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オリーブの若葉


    鳩が飛んだ。

    急に僕が動いて驚いたのか、何羽か一気に飛んでいった。

    どの鳩も同じ顔をしていた。


    ______

    ベンチに座り始めて、まず1羽が近くに寄ってきた。

    僕はパンも、パンを買うお金も持っていない。

    しばらく鳩は近くにいた。
    この人間は何をくれるんだ、腹が減ってるんだ、早く食いもんを寄越せと言っているようだった。

    世田谷公園には子供連れの家族や、カップルが溢れていた。

    季節は4月の終わりで気候は暖かく、半袖姿で歩く人も少なくない。

    目の前には噴水があり、子供が濡れることなんて恐れずに水の中に飛び込んでいく。

    子供の頃に海で溺れたことを思い出した。
    あの頃は好奇心だけで生きていけた。
    海に飛び込んでも助けてもらえたし、助けてもらえると確信していたのかもしれない。

    なぜこんなことを思い出したのか、自分でもわからなかった。

    少し先のベンチでカップルが鳩に餌をあげている。
    コンビニで買ったパンだろうか、何かをちぎって鳩の近くに投げる。

    何もしていないのにずるいと思った。
    ただ人間の目の前でトボトボと歩き、スカした顔をしていればご飯がもらえる。

    僕の近くにも鳩が3羽いた。
    どうして期待されるんだ。

    僕はホームレスだし、見ればわかるだろ。

    公園自体の雰囲気は穏やかな日曜日の午後だった。
    まさに平和そのもの。

    何が平和だ。

    僕のベンチに鳩が1羽止まった。
    僕の顔を見つめてくる。

    「お前はいいよな、甘やかされてさ」

    僕の声はどうやら聞こえていないようだった。

    立とうとした瞬間、隣にいた鳩がバタバタと音を立てた。

    「うあ!」

    音の大きさに驚いて声が出てしまった。

    鳩がバタバタと羽を広げて、またベンチに戻る。

    なんだよ、俺は何も持ってないから別の人にもらってこいよ。

    しばらくベンチに座っていた。

    噴水が大きくなったり、小さくなったり。
    その中で子供が大はしゃぎしている。

    その中で、少し離れた場所でキョロキョロしている男の子がいた。
    視線が落ち着かない。

    子供は顔を擦るような動作をしている。
    涙が止まらないんだろう。

    隣にいる鳩がグルグルと鳴る。

    なんとなく予想はしていたことが起きた。

    「うわ〜あん、どおこお〜」

    その子供は泣き出してしまった。

    その声に驚いたのか鳩が一斉に飛んだ。
    視界に映るだけでも10羽以上の鳩が飛んだ。

    横にいる鳩は僕に何か言いたげな表情で見てくる。

    なんだこの感じ。

    この場所から離れたくなった。

    鳩が再びグルグルと鳴き始める。

    先ほど子供の近くにいた鳩だろうか。
    1羽が僕のベンチに飛んできた。

    その羽音でベンチにいた鳩も遠くに飛んでいってしまった。

    今飛んできた鳩が何かを咥えている。
    パタパタと揺れる紙のようなもの。

    それを、くちばしから抜きとった。

    噴水で泣いていた子供は、どうやら親と合流できたらしい。
    親も探していて、やっと見つけたような表情をしていた。

    僕は公園から出ようと歩き始めていた。
    僕が歩くと誰も近くに寄ってこない。
    もうどれだけ風呂に入ってないだろうか。
    それにもう3日は飯抜きだ。

    鳩から抜き取ったものはポケットに入れた。

    公園の出口には鳩が1羽いた。
    僕を見ている気がした。

    さっきの鳩か?
    いや、そうであっても違いなんかわからない。
    みんな同じ顔だ、人間も鳩も。

    僕は公園を出た。

    _____________



    「えーと、住所がない?仕事は?」

    「いや、だからホームレスなんです」

    目の前の僕より若そうな警官が、僕の身なりを改めて見る。

    「一応、落とし物ってことで預かるけど、これどうしたの?」
    「1万円札だけが公園に落ちてたの?近くに財布とかなかった?」

    少し返事に迷った。

    「んー、とりあえずこのお金はこちらで預かりますね」

    「鳩が運んできました」

    警官がポカンとする。

    僕は少しだけ付け足す。

    「オリーブの若葉、らしいです」

    警官は軽く頷いた。

    「……まあ、とりあえず了解しました。お気をつけて」

    交番を出ると、外はまだ明るかった。


    お腹がグルグルと鳴った。

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