐れて、透明のカバーに加えて自前のブックカバーもかけていたらしい。
念には念を入れた行動が、こんな形になってしまうとは。
そこでふと、子どもの頃にやっていたおまじないを思いだした。
「ハサミさん」だ。
耳元でハサミをチョキチョキしながら、
「ハサミさん、ハサミさん、失くし物はどこですか」と唱える。
私はこれで、自転車の鍵をよく探していた。
毎回、目の前にあったり、置いた覚えのない場所にあったりした。
「それ、見つかるの?」
「見つからない」と即答した。
「でも時間が経ってから、そんなところにあったんだって気づくんだよね。失くし物ってだいたいそうだけど」
それでも幼い私はハサミさんに絶大な信頼をよせていた。
半分冗談で、友人に話してみたら、ハサミさんを知らなかった。
やり方を説明しても、知らないと。
同い年なのに。
育った土地の違いだろうか。
そんな話をしていたら、
「激アツ展開きた。ブックカバーあった。」
出会って10年目。
まだ知らないことがあるんだなと、可笑しくなった。
まだまだ、この子といると飽きないな。
ふと、あのおまじないも少しは効くのかもしれないと思った。