
#2『黒きバナナ』
前回👇
「……あれは、漂流物だす?」
見張りの農夫が指差した先。
波間に浮かぶのは――
銀色に鈍く光る謎の物体。
エステバンは目を細めた。
有り余る筋肉の直感が告げていた。
あれは、ただのゴミではない。
船を寄せると、
そこには――
ダィ~~ソンの小型掃除機を胸に抱き、
ラッコのように仰向けで浮かぶ人影があった。
長い睫毛。
濃密な気配。
口元から漏れる、一言。
「……吸引力、落ちてないわね……」
農夫たちが凍りつく。
「な、何者だす……?」
その人物はゆっくりと起き上がり、
ダィ~~ソンの掃除機を掲げ、朗々と宣言した。
「ぅどんだけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
雷鳴が走った。
いや、実際には走っていない。
だが農夫たちの精神には、確かに、雷が落ちた。
エステバンは理解する。
――これは、常識の外にいる、存在。
『名を名乗れ』
するとその人物は、
艶やかに微笑み、こう答えた。
「アタシ?
ただの通りすがりの……
IKKOHよ」
農夫の一人が囁く。
「聞いたことがある……黒きバナナとも、
眼医者とも、一切関係ないはずの存在だす……」
IKKOHは海水を払いつつ、
ダィ~~ソンを肩に担いだ。
「関係ない?ええ、そうねぇ」
一拍置き、
その目が一瞬だけ――
異様なほど鋭く光る。
「でもね、“交差点”には、だいたいアタシ、いるのよ」
沈黙。
エステバンは踏み出した。
『貴様は味方か、敵か』
IKKOHは首を傾げ、
意味ありげに笑った。
「どっちでもないわぁ。
ただ――」
ダィ~~ソンのスイッチを入れる。
低く、獣のような吸引音。
「いらない因果を、吸うだけ」
ブオオオオオオオオオオン!!!!!
次の瞬間、農夫たちは感じた。
このオカマは敵ではない。
味方でもない。
だが確実に――
物語の重心を狂わせる存在だと。
そしてIKKOHは、
船首を見つめながらぽつりと言った。
「日本に行くんでしょ?眼医者に、黒きバナナ……」
微笑み。
「どっちも、“見すぎた”のよ」
海風が吹き、
星が一つ、落ちた。
物語は、予定調和から外れ始めただす。