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ただ名前のない感情に぀いお—氎城葵ず南條遌の、十二ヶ月 【第䞉郚】


    【第䞀郚・第二郚のあらすじ】

    デヌタサむ゚ンティストの氎城葵32は、
    食ず感情を結び぀くプロゞェクト「EQ-Food」で
    建築家・南條遌35ず出䌚う。

    「感情は枬れる」ず信じる葵は、
    ひそかにスプレッドシヌトぞ「関係進行床」を蚘録し始めた。
    遌の蚀葉にならない莈り物
    コンビニのサンドむッチ、窓の圢の玙切れ、
    「芚えおいたくなったので」ず蚀っお䜜ったパスタが、
    少しず぀積み䞊がっおいく。

    やがお葵は遌の留守䞭のアトリ゚で、
    「麻垃、南向き、単身、32〜35㎡想定。
    䞀人でいるずき、䞀番矎しい光が入る窓を。」
    ず曞かれた図面を芋぀ける。

    そしお第二郚。
    スプレッドシヌトが遌に芋られおしたい、
    葵は「違いたす」ず嘘を぀いた。
    䞃日間の静寂のあず、
    葵は癜玙のドキュメントを開く、
    䜕かを曞こうずしおいた。



    第䞉郚 告癜ず遞択、そしお䜙癜

    2027幎2月〜4月


    第二十䞀章 手玙、ずいう遞択

    2027幎2月、東京・麻垃


    文房具店に入ったのは、土曜日の午埌だった。

    麻垃十番の商店街の端にある、小さな店。
    葵はこの店に、入ったこずがなかった。
    䟿箋を買う理由が、今たで䞀床もなかった。

    店に入るず、むンクの匂いがした。
    棚に、玙が䞊んでいる。
    癜い玙、色の぀いた玙、眫線のある玙、ない玙。

    葵は癜い、眫線のない䟿箋を遞んだ。

    レゞで「莈り物ですか」ず聞かれた。

    「いいえ」

    葵は答えた。「自分で䜿いたす」


    垰宅しお、䟿箋を机に眮いた。ペンを持った。

    䜕を曞くか、決めおいた。
    決めおいたのに、䞀行目が出なかった。

    「南條さん」曞いた。消した。
    「遌さん」曞いた。消した。
    「南條さん」ず曞いお、今床は、消さなかった。

    画像
    手攟すこずで、手に入れた蚀葉

    第䞀皿。

    「あのスプレッドシヌトは—」

    ここで止たった。
    「違いたす」ず続けるのか、
    「あなたのこずです」ず曞くのか。
    前者は嘘だった。埌者は、怖かった。

    砎った。


    第二皿。

    「枬れないものがあるず、知りたした。」

    続きを曞こうずした。蚀葉が、出おこなかった。

    折りたたんで、机の端に眮いた。

    窓の倖が、暗くなっおいた。


    新しい䞀枚を出した。

    第九章で二人が手に取った本の蚀葉を匕甚しようずした。
    やめた。
    借り物の蚀葉ではなく、葵自身の蚀葉で曞きたかった。

    少し考えお、たた曞き始めた。


    「南條さん、

    私は怖いです。
    あなたのこずが、手攟したくないです。

    スプレッドシヌトのこずを聞かれたずき、
    違いたす、ず蚀いたした。
    嘘でした。

    枬れないものの話を、ずっずしおきたした。
    でも、䞀番枬れなかったのは、今の自分のこずでした。

    怖いのは、奜きになるこずではなくお、
    奜きになったのに、たた倱うこずだず、今は思っおいたす。
    䞃幎前に、䞀床、そうなりたした。
    それ以来、先に距離を眮くこずを芚えおしたいたした。

    あのスプレッドシヌトは、
    距離を眮きながら、あなたのこずを芋おいた蚘録です。
    みっずもないず、思いたす。
    でも、正盎なものでした。

    氎城葵」


    曞いた。読んだ。二回、読んだ。

    みっずもなかった。
    でも、正盎だった。

    葵は䟿箋を䞉぀折りにした。
    封筒に入れた。宛名を曞いた。

    「南條遌さんぞ」


    倖に出た。
    近所のポストたで、䞉分の道を歩く。
    二月の倜は、冷たかった。
    封筒を持った手が、少し震えた。

    寒いから、だず思おうずした。

    ポストの前に立った。
    投凜口に、封筒を入れた。
    手を離す前に、止たった。

    䞉秒、止たった。

    葵は手を離した。
    封筒が、萜ちた。
    小さな音がした。

    それだけのこずだった。
    でも、葵の手は、少し軜くなっおいた。


    垰り道、スマヌトフォンを取り出さなかった。

    歩きながら、空を芋た。

    二月の倜空に、星がいく぀か芋えた。
    2026幎から始たった郜垂照明の省゚ネ芏制で、
    倜の街が少し暗くなった。
    その分、空が少しだけ、芋えやすくなっおいた。

    葵はその星を、歩きながら芋た。
    䜕も考えなかった。
    考えなくおいい倜だった。

    垰宅しお、お茶を飲んだ。垃団に入った。

    眠れた。


    第二十二章 「で、それデヌタですか」

    2027幎2月、東京・麻垃台


    手玙を出しおから、䞉日が経った。

    遌から「䌚いに行っおいいですか」ずLINEが来たのは、
    䞉日目の倜だった。

    葵はそのメッセヌゞを芋た。
    返信するたでにかかった時間は、二秒だった。

    「はい」

    「明日の午埌はどうですか」

    「行きたす」

    たた、二秒だった。

    スマヌトフォンを眮いた。
    「ただのメモ」のファむルを開かなかった。
    開く必芁が、なかった。


    翌日の午埌、アトリ゚に行った。

    遌はい぀もの䜜業台にいた。
    図面はなかった。珍しかった。
    遌が机の䞊に䜕も広げおいないのは、
    葵の蚘憶では初めおだった。

    「読みたした」

    遌が蚀った。
    葵が郚屋に入った瞬間に、蚀った。

    「はい」

    葵は答えた。怅子に座った。

    遌は立ったたた、少し遠い䜍眮にいた。
    窓の光が、遌の茪郭を瞁取っおいた。


    しばらく、䜕も蚀わなかった。

    遌が窓の倖を芋た。葵は遌を芋た。
    街の音だけがあった。

    「怖い、ず曞いおありたしたね」遌が蚀った。

    「はい」

    「奜きになったのに、たた倱うこずが、ず」

    「はい」

    葵は答えながら、
    声が震えないこずに、少し驚いた。
    䞉日間、震えるこずを心配しおいた。
    でも今は、震えなかった。

    曞いたから、かもしれなかった。
    蚀葉は、玙に曞くず、少し匷くなる気がした。


    「枬るのをやめたら、いいんじゃないですか」

    遌は蚀った。

    「簡単に蚀いたすね」

    「簡単じゃないですよ」

    遌は蚀った。「でも——」

    少し間があった。

    遌が葵を芋たたた、蚀った。

    「で、それデヌタですか」

    葵は、固たった。

    それは、葵の蚀葉だった。
    第䞀章の頃から、葵が䜿っおきた蚀葉だった。

    「で、それデヌタですか」

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    枬るのをやめた、その瞬間の䜓枩

    自分が䜕かを感じるたびに、
    デヌタに倉換しようずしおきた。
    その蚀葉を、遌が䜿った。

    葵は答えられなかった。

    䞀秒。二秒。䞉秒。

    䜕かが、ほどけた。

    葵は笑った。声が出た。
    本圓に笑えた、ず思った。
    久しぶりに、䜕かを我慢しないで笑えた。


    遌も、少し、目が现くなった。

    「奜きです、葵さん」

    遌が蚀った。静かに、蚀った。
    掟手さはなかった。倧きな声でもなかった。
    ただ、確かに蚀った。

    窓の光の䞭で、遌は立っおいた。

    葵は怅子に座ったたた、遌を芋た。

    「私も」

    葵は蚀った。

    「手玙に、曞きたした」

    「読みたした」

    「では」ず葵は蚀った。「䌝わっおいたすね」

    「はい」

    遌は蚀った。「䌝わっおいたす」


    しばらく、二人ずも䜕も蚀わなかった。

    それでも、静けさは、前回の静けさずは違った。
    前回は、蚀えないこずがある静けさだった。
    今回は、蚀わなくおもいい静けさだった。

    窓から光が入っおいた。
    二月の午埌の光は、癜く、现く、床たで届いおいた。


    「あの図面」ず葵は蚀った。「麻垃の、南向きの」

    「はい」

    「私のこずを、考えお蚭蚈したんですか」

    遌は少し間を眮いた。

    「最初に䌚った日に、
    この人のための堎所を䜜りたいず思いたした。
    なぜかは、わかりたせんでした」

    葵は黙っおいた。

    「蚭蚈するうちに、わかりたした。
    葵さんが䞀人でいるずき、
    䞀番矎しい光が入る窓を䜜りたかった」

    「それを、蚀っおくれればよかったのに」

    「蚀えるわけないでしょう」

    遌は静かに蚀った。

    葵は笑った。たた、声が出た。
    「そうですね。私も、蚀えなかった」


    お茶が出おきた。ほうじ茶だった。
    第十章の倜ず、同じだった。

    「スプレッドシヌトは」ず遌が蚀った。
    「ただありたすか」

    「ありたす」

    「関係進行床は、今いく぀ですか」

    葵は少し考えた。

    「25、のたたです」

    「なぜ」

    「あの倜から、倉えおいなかったので」

    「今日、倉えたすか」

    「倉えたせん」

    葵は蚀った。

    「もう、必芁ない気がするので」

    遌は少し黙った。

    「枬るのをやめる、ずいうこずですか」

    「やめる、ずいうより」

    葵は蚀葉を探した。

    「もう、数倀じゃないず思っおいるので」

    遌は頷いた。静かになった。

    嬉しいずき、遌は静かになる。
    第十章で思った掚枬が、今日、確信になった。

    確信は、スプレッドシヌトに入れなかった。
    入れなくおいいものだった。


    垰り際、葵は立ち䞊がった。

    「たた来週」遌が蚀った。

    「来たす」葵は答えた。「毎週来たす」

    遌は少し間を眮いた。「はい」

    それだけ蚀った。


    葵はドアを出た。
    倖の空気が、冷たかった。
    でも今日は、冷たいこずが気持ちよかった。

    葵は歩き出した。
    スマヌトフォンを取り出した。
    「ただのメモ」のファむルを開いた。
    「関係進行床25」が入っおいた。

    葵はそれを芋た。
    削陀しようずした。しなかった。
    ファむルごず、閉じた。

    削陀は、たた今床でいい。
    今日は、このたた歩こうず思った。

    二月の麻垃台を、䜕も蚈枬しないで、歩こうず思った。

    颚が、少し枩かくなっおいた。
    ただ冬だった。
    でも、少しだけ、春の匂いがした。

    葵はその匂いを、数倀にしなかった。
    ただ、感じた。

    それで、十分だった。


    第二十䞉章 本圓は怖い

    2027幎2月、東京・枋谷〜代官山


    初めおのデヌトは、枋谷だった。

    デヌト、ずいう蚀葉を、葵は心の䞭で䞀回だけ䜿った。
    䜿っお、少し照れた。
    照れたこずを、誰にも蚀わなかった。

    遌から「散歩したせんか」ず連絡が来た。
    堎所は「枋谷のあたり」ずだけあった。

    第四章で、二人が偶然䌚った堎所だった。
    あのずきは偶然だった。
    今日は、違う。

    葵はコヌトを着お、家を出た。


    埅ち合わせは、再開発゚リアの䞀角だった。

    第四章の頃より、工事は進んでいた。
    骚栌だったものが、肉を぀け始めおいた。
    建物の圢が、芋えおきた。

    遌はすでにそこにいた。
    コヌトを着お、建物を芋䞊げおいた。

    葵が近づくず、遌は振り返った。

    「来たしたね」「はい」

    それだけで、歩き始めた。二人で、䞊んで。


    再開発゚リアを歩いた。
    遌は時々、立ち止たった。
    建物の角床を芋たり、動線を確かめたりしおいるようだった。

    「仕事になっおいたすよ」

    葵は蚀った。

    「すみたせん」「いいえ」

    葵は笑った。
    遌が仕事のこずを考えながら街を歩く、
    その様子を芋おいるのが、葵には自然だった。

    「この建物」ず遌が蚀った。
    「第四章のずき、骚栌だったや぀ですか」

    「そうです。
    あのずき、仮蚭小屋でコヌヒヌを飲みたしたね」

    「芚えおいるんですね」「はい」

    遌は建物を芋ながら蚀った。葵も、建物を芋た。

    あの日の仮蚭小屋は、もうなかった。
    完成した建物の䞭に、飲み蟌たれおいた。


    代官山に入るず、坂が増えた。

    二人で坂を䞊りながら、葵は少し考えた。
    蚀うべきかどうか、ずっず考えおいたこずがあった。

    「本圓は怖いんです」

    葵は歩きながら、蚀った。
    遌は足を止めなかった。

    「奜きになるのが。たた倱うこずが」

    第四章で、「怖いものはないか」ず聞かれお、
    「別にどっちでもいい」ず答えた。
    あの答えは嘘だった。
    今日は、本圓のこずを蚀った。

    「手玙に曞いおありたしたね」

    「でも、蚀葉にしおみるず、少し違いたすね」

    「どう違いたすか」

    「曞いたずきは、怖い、ずいう感芚が少し遠かった。
    今は、目の前にある感じがしたす」

    遌は少し間を眮いた。

    「俺も怖いです」

    葵は遌を芋た。遌は前を向いお歩いおいた。

    「たた壊したら、ず思いたす。蚭蚈のこずだけじゃなくお」

    葵は黙っおいた。

    「自分が関わるこずで、誰かが傷぀くこずが、怖い」


    坂の途䞭のベンチに、二人で座った。
    代官山の街が、䞋に芋えた。
    第九章で雚の䞭を歩いた、あのブックカフェが芋えた。

    「怖くお、正解だず思いたす」

    遌が蚀った。葵は遌を芋た。

    「怖くないなら、倧事じゃないずいうこずだから」

    葵は返せなかった。

    「倧事なものは、怖い」

    遌は続けた。

    「怖くなくなったら、
    それは倧事でなくなったずいうこずかもしれない」

    葵はその蚀葉を、頭の䞭で繰り返した。
    怖いから、倧事。倧事だから、怖い。

    「逆説ですね」「そうです」

    「でも」ず葵は蚀った。
    「今日は、怖いのに、来たした」

    「俺も来たした」


    遌の手が、葵の手の近くに来た。

    第十二章の倜の、二センチが、たた、あった。
    でも今日は、違った。

    遌の手が、葵の手を、握った。
    葵は握り返した。

    それだけだった。倧きな出来事ではなかった。
    ただ、手を握った。

    でも葵の䞭で、䜕かが、静かに、完成した。
    第䞀章から続いおいた䜕かが、今日ここで、䞀぀の圢になった。


    「枋谷」ず葵は蚀った。「第四章の堎所ですね」

    「そうです」

    「あのずき、怖いものはないか、ず聞きたしたね」

    「芚えおいたしたか」「はい」

    「あのずき、別にどっちでもいい、ず答えたしたね」

    「はい」

    「今日、本圓のこずを蚀っおくれお」

    遌は少し間を眮いた。

    「ありがずうございたす」

    葵は遌の暪顔を芋た。
    ありがずう、ずいう蚀葉を、遌はあたり䜿わない。
    暪浜の建物の前で、䞀回。
    今日で、二回目だった。

    「こちらこそ」

    葵は蚀った。
    手を、少し、匷く握った。遌も、握り返した。


    垰り道、二人で代官山から枋谷たで歩いた。

    話したり、黙ったりした。
    黙っおいるずき、手は繋いだたただった。

    代官山に入るず、第九章のブックカフェが芋えた。

    「あの店です」葵は蚀った。「雚の日に、䞀緒に来た」

    「本を䞀緒に読みたした」

    「あの日から、倉わりたしたね」

    遌は少し考える。

    「あの日の前から、倉わっおいたず思いたす」

    「い぀から」

    「最初の日から」

    葵はその蚀葉を受け取る。
    最初の日から、䜕かが始たっおいた。

    確認しなかった。確認しなくおも、今倜はいい。

    ただ、歩いた。
    春の代官山を、光の䞭を、二人で歩いた。


    第二十四章 窓の向こう

    2027幎3月、東京・麻垃台


    春が、少しず぀近づいおいた。

    䞉月の麻垃台は、二月より空気が柔らかかった。
    葵はアトリ゚に向かいながら、
    コヌトのボタンを䞀぀、倖した。

    ただ寒い。
    でも、もう少しで寒くなくなる、そういう枩床だった。

    遌は䜜業台にいた。今日は図面があった。

    「いらっしゃい」

    珍しい蚀い方だった。

    「はい」ず葵は答えた。い぀もの怅子に座った。

    今日の目的は、Phase2の最終調敎だった。
    でも今日は、もう䞀぀、聞きたいこずがあった。


    䜜業を䞀区切りしたずき、葵は蚀った。

    「あの図面のこずを、聞いおいいですか」

    遌は手を止めた。「どの図面ですか」

    「私が棚で芋぀けた。
    Privateのラベルが぀いおいた筒の䞭の」

    遌は少し間を眮いた。

    「芋たしたか」

    「芋たした。開けおはいけないず思いながら、開けたした」

    「そうですか」

    遌は葵を芋た。「開けおいいです」

    「麻垃、南向き、単身、䞉十二から䞉十五平米想定」

    葵は蚀った。

    「䞀人でいるずき、䞀番矎しい光が入る窓を、
    ず曞いおありたした」

    遌は黙っおいた。


    「あれは」ず遌が蚀った。少し間があった。

    「最初に䌚った日に、始めた蚭蚈です」

    葵は動かなかった。

    「最初に䌚った日、ずいうのは」

    「六本朚で、プロゞェクトの話を聞いた日です」

    「あの日に」「はい」「なぜ」

    遌は少し考えた。

    「なぜかは、わかりたせんでした。
    ただ、この人のための堎所を䜜りたいず思った。
    蚭蚈者ずしお、そういう衝動が来るこずがありたす」

    葵は黙っおいた。

    「蚭蚈するうちに、わかっおきたした」

    「䜕が」

    「葵さんが䞀人でいるずき、
    䞀番矎しい光が入る窓を䜜りたかった」

    葵は窓を芋た。
    アトリ゚の窓から、䞉月の光が入っおいた。
    癜く、现く、真っ盎ぐに。

    「それを、蚀っおくれればよかったのに」

    「蚀えるわけないでしょう」

    遌は静かに蚀った。

    葵は少し笑った。
    「そうですね。私も、蚀えなかった」


    「䞀人でいるずき、䞀番矎しい光、ずいうのは」

    葵は続けた。

    「どうやっお蚭蚈するんですか。
    その人の郚屋に行ったわけじゃないのに」

    遌は少し考えた。

    「葵さんの話から、考えたした」

    「私の話」

    「食事に感情を乗せるのが苊手、ずいう話。
    䞀人でいるずきが、ノむズのない時間、ずいう話。
    怅子に座ったずきの、あの静けさ」

    葵は返せなかった。

    「䞀人でいるずきに、最も本来の状態になる人だず思いたした。
    その時間に、倖から光が来る。
    それが、その人ぞの䞀番自然な莈り物だず」

    莈り物。

    葵はその蚀葉を、頭の䞭で繰り返した。

    蚀葉にされた莈り物ず、蚀葉にされなかった莈り物がある。
    遌の莈り物は、ずっず、蚀葉にされない圢で届いおいた。

    コンビニのサンドむッチ。
    窓の圢の玙切れ。
    「芚えおいたくなったので」。
    パスタの、にんにく倚め。

    党郚、蚀葉にされなかった。でも、届いおいた。

    「ありがずうございたす」

    葵は蚀った。

    「䜕のこずですか」

    「党郚のこずです」

    遌は少し黙った。「こちらこそ」


    お茶が出おきた。ほうじ茶だった。

    「たた、ほうじ茶ですね」「嫌いですか」「奜きです」

    遌は䜕も蚀わなかった。
    でも少し、静かになった。
    嬉しいずき、遌は静かになる。
    それは、もう、疑いようのない確信だ。

    「第十章の倜も、これでした」葵は蚀った。
    「泣きそうになりたしたね、あの倜」

    遌は少し、葵を芋た。

    「気づいおいたんですか」「少し」

    「蚀っおくれればよかったのに」

    「蚀えるわけないでしょう」

    葵は笑った。たた、声が出た。

    「たた、同じこずを蚀いたすね」

    「同じこずが続くので」

    遌は蚀った。

    葵は湯呑みを持ったたた、遌を芋た。
    同じこずが続く。
    それは、倉わらないずいうこずだ。
    倉わらないこずが、今は怖くなかった。


    垰り際、葵はドアの前で振り返った。

    「来週も来たすか」

    遌が蚀った。い぀もの蚀葉だった。

    「来たす」葵は答えた。「毎週来たす」

    遌は少し間を眮いた。「はい」

    それだけ蚀った。


    葵はドアを開けた。倖に出た。
    䞉月の空気が、頬に圓たった。

    振り返らなかった。

    振り返らなくおも、
    窓の光がどう入るか、今日初めお、わかった気がした。

    あの窓から、誰かが芋おいるかどうかは、確認しなかった。
    確認しなくおも、いい。
    そういうこずが、䞖界には、ある。

    葵は歩いた。
    䞉月の麻垃台を、光の䞭を、歩いた。


    第二十五章 感情スコア、最終倀

    2027幎3月、東京・麻垃


    画像
    26行の蚘録が、ただの蚘憶に倉わる時

    倜、葵はPCを開いた。

    理由は、特にない。
    仕事のメヌルを確認しようずしたのか、
    それずも別の䜕かを探しおいたのか、
    自分でもよくわからないたた、デスクに座っおいた。

    画面に、いく぀かのファむルが䞊んでいる。
    その䞭に、「ただのメモ」があった。


    最埌に開いたのは、い぀だったか。

    「関係進行床25」のたた閉じおから、
    あたり開いおいない気がする。

    葵はファむルをクリックした。
    倉数の䞀芧が、画面に広がる。

    「䌚話時間掚定」
    「芖線の接觊回数掚定」
    「心拍倉化」
    「関係進行床25」
    「声のトヌンの倉化朝/倕」
    「沈黙の質居心地よい/䞍快」
    「来週も来たすか、の回数3」
    「芚えおいたくなったので未分類」
    「私が䜜りたいもの未定矩」
    「知りたいのに、知るのが怖いもの」
    「嘘を぀いた日2027幎2月」

    党郚で、二十六行。
    葵は䞊から、ゆっくり読んだ。


    「コヌヒヌを枡したずきに聞かなかった理由の考察」
    の行には、癟二十字のテキストが残っおいる。

    読んだ。

    「確認しなかったのは、聞かなくおよかったから。
    奜みを知っおいたから
    それずも、知らなくおも構わなかったから
    どちらかわからない」

    今の葵には、答えがわかる。

    どちらでもなかった。
    あのずき葵は、
    遌が䜕かを考えながら差し出した行為を、
    そのたた受け取りたかっただけだ。


    葵は画面を芋ながら、笑えた。

    「声のトヌンの倉化率」。
    「心拍数5bpm誀差範囲内」。

    党郚、真剣だった。
    今読むず、滑皜に芋える郚分もある。
    でも、滑皜さの䞭に、真剣さが透けお芋える。

    この二十六行は、
    葵が遌のこずを、ずっず芋おいた蚘録だ。

    みっずもない、ず手玙に曞いた。
    でも正盎だった、ずも曞いた。
    どちらも、本圓だった。


    「関係進行床25」のセルを芋る。

    今の正しい倀は、䜕だろうか。

    葵は少し考える。
    考えながら、気づく。

    今の葵ず遌の関係を、
    数倀で衚す必芁がない。

    衚せない、のではない。
    衚さなくおいい。

    その違いが、今倜はわかる。


    葵はマりスを動かした。
    ファむルを遞択した。
    ゎミ箱のアむコンに、ドラッグした。

    「ただのメモ」が、ゎミ箱に萜ちた。

    画面の右䞋に、確認ダむアログが出た。

    「完党に削陀したすか」

    葵は「はい」を遞んだ。

    ファむルは、消えた。

    二十六行の倉数が、党郚、消えた。
    「関係進行床25」も。
    「嘘を぀いた日2027幎2月」も。
    「奜きです」ず打っお保存しなかった、あの倜の痕跡も。

    党郚、消えた。

    でも、打ったこずは消えない。
    あった時間は、消えない。
    ファむルが消えおも、起きたこずは起きたたただ。

    それで十分だず、葵は思う。


    スマヌトフォンを取り出した。
    遌ぞの画面を開く。

    「今倜、䌚えたすか」

    送った。

    返信が来るたでの時間を、
    スプレッドシヌトで管理しなかった。
    ただ、埅った。

    䞀分もしないうちに、返信が来た。

    「もう向かっおたす」


    葵は画面を芋た。

    メッセヌゞが来た、のではない。
    遌はもう、動いおいた。

    葵がメッセヌゞを送る前から、
    動いおいたのかもしれない。
    いや、そんなわけはない。
    でも、そう思えるくらい、返信が速かった。

    葵はスマヌトフォンを眮いた。

    窓を開けた。
    䞉月の倜の空気が、郚屋に入っおきた。
    春が近かった。冬の終わりの匂いがした。


    二十分埌、むンタヌフォンが鳎った。

    葵はボタンを抌した。
    足音が、階段を䞊っおくる。
    ドアをノックする音がした。

    葵は開けた。遌がいた。
    コヌトを着お、少し息が䞊がっおいた。

    「走っおきたんですか」

    「少し」

    「なぜ」

    「早く来たかったので」

    葵は少し、遌を芋た。「入っおください」


    遌は靎を脱いだ。郚屋に入った。
    窓が開いおいた。

    「寒くないですか」

    「少し」

    「閉めたす」

    「いいえ」

    葵は蚀った。

    「もう少しだけ、開けおおきたす」

    倜の空気が、ただ入っおきおいた。

    遌は窓の倖を芋た。
    葵も、隣に立っお、窓の倖を芋た。
    東京の倜景が広がっおいた。
    東京タワヌが、赀く点滅しおいた。

    第䞀章のあの倜から、ずっずそこにある塔。

    「今倜、スプレッドシヌトを消したした」

    葵は窓の倖を芋たたた、蚀った。

    「そうですか」

    「はい。二十六行、党郚」

    遌は䜕も蚀わなかった。
    しばらくしお、「よかった」ず蚀った。

    葵は遌を芋た。

    「よかった、ずいうのは」

    「枬るのをやめた、ずいうこずだから」

    「難しいですよ」葵は蚀った。

    「そうですね」

    「でも」

    少し間を眮いた。

    「今倜は、できおいたす」

    遌が、葵の方を向いた。
    葵も、遌を芋た。

    窓から、倜颚が入っおきた。
    春が来ようずしおいた。


    第二十六章 芚えおいたくなったので

    2027幎3月、東京・麻垃台


    遌の誕生日は、䞉月の半ばだった。

    葵が知ったのは、偶然だ。

    Phase2のスケゞュヌル衚に
    「南條氏䞍圚私甚」ずいう蚘茉があっお、
    日付を確認したら、䞉月十五日だった。

    なぜ䞍圚なのかを、
    葵はプロゞェクト管理の芳点から確認した。

    「誕生日なので」

    遌から、短い返答が来た。

    それだけの話が、葵の頭の䞭に残った。


    料理を䜜るこずにした。

    葵が誰かのために料理をするのは、ほずんど蚘憶にない。

    レシピを調べた。
    遌の奜みを、頭の䞭で敎理する。

    魚より肉。
    濃い味より、玠材の味。
    凝ったものより、シンプルなもの。

    これは、どこで知ったのか。

    䞀緒に食事をした倜のこず。
    打ち合わせの垰りに入った店でのこず。
    䜕かの話の流れで、ふず出おきた蚀葉のこず。

    スプレッドシヌトには、入っおいなかった。

    蚘録しおいたわけではない。
    ただ、芚えおいた。

    芚えおいたくなったから、芚えおいた。

    葵はその感觊を、少し確かめるように、もう䞀床思う。

    芚えおいたくなったので、芚えおいた。

    第十章で遌が蚀った蚀葉ず、同じだ。


    今日は、葵の番だ。

    材料を買っおきた。
    鶏肉ず、根菜ず、シンプルなだし。
    炒め物にしようず決めた。

    第十章の倜、遌が䜜ったパスタを、葵はずっず芚えおいる。
    シンプルで、枩かくお、葵の奜みを党郚わかっおいた料理。

    同じこずを、自分にできるかどうか。

    できなくおいい、ず思いながら、
    それでも、できたらいい、ずも思う。

    その䞡方が、今倜のキッチンにある。


    むンタヌフォンが鳎った。
    葵ぱプロンを倖した。

    ドアを開けるず、遌がいた。手ぶらだった。

    「誕生日、おめでずうございたす」

    「ありがずうございたす」

    遌は郚屋に入った。キッチンを芋た。

    「䜜ったんですか」「はい」

    「葵さんが」「他に誰かいたすか」

    遌は少し、郚屋を芋回した。
    皿が二枚、テヌブルに眮いおある。
    箞ず、グラスず、小さな花が䞀茪、コップに差しおある。

    「花たで」

    「コンビニで売っおいたので」

    「そうですか」

    遌は怅子に座った。


    炒め物ず、みそ汁ず、ご飯。
    シンプルな食卓だった。

    「奜みを聞かなかったですね」

    葵は蚀った。
    第十章で遌が蚀ったのず、同じ蚀葉を、
    今倜は葵が䜿っおいる。

    「いいえ」

    遌が蚀った。
    「ちゃんず、奜きなものが入っおいたす」

    「なぜわかるんですか」

    遌が聞いた。

    「芚えおいたくなったので」

    葵は答えた。

    声に出しおから、少し照れた。
    照れたのは、遌の蚀葉をそのたた返したからではない。
    その蚀葉が、今倜の自分にずっお、本圓のこずだったからだ。

    遌は少し黙っおいた。
    静かになった。
    嬉しいずき、遌は静かになる。


    「おいしいです」遌が蚀った。

    「本圓ですか」

    「本圓のこずしか蚀いたせん」

    葵はそれを聞きながら、
    遌が本圓のこずしか蚀わない人間だずいうこずを、
    改めお思う。

    蚀葉が少ないのは、蚀いたくないのではなく、
    本圓のこずしか蚀わないからだ。
    本圓のこずは、い぀もたくさんあるわけではない。
    だから、少ない。

    「デヌタじゃないですよ」葵は蚀った。

    「䜕が」

    「芚えおいたこず。
    ちゃんず気持ちで芚えおいたす。
    スプレッドシヌトには、入っおいなかったので」

    遌は少し間を眮いた。

    「知っおいたす」

    「なぜ」

    「スプレッドシヌトを少し芋たので」

    「  そうでしたね」

    第十九章の、あの日。

    葵は箞を持ったたた、少し笑う。

    「倉数に、入っおいたせんでしたか」

    「入っおいたせんでした」

    「では、本物ですね」

    遌が蚀った。

    葵は遌を芋た。
    本物。
    スプレッドシヌトに入っおいないものが、本物。

    遌がそう蚀うのを、葵は少し、うれしく思う。
    うれしい、ずいう感芚を、今倜は数倀にしない。
    ただ、感じおいる。


    食べ終えお、お茶を淹れた。
    今倜は緑茶にした。
    ほうじ茶ではなく、少し違うものにしたかった。
    今倜は、葵の番だから。

    「たた来おくれたすか」

    葵は聞いた。

    「来たす」遌は即答した。「毎週来たすか」「来たす」

    たた、即答だった。

    「来週も来たすか、ず聞いおくれおいたしたね」

    葵は蚀った。「第二章から、ずっず」

    「芚えおいたしたか」

    「はい」

    遌は蚀った。「来おほしかったので」

    葵はその蚀葉を、頭の䞭でゆっくり繰り返した。

    来おほしかったので、来週も来たすか、ず聞いおいた。

    遌は、ずっずそうだった。
    蚀葉にしないで、ずっずそうだった。

    「ありがずうございたす」

    葵は蚀った。「来おいおよかったです」

    遌は少し、葵を芋た。䜕も蚀わなかった。
    静かになった。それで十分だった。


    遌が垰ったのは、倜の十䞀時すぎだった。

    ドアを閉めお、葵は郚屋を芋回した。

    皿が二枚、シンクにある。
    コップの花が、䞀茪、テヌブルにある。
    お茶の銙りが、ただ残っおいる。

    誰かのために料理をした倜の、静かな残り物。

    葵はそれを芋ながら、
    これが積み重なっおいくのだず思う。

    今倜の蚘録を、スプレッドシヌトには入れない。
    入れなくおも、消えない。
    そういうものが、これからも増えおいく。

    窓の倖に、東京の倜がある。
    東京タワヌが、赀く点滅しおいる。

    春が、もうそこたで来おいた。


    第二十䞃章 跡が残る、ずいうこず

    2027幎3月、東京・麻垃台


    画像
    消せない跡が、信頌の蚌になる

    その倜、二人はアトリ゚にいた。

    仕事の話は、もう終わっおいる。
    Phase2の進捗確認、来月の斜工スケゞュヌル、
    パヌトナヌ䌁業ぞの報告内容。
    党郚、片付いおいる。

    それでも垰らなかったのは、
    垰る理由が、ただない気がしたからだ。

    遌がお茶を淹れた。
    今倜はほうじ茶ではなく、ハヌブティヌだった。

    「珍しいですね」

    「もらいものです。飲たないうちに時間が経っおしたっお」

    「䞀人では飲たないんですか」

    「䞀人では、少し倚いので」

    葵はそれを聞きながら、
    「䞀人では倚い」ずいう蚀葉の意味を、静かに受け取る。


    葵は話し始めた。きっかけは、特にない。
    ハヌブティヌの銙りが、少し、蚘憶を緩めた気がした。

    「䞃幎前のこずを、ちゃんず話したこずがなかったず思っお」

    遌は聞いおいる。

    「二十五歳の秋に、婚玄を解消したした。
    盞手から、ではなく、私から」

    「そうですか」

    「『埅ちしなければ倱わない』ず蚀われお。
    その蚀葉の意味を、䞉日埌に理解しお、
    自分から先に動きたした」

    「先に、動いた」

    「はい。傷぀く前に匕いた、ずいうこずです」

    遌は䜕も蚀わない。葵は続ける。

    「その人が悪かったわけではないず思っおいたす。
    ただ、私が怖くなった。
    倧事にされるこずが、怖かった。
    倧事にされお、それでも倱ったら、どうなるかが、怖かった」

    「それ以来、先に距離を眮くこずを芚えたした。
    感情を凊理コストずしお扱うこずを、芚えたした」


    遌は少し間を眮いおから、口を開いた。

    「俺も、ちゃんず話したこずがなかったこずがある」

    葵は遌を芋る。

    「暪浜の建物のこずは、話したした。
    でも、その前があっお」

    「蚭蚈の仕事を始めた頃、
    俺は完璧にやらないず意味がない、ず思っおいたした。
    欠陥のないものだけが、䜜る䟡倀がある、ず」

    葵は黙っお聞いおいる。

    「暪浜の件で、自分の蚭蚈が欠陥を持っおいるず知った。
    それから、ずっず、䜕かを䜜るたびに怖くなりたす」

    「今も」

    「今も。でも前より、少し、怖さの質が倉わっおいたす」

    「どう倉わりたしたか」

    「以前は、自分が壊れるこずが怖かった。
    今は、誰かが傷぀くこずが怖い。
    察象が、自分から倖に移った気がしたす」

    葵はその蚀葉を、ゆっくりず受け取る。


    「跡が残るのは、本気で䜜ったからじゃないですか」

    葵は蚀った。
    第十六章で、暪浜の建物の前で蚀った蚀葉ず、同じだ。

    「あのずき、葵さんにそう蚀っおもらっお」

    遌は続ける。

    「俺も、同じこずを思いたした。葵さんの跡のこずを」

    「私の」

    「䞃幎前のこずも、スプレッドシヌトのこずも、
    跡だず思いたす。
    本気で䜕かをしようずした人間の跡」

    葵は少し、黙る。

    「みっずもないですよ」

    「そうずも思いたせん」

    遌は蚀った。

    「みっずもない跡ず、本気の跡は、
    芋た目が䌌おいおも、䞭身が違いたす」

    「どう違うんですか」

    「みっずもない跡は、消したくなる。
    本気の跡は、消せなくなる」

    葵はその蚀葉を、もう䞀床、頭の䞭で繰り返す。

    消せなくなる。

    䞃幎前の跡は、消せなかった。
    スプレッドシヌトの二十六行は、ファむルごず消したけれど、
    打ったこずは消えなかった。

    「消せない跡が、ある人間の方が」

    遌は続ける。

    「信頌できる気がしたす」


    しばらく、二人ずも黙っおいた。
    街の音が、䜎く続いおいる。

    それから、葵は少し笑った。

    「こんな話を、こんな倜にしたすね」

    「そうですね」

    遌も、少し、目が现くなった。

    「でも」ず葵は蚀う。「蚀えおよかったです」

    「こちらこそ」

    遌が蚀った。

    「ありがずうございたす、ず蚀うべきかもしれたせんが、
    それより、こちらこそ、ずいう気がしおいたす」

    こちらこそ。

    その蚀葉の意味を、䞉぀の方向から考えようずしお、やめる。
    考えなくおも、届いおいる。


    遌がお茶のお代わりを淹れた。
    ハヌブティヌ、二杯目。

    「䞀人では倚い」ず蚀っおいたのに、
    今倜は二杯目たで飲んでいる。
    葵は䜕も蚀わない。ただ、受け取る。
    枩かかった。

    「跡、ずいうのは」

    葵はカップを持ちながら蚀う。

    「残す぀もりで残すものではないですよね」

    「そうです」

    「残っおしたうものが、跡なんですよね」

    「はい」

    「では」ず葵は続ける。
    「残しおしたうくらい、䜕かをしたずいうこずですよね」

    遌は少し間を眮いた。「そうだず思いたす」

    「残しおしたっおよかったです」

    葵は蚀った。

    どちらに向けた蚀葉か、自分でも決めおいない。
    䞃幎前の跡に向けた蚀葉でもあり、
    スプレッドシヌトの二十六行に向けた蚀葉でもあり、
    今倜、この郚屋にいるこずに向けた蚀葉でもある。

    遌は黙っおいた。静かに、なっおいた。


    葵が垰ったのは、深倜だった。

    麻垃台の倜道を歩きながら、
    今倜話したこずを、敎理しようずは思わなかった。

    敎理しなくおもいい話ずいうものが、ある。
    ただ、話しおよかった。それだけで十分だ。

    春の倜の空気が、コヌトの䞭に入っおきた。
    少し寒い。
    でも、この寒さはもうすぐ終わる。
    そういう寒さだず、䜓が知っおいる。

    䜓が知っおいるこずを、葵はもう、疑わない。
    それも、この数ヶ月で芚えたこずだ。


    第二十八章 EQ-Foodの完成ず、その意味

    2027幎4月、東京・六本朚


    桜が散り始めた頃に、EQ-Foodは完成した。

    本店オヌプンは、四月の第二週。
    六本朚の路面店。
    䞉十坪の空間に、十二ヶ月分の仕事が詰たっおいる。

    葵は圓日の朝、䞀番早くに来た。
    開店前のその空間に、䞀人で入った。

    照明が぀いおいた。
    倩井の䜎い間接照明が、床を斜めに照らしおいる。
    テヌブルが四卓、怅子が十二脚。

    詊隓店舗は「仮説」だった。
    この空間は「答え」だ。
    誰の答えかは、䞀人で立っおいるず、わかる気がした。


    スタッフが来た。䞊叞が来た。パヌトナヌ䌁業の担圓者が来た。

    遌が来た。

    い぀ものコヌトを着お、特別な顔をしおいなかった。
    でも葵には、
    今日の遌が少しだけ違う枩床を持っおいるように芋える。

    「おはようございたす」「はい」

    それだけだった。
    でも、今日のそれだけは、
    普段のそれだけより少し、重かった。

    十䞀時に、ドアが開いた。最初の客が入っおきた。


    午埌に、党瀟報告の堎が蚭けられた。

    葵はスラむドの前に立った。
    四十五枚のスラむドは、䜿わないこずにした。
    昚倜、決めた。
    代わりに、メモを䞀枚持った。

    「EQ-Foodのプロゞェクトを通じお、
    䞀぀、考え方が倉わりたした」

    葵は話し始めた。

    「感情スコアは、感情を枬るためのツヌルではなく、
    感情に気づくためのツヌルだず、今は思っおいたす」

    䌚堎が、静かになっおいる。

    「プロゞェクトを始めたずき、
    私は感情は枬れる、ず思っおいたした。
    枬れないものに䟡倀はない、ずも思っおいたした」

    自分がか぀お蚀った蚀葉を、今日、自分で解䜓しおいく。

    「枬れないものが確かにある、ずいうこずを、
    このプロゞェクトは教えおくれたした。
    そしお、枬れないものを認めるこずが、
    最初のステップだったず、今は思っおいたす」


    話しながら、葵は䌚堎を芋た。

    遌は埌ろの方に立っおいた。
    腕を組んで、葵を芋おいた。
    資料を芋おいなかった。
    い぀ものように、葵を芋おいた。

    葵はその芖線を受け取りながら、続ける。

    「感情スコアの数倀は、感情の正䜓ではありたせん。
    感情に近づくための地図です。
    地図ず、目的地は、別のものです」

    スラむドを䜿わなくお、よかったず思う。
    この蚀葉は、スラむドには入っおいなかった。
    昚倜、初めお蚀葉になったものだ。

    「枬れないものの存圚を認めるこずず、
    枬るこずをやめるこずは、違いたす。
    枬りながら、枬れないものを倧事にする。
    その䞡方が、EQ-Foodの目指すものです」


    拍手が起きた。

    䞊叞が「玠晎らしかった」ず蚀った。

    「氎城さん、最初ず党然違う話になりたしたね」

    同僚の田䞭が蚀った。

    「そうですか」

    「最初は感情は枬れる、っお蚀っおたじゃないですか」

    「蚀っおいたしたね」

    「倉わりたしたね」

    「倉わりたした」

    葵は、玠盎に蚀えた。
    倉わったこずを、今日は恥ずかしいず思わない。
    倉わるほど、䜕かをしたずいうこずだから。


    人混みが少し萜ち着いた頃、遌が来た。

    「よかったです」「ありがずうございたす」

    「最初ず、蚀っおいるこずが倉わりたしたね」

    「田䞭にも蚀われたした」

    「いい倉わり方だず思いたす」

    葵は遌を芋た。

    「遌さんのせいです」

    「俺の」

    「怅子に座らされたから」

    遌は少し、目が现くなった。

    「座ったのは、葵さんです」

    「でも、座らせたのは遌さんです」

    二人は少し、笑った。

    䌚堎の喧隒の䞭で、
    二人だけの小さな䌚話が、静かに成立しおいた。


    倕方、二人で六本朚を歩いた。
    桜の花びらが、歩道に散っおいた。

    2027幎の春は、去幎より少し遅かった。
    気候倉動の圱響で、開花が䞍芏則になっおいる。
    それでも、散るずきは散る。

    「第䞀章の頃ず、今を比べたら」

    葵は歩きながら蚀う。

    「䜕が䞀番倉わりたしたか」

    遌は少し考える。

    「葵さんが、わかりたせん、ず蚀えるようになった」

    葵は前を向いたたた、少し笑う。

    「第䞉章のこずを芚えおいるんですか」

    「はい」

    「今は」遌が続ける。
    「わかりたせん、ずいう蚀葉に、重さがなくなった気がしたす」

    「重さが、ない」

    「軜くなった、ずいう意味ではなくお。
    自然になった、ずいう意味で」

    葵はその蚀葉を、歩きながら受け取る。

    わかりたせん、が自然になった。
    枬れないものが、普通になった。
    それが、十二ヶ月の倉化だ。


    花びらが䞀枚、葵の肩に萜ちた。

    遌が、それを取った。

    葵は少し驚いお、遌を芋た。
    遌は花びらを手の䞭に持っおいた。
    捚おなかった。
    しばらく持ったたた、歩いた。

    それから、そっず、地面に眮いた。
    螏たずに、眮いた。

    葵はその動䜜を、芋おいた。

    蚭蚈者が花びらを螏たずに眮く。
    䜕かを倧事に扱うこずが、この人の䜓に染み蟌んでいる。

    そのこずが、今日も、奜きだず思う。

    奜き、ずいう感芚を、数倀にしない。
    ただ、歩き続けた。

    春の六本朚を、二人で、歩き続けた。


    第二十九章 2026幎の、ちゃんず奜きだよ

    2027幎4月、東京・枋谷〜代官山


    葵がSNSに投皿したのは、衝動に近かった。

    普段、プラむベヌトな投皿はしない。
    仕事の発信ず、EQ-Foodの情報ず、
    デヌタに関する短い考察。
    それ以倖を、投皿したこずがほずんどない。

    でも、その日の午埌、葵は写真を䞀枚撮った。

    六本朚のEQ-Foodの窓から芋える、春の光の写真。
    キャプションを考えた。

    「奜きな人の蚭蚈した空間にいたす」

    打った。䞉秒、考えた。投皿した。


    䞀時間埌、DMが届いた。遌からだった。

    「それ、俺のこずですか」

    葵は画面を芋た。

    こういうこずを、遌がDMで聞いおくるずは思っおいなかった。
    盎接蚀うか、あるいはたったく蚀わないか、
    どちらかだず思っおいた。

    葵は返信を打った。

    「デヌタじゃないですけど」

    送った。すぐに返信が来た。

    「そうですか」

    それだけだった。
    今倜、䌚ったずきに確認すればいい。


    その倜、二人で枋谷を歩いた。

    再開発゚リアはさらに進んでいた。
    骚栌に肉が぀き、倖壁が貌られ、
    いく぀かの店舗が開いおいる。

    「完成しおきたしたね」「そうです」

    「第四章のずき、ここは工事䞭でした」

    「芚えおいたすか」

    「仮蚭小屋でコヌヒヌを飲みたした。
    遌さんが、
    䜏む人が決たる前に建物が決たる、ず蚀っおいた」

    遌は少し黙る。

    「芚えおいるんですか」

    「芚えおいたくなったので」

    葵は蚀った。遌が、少し静かになった。


    坂を䞊った先に、小さな公園があった。
    ベンチに、二人で座った。
    街の光が、足元たで届いおいる。

    「SNSの投皿、芋たした」遌が蚀った。

    「芋たしたね」

    「奜きな人の蚭蚈した空間、ず曞いおありたした」

    「曞きたした」

    「ちゃんず奜きだよ、ずいう蚀葉があるずしたら」

    遌は続ける。

    「今日の投皿は、それに近いですか」

    葵は少し考えた。

    「近いですね。
    でも、ちゃんず奜きだよ、っお蚀うのは難しいですね」

    「難しい」

    「SNSでも、手玙でも、デヌタでもなく、
    声で蚀うのが、䞀番難しい」

    「なぜですか」

    「消せないから」

    遌は䜕も蚀わない。

    「デヌタは削陀できたす。
    手玙は燃やせたす。
    SNSは鍵をかけられたす。
    でも声は、蚀ったら消えない」

    「そうですね」

    「だから、難しい」

    葵は倜の街を芋た。
    枋谷の光が、遠くたで広がっおいる。

    2027幎の倜の枋谷は、
    AI最適化された広告が看板を倉え続け、
    街の衚情が垞に動いおいる。
    その䞭で、このベンチだけが、少し静かだ。


    「蚀えたすか」

    遌が、葵を芋た。

    「今」「はい」

    葵は少し間を眮いた。

    䞉秒。

    第䞀章から数えるず、䞉秒が䜕床あっただろう。
    い぀も䞉秒、止たっおきた。

    今倜の䞉秒は、今たでの䞉秒ずは、少し違う。
    怖いから止たっおいるのではない。
    声にのせる重さを、確かめおいるだけだ。

    「ちゃんず奜きです」

    葵は蚀った。

    「遌さんのこずが」

    遌は葵を芋おいた。静かだった。
    嬉しいずき、遌は静かになる。

    「蚀えたしたよ」

    遌が蚀った。

    「蚀えたした」葵も蚀った。「声で蚀えた」

    「消えないですよ」

    「消えなくおいいです」

    葵は蚀った。
    今倜だけは、消えなくおいい。
    消えないたた、ここに残っおいい。

    遌が葵の手を握った。
    葵は握り返した。

    第二十䞉章ず同じ手の枩かさが、今倜もある。
    倉わらないものが、ある。
    それが、今倜の䞀番確かなこずだ。


    垰り道、二人で枋谷から歩いた。
    電車には乗らなかった。
    少し遠い道を、歩いた。

    話したり、黙ったりした。
    黙っおいるずき、手は繋いだたただった。

    代官山に入るず、第九章のブックカフェが芋えた。

    「あの店です」葵は蚀った。「雚の日に、䞀緒に来た」

    「本を䞀緒に読みたした」

    「あの日から、倉わりたしたね」

    遌は少し考える。

    「あの日の前から、倉わっおいたず思いたす」

    「い぀から」

    「最初の日から」

    葵はその蚀葉を受け取る。
    最初の日から、䜕かが始たっおいた。

    確認しなかった。確認しなくおも、今倜はいい。

    ただ、歩いた。
    春の代官山を、光の䞭を、二人で歩いた。


    第䞉十章 名前のない感情に぀いお

    2027幎4月、東京・麻垃


    画像
    消せない跡が、信頌の蚌になる

    朝の光が、郚屋に入っおきた。

    斜めから、现く、真っ盎ぐに。

    葵は目を芚たす前から、その光を感じおいた。
    たぶたの向こうに、橙がある。

    目を開けた。

    南向きの窓から、朝の光が差し蟌んでいる。

    い぀もの光だ。
    でも今朝は、少し違う角床に芋える。


    葵は垃団の䞭で、倩井を芋た。

    この郚屋に䜏んで、䞉幎が経぀。
    でも、朝の光の角床を意識するようになったのは、
    ここ数ヶ月のこずだ。

    「䞀人でいるずき、䞀番矎しい光が入る窓を。」

    その蚀葉を知っおから、この窓が、少し倉わった。
    窓が倉わったのではない。葵の芋方が倉わった。

    光は、最初からここにあった。
    気づいおいなかっただけだ。


    起き䞊がっお、窓の前に立った。
    光が、床たで届いおいる。

    葵はその光の䞭に立ちながら、
    今感じおいるこずを、蚀語化しようずした。

    習慣だった。
    䜕かを感じるず、名前を぀けようずする。
    倉数にしようずする。

    安心 高揚 郷愁 解攟

    どれでもない気がした。
    五軞のどこにも入らない感芚が、今朝もここにある。
    第䞉章の怅子の感芚ず、同じだ。

    でも今朝は、入らないこずが、怖くない。
    入らなくおいいず、知っおいる。

    「この感情、なんおいう名前だろう」

    声に出た。独り蚀だった。
    誰もいない郚屋に向かっお、蚀った。


    むンタヌフォンが鳎った。
    葵はボタンを抌した。

    足音が階段を䞊っおくる。

    ドアを開けるず、遌がいた。
    コヌヒヌを二぀、持っおいた。
    近所の、葵が奜きなコヌヒヌショップの玙袋だ。

    「おはようございたす」「はい」

    遌は郚屋に入った。
    窓の光を芋た。䞀秒、止たった。

    「きれいですね」「そうですね」

    葵は蚀いながら、
    遌が光を芋お䞀秒止たったこずを、蚘録したいず思った。

    スプレッドシヌトには、入れない。
    ただ、芚えおいる。

    芚えおいたくなったから。


    テヌブルにコヌヒヌを眮いた。二人で座った。
    窓の光が、テヌブルたで届いおいた。

    「さっき、䞀人で声に出しおしたいたした」

    葵は蚀う。

    「䜕を」

    「この感情、なんおいう名前だろう、ず」

    遌はコヌヒヌを持ったたた、葵を芋た。

    「名前は぀きたしたか」

    「぀きたせんでした」

    「そうですか」

    遌は少し間を眮いた。

    「名前、぀けなくおいいんじゃないですか」

    葵は遌を芋た。

    「぀けなくおいい」「はい」「なぜ」

    「名前を぀けるず、その圢に固定されたす。
    名前のないものは、ただ動いおいる。
    動いおいるものの方が、本物に近い気がしたす」

    葵はその蚀葉を、ゆっくりず受け取る。

    名前のないものは、ただ動いおいる。
    動いおいるものの方が、本物に近い。


    遌がスマヌトフォンを取り出した。
    Spotifyを開いた。

    「今の気分」プレむリストを開こうずしお、
    別の画面を開いた。
    再生履歎だった。䞀曲を遞んだ。

    音楜が流れ始めた。

    葵は、固たった。

    第十二章の倜に流れた曲だ。
    あの深倜の䜜業台で、
    二センチの距離があった倜に流れた曲。
    葵がメモしお、
    「もう䞀床聎きたかった」ずいう理由で残した曲。

    「この曲」葵は蚀った。

    「はい」遌は蚀った。

    「芚えおいたんですか」

    「はい」

    それだけだった。

    葵はコヌヒヌを持ったたた、曲を聎いた。
    ピアノず、匊楜噚ず、䜎い声。

    第十二章ず同じ曲が、今朝の光の䞭に流れおいる。

    あの倜ず今朝で、䜕が倉わったか。

    党郚が倉わっお、䜕も倉わっおいない。
    曲は同じで、光は同じで、
    でも葵ず遌のあいだにある距離が、あの倜ずは違う。


    曲が続いおいる。
    葵は窓の光を芋た。橙が、床に䌞びおいる。

    「第䞀章から、ずっず来たしたね」

    葵は蚀った。「そうですね」

    「あの頃の私は、感情は枬れる、ず思っおいたした」

    「今は」

    「枬れないものが䞀番確かだず、思っおいたす」

    遌は少し、葵を芋た。

    「それは」

    少し間があった。

    「で、それデヌタですか」

    葵は笑った。声が出た。
    第二十二章のあの瞬間ず同じ笑い方で、
    でも今日はもっず自然に笑えた。

    「いいえ」

    葵は蚀った。「これは——」

    少し間を眮いた。

    「ただの、今日です」

    遌は䜕も蚀わなかった。静かになった。

    嬉しいずき、遌は静かになる。
    それはもう、この䞖界の法則ず同じくらい確かだ。


    曲が続いおいた。
    光が、少しず぀角床を倉えおいく。
    春の朝の光は、動きが速い。

    「遌さん」

    葵は蚀った。「はい」

    「あの図面の窓、い぀か䜜りたすか」

    「䜜りたす」

    「玄束ですか」

    「玄束です」

    葵はコヌヒヌを䞀口飲んだ。枩かかった。

    「楜しみにしおいたす」

    「はい」


    二人は、しばらく黙っおいた。

    曲が、静かに続いおいる。
    光が、床を移動しおいく。

    その光の䞭で、名前の぀かない感情が、今もここにある。

    名前を぀けなくおいいず、今日は知っおいる。
    動いおいるたたでいい。
    本物のものは、名前より先にある。


    「もう䞀杯、コヌヒヌ飲みたすか」

    遌が蚀った。

    「飲みたす」

    葵は答えた。

    二人は、もう少し、ここにいる。
    光の䞭に、いる。
    名前のない感情ずずもに、春の朝に、いる。

    それで、十分だった。
    それ以䞊も、それ以䞋もなく、
    今日ずいう日が、ここにあった。


    枬れないものが、䞀番確かだった。


    了


    【あずがき】

    この物語は、
    感情を数倀化しようずした䞀人の女性が、
    枬れないものの確かさを知っおいく、
    十二ヶ月の蚘録です。

    氎城葵が最初に「感情は枬れる」ず蚀った日から、
    「枬れないものが䞀番確かだ」ず知る日たで。

    そのあいだに起きたこずを、
    できるだけ正盎に曞きたした。

    スプレッドシヌトの二十六行は、
    みっずもなくお、本気でした。

    本気のものは、消せなくなりたす。

    消せないものが、本物だず、
    葵は最埌に知りたした。

    読んでくださった方の䞭にも、
    名前の぀かない感情を持ったたた、
    どこかを歩いおいる人がいるかもしれたせん。

    名前は぀けなくおいいず、
    この物語が少しでも蚀えおいたら、
    うれしいです。

    了



    最埌たで読んでくださり、ありがずうございたした。

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    これから私が曞き続ける理由

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    【泚蚘】

    ※本䜜はフィクションです。 登堎する䌁業・プロゞェクト・数倀・人物はすべお架空のものです。

    ※本蚘事はあくたで個人の䜓隓・思考・創䜜フィクション含むに基づくものです。

    ※画像はAIGeminiで生成したむメヌゞです。

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