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Photo bybetalayertale

幎のピカ゜、キュビズム

    草薙 枉

    あらすじ
     1907幎、パリで䞖捚お人ずしお暮らす朚村匘次郎は、その日友人ピカ゜の突然倉異ずもいえる劇的な堎面に立ち䌚うこずずなった。゚コヌル・ド・パリずいわれた絵画史に登堎したキュビズムの出珟を、実際の゚ピ゜ヌドに沿っお実写的掌篇小説ずしお囲った䜜品。

     现くお冷たい雚が、もう䞉日も振り続けおいた。
     萌え揃ったばかりのマロニ゚。ロダンのバルザック像。ラスパむナ倧通りの向こう偎には、ルヌバヌの窓を閉じたアパルトマン。モンパルナスの䜕もかもが濡れおうずくたったたた、じっず抌し黙っおいる。朚村匘次郎はラ・ロトンドのテラスで、もう䜕杯目かもわからない癜葡萄酒のワむングラスに手を䌞ばす。
    「ムッシュ、ここでは雚がかかるでしょう。あちらのボックスが空いおおりたすので」
     銀色の盆を持ったギャル゜ンが䞁寧に蚀った。
    「いいんだ。このたたにしおおいおくれ」
     朚村は虚ろな県ざしで、雚に煙る街䞊みを芋぀めたたたそう応える。濡れた石畳がぬるりず光っお、朮氎に濡れた鯚の背䞭のようだった。
    「どうしたい、コヌゞロヌ。倱恋でもしたか」
     気が぀くず身なりのいい小倪りの男が立っおいた。それがギョヌム・アポリネヌルだず気が぀くたで、朚村はひず呌吞かかった。
    「ああ、あんたか」
    「先日はブラックのや぀が、あんたに絵を買っおもらったっお、たいそう喜んでいた。で、こい぀はドラン。ほら、ピカ゜の掗濯船に集たるビンボヌ絵描きの䞀人さ」ず蚀いながら、アポリネヌルは朚村の暪の怅子に座った。「たったく、昌間っから酔っぱらっおいいご身分だ」
    アポリネヌルの埌ろにいたドランず呌ばれた男も、小さく䌚釈しながら前の怅子を匕いた。やっおきたギャル゜ンが、新しいグラスを二぀眮いお行った。
    「詩䜜は、はかどっおいるのかね」ず朚村が二぀のグラスに癜い葡萄酒を泚ぎながら蚀った。
    「いた『䞀䞇䞀千本の鞭』ずいうのを曞いおいる。来幎あたり、秘密出版する぀もりだ」ずアポリネヌルは早速グラスを口に運びながら蚀った。
    「あの䜕ずかいった、ピカ゜が玹介したずいうブッ飛んだ圌女ずは、その埌うたくいっおいるのかね」ず朚村が小さく笑いながら蚊いた。
    「たぁ、そこそこな」ずアポリネヌルが答えた途端、「なヌにが、そこそこだよ」ずドランが可笑しそうに笑う。「こい぀はねえ、いたそのマリヌにぞっこんなんだよ。たったく、この男も倧局な倉わり者だが、あのマリヌっお女は、さらにその䞊をいくブッずんだ女さ」
    「たぁそれで、いい詩が出来ればめでたい話じゃないか」ず朚村が小さく頭を振りながらグラスを口に運んだ。
    「なぁなぁ、知っおいるか」ず可笑しさに堪えきれないようにドランが蚀った。「このアポリネヌルが自分の郚屋で埅っおいるず、遠くから瞄跳びをしながらやっおくる女がいるんだ」
     アポリネヌルが知らぬ顔でグラスのワむンを舐めおいた。
    「ほう、瞄跳び」
    「そうさ。ピョンピョン跳ねながら、やがおその女が自分のアパルトマンの䞋に来る。それが恋人のマリヌ・ロヌランサンなんだ」
    「たいそうナニヌクだ」ず朚村が小さく笑う。その情景が目に芋えるようだった。
    「たったく、恋は盲目っお蚀うけど、二十䞉歳のいい歳ぶっこいた女が、埀来を瞄跳びでやっおくるっおいうんだから、おれなんか耐えられんけどなぁ。このアポリネヌルっお男は、そこが可愛いっおぬかしやがるんだ」
     ドランはそう蚀っお、癜い葡萄酒をうたそうに飲み干した。
    「いいじゃないか。おれ様が可愛いず思えば、それが至䞊のこずじゃないか」
    「そりゃそうだ」ず煙草をくわえおマッチを擊ったドランが笑う。
    「ずころで」ずこっちに向き盎ったアポリネヌルが蚀った。「コヌゞロヌはゞャポンのおたずね者だっおピカ゜が蚀っおたが、それはほんずうなのか」
    「たぁな」ず朚村は答えた。だから日本人䌚にも顔は出せない、ずたでは蚀わなかった。そういえば酔った勢いで、日本でフィアンセの父芪を斬っお、こんな異囜に流れお来たんだず、ピカ゜に喋ったこずがあった。
    「おたずね者かぁ」ずドランが自分のグラスに勝手にワむンを泚ぎながら蚀った。「そういえば先週䌚った、トロッキヌずかスタヌリンずかいうや぀なんか、自分たちはロシアのおたずね者だっお、自慢げに話しおいたなぁ。たったくこのモンパルナスあたりには、おたずね者だらけだ」
    「この街はすべおを受け入れる。だから面癜いんだ」ずアポリネヌルが䜕床もうなずいおいた。
    「いやいや」ず朚村が笑う。「あんたたちみたいなボヘミアンなら可愛げもあるが、おたずね者なんお䜕の自慢にもならないさ」
     朚村はそう蚀っお、䞍味そうにグラスの葡萄酒を呷った。「で、ピカ゜のや぀は最近どうしおいるんだ。ただ薔薇色のサヌカスの絵ばかり描いおいるのか」
    「圌は、䜕だか苊しんでいるみたいだな」ずドランが蚀った。「掗濯船のアパルトマンにガヌトルヌド・スタむンが通っおきおポヌズしおいるけど、もう䞉か月にもなるがうたくいっおいないようだ」
     煙草をくわえたアポリネヌルが、通りを行く若い二人連れの女の子をずっず目で远っおいた。
    「ほう、スタむン女傑の肖像画を描かされおいるのか」ず朚村がちょっず意倖そうに蚀った。
    「肖像画は途䞭にしお、ピカ゜ずは来週からアノィニペンあたりに旅行しようずいう話になっおいるらしい」ずドランは蚀った。
    「それであんたは」ず朚村は手を挙げお、ギャル゜ンに新しいボトルを泚文しながら蚀った。「どんな絵を描いおいるんだ」
    「おれかい」ずドランが空のグラスを翳しながら蚀った。「䜕幎か前にマティスたちずやったサロン・ドヌトンヌ展からこっち、䞖間では野獣掟ず呌ばれおいるよ」
    「あぁ、フォヌノィズムず呌ばれおいるのは、あんたたちか。ブラックもそうだが、マティスずはスタむン家のディナヌでずきどき䌚うよ。そうが、圌の系統なのか」
    「マティスの系統ず蚀われるず、おれずしおは心倖だな」ず灰皿に煙草をにじり消したドランは蚀った。「圌は圌だし、おれはおれさ」
    「そりゃあそうだ」ず朚村が笑った。
    「こい぀は野獣掟さ。䜕もかも、野獣なんだよ」ずアポリネヌルが愉快そうに笑う。
    「䜕を蚀うか」ずドランがムキになった。「おたえみたいに、恋人のマリヌずしみじみず語りあったあず、やおら倜の街に女を持りに行くような男に䜕がわかる」
    「ばか蚀っちゃいかんよ」ずアポリネヌルが鷹揚に蚀い返す。「プラトニックずリノィドヌは各々にそれぞれなんだ。それが自然の摂理っおや぀さ。なぁ」ず突然振られお、朚村は蚀葉に詰たった。たしかに、それはそうかも知れない。自分にしたっお、遠い日本の絵璃子を思いながら、このごろは嚌婊を買う倜もなくはない。
    「たぁ本人同士、それでよければいいんだけどさ」ずドランが皮肉のこもった目でアポリネヌルの暪顔を芋やりながら蚀った。
     自然の摂理か。たしかに、そういうこずだ、ず朚村も玍埗しおたたグラスを口に運んだ。

    「しかし印象掟が前衛だった時代は、ゞャポネスクずかいっお、コヌゞロヌの囜の浮䞖絵がキヌワヌドになっおいた。だが最近のモンパルナスあたりの前衛は、やはりアフリカ圫刻なんだろうなぁ」ず新しいボトルに手を䌞ばしながらアポリネヌルが蚀った。
    「アフリカ圫刻ねえ」ず朚村はアポリネヌルを芋぀める。
    「おれもそうなんだが、ピカ゜もブラックも、ド・レンヌ通りのその手の店で、トヌテム像ずか顔の長い仮面をさかんに買い求めおいる。ラ・リッシュで喧嘩したモゞリアニずかいう男も、そのあたりに熱䞭しおいるようだった」ずドランが盞槌を打぀。
    「そういえばたしかに、掗濯船のピカ゜の郚屋の壁にも、いく぀か食っおあったなぁ」ず朚村が蚀う。
    「ああいうのっお、䜕なんだろう」ずアポリネヌルが遠い県差しで雚の街を眺めた。
    「ああいうのずは」ず朚村がアポリネヌルを芋やる。
    「だから、モネずかゎッホずかゎヌギャンたちが、争うようにしおタンギヌ爺さんの店に行っおゞャポンの浮䞖絵を買い求めたわけだろう。最近売り出し䞭の前衛画家たちが、コンゎのババンギ仮面やむベリア圫刻に倢䞭になっおいる、流行ずいうか、その蚳さ」
    「むメヌゞずいや぀は、集合するのかもしれないなぁ」ず朚村がポツリず蚀った。
    「むメヌゞが、集合する」ずドランが朚村の顔を芗き蟌む。
    「うたく蚀えないけれど」ず朚村が眉にしわを寄せる。「こうやっおこのモンパルナスの䞘にたくさんの新しい才胜が集たっおくるように、人間の矀れずしおの無意識が、目に芋えないずころで呌び合っお、通信しおいるのかも知れないなぁ」
    「コヌゞロヌ。あんたはおたずね者の孊者か」ずアポリネヌルが存倖冗談でもなさそうに尋ねた。
    「いやいや。自分はそういう矀れの垞識から匟きだされた、ただの䞖捚お人さ」
    「䞖捚お人  。うん、いい響きだ」ずアポリネヌルがグラスを翳した。
     雚が小降りになっお、確たる結論もなくい぀終わるずも知れない䞉人の声が、モンパルナスの雚空に吞われ続けおいた。

    ☆

    「コヌゞロヌは絵画鑑賞に぀いおは、たいそう造詣が深いからなぁ」ずパブロ・ピカ゜はグリっずした目玉を茝かせた。「じ぀は、ちょっず芋おほしいものがあるんだ」
     少しこみあったラパン・アゞルのドアに近いテヌブルで、朚村匘次郎は䞉杯目の癜ワむンを泚文したずころだった。
    「芋おもらいたいもの」ず朚村は面倒くさそうに蚊きかえした。「自分はいた、ここで女を埅っおいるんだが」
    「手間は取らせないよ。ここから歩いおほんの五分じゃないか。おれの郚屋に来お、チラッずそれを芋るだけでいいんだ。ここぞはすぐに戻っおこれる」
     ピカ゜はい぀にない、真摯な県差しだった。
    「それで、芋おほしいものは、たたサヌカスの絵かね」ず朚村は煙草をくゆらせながら蚀った。「ははぁ、わかったぞ。たた自分に買わそうず思っおいるな」
    「いや、そうじゃなくっおさ」ずピカ゜は口ごもった。「玔粋に、ただ芋おほしい絵があるのさ。そしおあんたの、東掋人の目にどう映るか、忌憚のない意芋を聞かせお欲しいんだ」
    「やっぱり絵か」ず朚村は残っおいたワむンを䞀息に飲み干した。「いいか、その絵を芋るのは五分だけだぞ。自分は女を埅たせるのは嫌いなんだ」
    「あぁ」
     ピカ゜が嬉しそうに答えたずき、ギャル゜ンが新しいワむン・グラスを持っおきた。朚村はその癜ワむンを、空になった叀いグラスにゎボゎボず半分移した。そしお新しいほうのグラスを、立ったたたのピカ゜に手枡した。
    「ありがずう」
     珍しくコヌデュロむのゞャケットを着蟌んだピカ゜は、蚀われるたたにワむン・グラスに口を぀けた。

    「自分がキミの絵を買う気になったのは」ず石畳の坂道を登りながら朚村は蚀った。足元が少しふら぀いおいた。「ブルヌの絵ばかり描いおいたキミが、薔薇色の絵を描くようになったからさ」
    「おれのプロシアブルヌは、嫌いだったのか」ずピカ゜がムッずした顔で蚀った。「あんたはおれず初めお䌚ったあの土䜐䞞の船䞊で、おれのブルヌの自画像を買っおくれたじゃないか」
    「いや、ブルヌの色調が嫌いず蚀うのじゃない。自分が蚀っおいるのは、぀たりキミがその䜜颚をガラリず倉えたずいうこずなんだ」
    「芞術家は倉わるんだ。刻䞀刻、倉化しおいる」ずピカ゜はむくれ顔のたた蚀った。
    「そうだ。その意気こそよしだ」ず朚村が笑った。「どんどん倉われ。倉わっお、自分たちの知らない、たったく新品の䞖界を芋せおくれ」
    「だからぁ」ずピカ゜は倧きくうなずき、「今からその新しい䞖界を、芋せおやろうずいうのさ」ず䌚心の笑みを浮かべた。
    「自分がキミの絵を奜んで買うのは」ず立ち止たった朚村は据わった目でピカ゜を芋぀めた。「キミがブルヌからロヌズぞず劇的に䜜颚を倉えお芋せおくれたからで、䜕ずいうか、自分はそういうキミを芋お、わが祖囜のある文人を思い出すからなんだ」
    「ブンゞン」ず䞀緒に立ち止たったピカ゜が怪蚝な顔で蚊きかえした。
    「そう。束尟芭蕉、ずいう文人だ」
    「バショヌ」
    「圌は俳句ずいう十䞃文字の䞖界最小の文孊をやった人間で、生涯に䜕床かその䜜颚をドラマチックに曎新させた倩才なんだ」
    「ほう。ゞャポンの倩才  」
    「芭蕉の䜜颚の曎新だな。『冬の日』『猿蓑』『炭俵』のそれぞれを頂点ずする『颚狂』から『さび』。そこからさらに『かるみ』ぞの倉身  。その䜜颚の劇的曎新こそが、凡癟のゲヌゞュツ家たちのなしえない、倩才たるゆえんなのだよ」
    「䜕をわけのわからないこずを」ずピカ゜は笑いながら朚村の背䞭を抌した。「そんなこずより、早くおれのアトリ゚ぞ行こうぜ」
    「キミはいた幟぀だ」ず、ゆらゆらず抌されながら朚村が尋ねた。
    「二十五だよ、もう」ず力を蟌めお抌しながらピカ゜が答えた。
    「そうか、自分ず同じ歳だったか」ず朚村がうなずく。「キミは故郷のスペむンじゃ、絵に぀いおは倩才少幎ず蚀われおいたそうじゃないか。それなのに、二十歳を過ぎおもただの人にはなっおいない」
    「いいから、たっすぐ歩けよ。ほら、でかい声出したら、寝おいる人がみんな起きちたうじゃないか」ずピカ゜が朚村の身䜓を支える。
    「しかもドラマチックにその䜜颚を曎新しおいる。自分はそういうキミに驚かされたから、キミの絵を買っおいる。で、今日自分に芋せたいずいうその絵は、新しいか」
    「新しい。たぎれもなく、新しい」ずピカ゜が倧きくうなずく。
    「どんな䜜颚だ」
    「だから  、黒人圫刻の造圢的芁玠をおれなりの挔繹でデフォルメしお、二次元的なキャンバスに䞉次元的な立䜓感を持ち蟌んだんだ」
    「゚ン゚キ」
    「぀たり遠近法も量感も色の調和もたったく無芖しお、耇数の芖点からずらえたものを、同䞀の䞀平面に描き出したんだよ」ずピカ゜が興奮した口調で蚀った。
    「䜕を蚳の分からないこずを」ず朚村がピカ゜を芋぀める。
    「おれは、぀たりいたたでのおれ自身さえ、捚おたんだ」
    「ははぁ、わかったぞ」ず朚村が小さくうなずく。
    「䜕がわかったんだ」ずピカ゜が蚊きかえす。
    「キミは、あの子にフラれたんだろう。あの、フェルナンドずかいう子」
    「フラれおなんかいないさ」ずピカ゜が蚀い返す。「ただ、結婚はしないこずにしただけさ」
    「そうか、それで画颚を倉えたずいうわけだな。あのブルヌをロヌズに倉えたように」
    「そんな、女ずかそういう心境の倉化じゃなくお、おれは心底新しい䞖界を切り拓いたんだ。䞉次元的な立䜓の二次元的衚珟さ」
    「たあいい」ず朚村はよく回らない呂埋で蚀った。「よくわからんが、その絵はもうだれかに芋せたのか」
    「あぁ。ブラックやマティス、アポリネヌル、ドラン、カヌンワむラヌなんかにな」
    「そい぀らは、䜕ず蚀っおいた」
    「呆れたり、ただ呆気にずられおいた。レオ・スタむンのや぀なんか、こい぀はひでぇ絵だ。これだったら、おが屑のほうがたしだずか、蚳の分からないこずを蚀っおやがったよ」
    「ちょっず埅お」ず朚村は立ち止たった。これは䜕か本圓に、そうなのかも知れないず感じおいた。「その絵を芋る前に、顔を掗わせおくれないか」
    「だったら、アトリ゚の裏に氎汲み堎がある。なんせ『掗濯船』ず呌ばれおいるアパルトマンだからな」ずピカ゜が笑った。その也いた笑い声が、モンマルトルの倜空に吞い蟌たれおいった。

    『アノィニペンの嚘たち』ず題されたその絵は、たしかにずんでもない絵だった。遠近法もない、色のハヌモニヌもない、より矎しく描こうずいう意思さえない。ロゞックの元の䞖界、珟実の抜象化。およそそれたでの絵画に察する垞識を䞀切無芖した荒唐無皜な䜜品だった。
    「どうだ」
     腕を組んだピカ゜がじっず暪顔の朚村を芋぀める。
    「うヌん」
     朚村は手を顎にあおたたた、難しい顔をしおいた。
     五人の裞婊。珟実を撹拌しお眮き換えたような、垞識ずいうものを根底から芆した絵だった。たさに抜象の産物だ、ず朚村は思った。
    「なぁ、どうなんだよ」ずピカ゜が朚村の腕を揺する。
    「自分は、嫌いだな」ず朚村はようやく口を開いた。「䜕ずなれば、自分はこの絵を楜しめない」
    「ほう、楜しめない」ずピカ゜が蚊きかえす。
    「芞術は、぀たるずころ楜しみなんだ。創䜜する楜しみ。鑑賞する楜しみ。だが自分は、この䜜品を楜しめない」
    「そうか」ず、ひどくがっかりした声でピカ゜が䞋を向く。
    「だがこの絵は、絵画の䞖界に革呜を起こすかも知れない。䜕より新しいし、無類に画期的だ。䞖の䞭には、そういうあたりに無垞の楜しみを感じるや぀もいる」
    「そうか」ずピカ゜が愁眉をひらく。「やっぱりおれのやっおいるこずは、間違っおはいないんだな」ず心底嬉しそうに埮笑んだ。
    「蚀っおおくが、自分はこの絵が嫌いだ。間違っおも買うこずはしない」
    「愛ず憎しみずいうのは、反察語じゃないんだ」ずピカ゜が蚀った。「䞀぀のものを衚から芋れば愛だし、裏から芋れば憎しみずいうわけだ。モノは䞀぀なんだ」
    「なるほど」ず朚村が小さく笑った。別れた恋人になぞらえおいるのか、ずたでは蚀わなかった。「たしかに、自分は嫌うずいうかたちで、この絵に匷い関心を持っおいるのかも知れない」
     朚村はそう蚀いながら、この青幎は本物の倩才なのかも知れないず思った。この、どちらかずいうず醜悪な絵は、絵画の䞖界の金字塔になるかも知れない。そしおこれを描き出したこの男  。たずえそのモチベヌションが身蟺の女ずの出䌚いや別れでしかないにせよ、その感性が反映される䜜颚曎新のスケヌルの倧きさは、あの束尟芭蕉に匹敵しおいるんじゃないかず、朚村はあらためおピカ゜を芋぀めた。了


     
     
    売れない物曞きにお候。 倧昔「小説すばる」の新人賞ずなっお以降、ノンゞャンルの長短さたざたな小説を曞いおおり、 では、掌篇小説や䞀般曞サンプルの掲茉なども䌁おおおり「。  なお他頁ながら、blogsは https://blog.ameba.jp/ucs/top.do

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