
「天使のマカロン」 episode5 星集めの天使の宝箱
🕊️「天使のマカロン」episode5
星集めの天使の宝箱
君が
ときどき星を拾ってきては
宝箱にしまっていることを
ぼくはずっと知っていた。
正確には
君が「星」と呼んでいる「何か」だし
君の宝箱は
古びた木箱だった。
何度も開け閉めされたのだろう。
留め金は少し歪んでいて
今にも外れてしまいそうだ。
君はそれを気にも留めないくせに
愛おしそうに箱を眺めている。
むしろ
箱そのものが好きなんじゃないかと
ぼくは疑うほどだ。
「見てもいい?」
ぼくが尋ねると
君は少しだけ考えてから
箱を差し出した。
中には
何も入っていないように見えた。
「空っぽ」
「そうかな?」
窓辺に置かれた紅茶から
白い湯気が立ちのぼる。
どこかで
鐘の音がした。
「ほら」
君は箱の中を覗いたまま言う。
「1020年前のの夕焼け」
「え?」
「あと、誰かが歩いた図書館の階段」
「それから
スカラおばあさんに星を譲ってもらった記念日」
「……」
「雪の日の匂いもある」
ぼくには
何も見えなかった。
「そう」
と言うと
君は少し困ったように笑った。
ぼくががっかりしたように
見えたのかもしれない。
「見えない星もあるから」
その時だった。
箱の奥で
何かが動いた気がした。
ぼくは思わず覗き込んだ。
けれど
やっぱり空っぽだった。
「今。」
「うん」
「何かいた?」
君は不思議そうな顔をした。
「最初からいたかもしれないし
あとから来たのかもしれない」
レースのカーテンが揺れた。
窓は閉まっていた。
「これ」
君が何かを差し出す。
「星」
ぼくは、星と呼ばれた「何」かを手に乗せた。
見えない。
でも。
何かがある。
たぶん。
それは
今までにも何度か
触れたことのある感触だった。
ありそうで
なくて
なさそうで
あるもの。
そんな感触。
「君も持ってるよ」
「宝箱?」
「うん」
「どこにあるの?」
君はなぜだか少し困った顔をした。
「どこだろうね」
ふいに
何かに呼ばれたように
君が立ち上がる。
「行かなきゃ」
「どこに?」
「星を拾いに」
「そんなに落ちてるもの?」
「さあ?」
君は笑って首を傾げた。
「でも、雨上がりは多い気がする。」
「どうして?」
「雨の日には
少し移動するから」
「何が?」
「いろいろ」
君の答えが返って来たと
思った時には
もう扉が閉まっていた。
窓辺には
飲みかけの紅茶。
読みかけの本。
それから
小さな羽根がひとつ。
ぼくはしばらく
その羽根を眺めていた。
あれは
君のものだったのだろうか。
それとも。
ずっと前から
そこにあったものなのだろうか。
ふと
木箱のことを思い出した。
そういえば。
箱の底に
小さな名前が刻まれていた気がする。
誰のものとも読めない
古い筆記体のような文字。
ぼくはあの時
あれを読んだだろうか。
読まなかっただろうか。
思い出せない。
窓の外では
夕暮れの空に
ひとつめの星が瞬いていた。
そして
そのすぐ隣に。
さっきまではなかったはずの
もうひとつの小さな光があった。
「天使のマカロン」SIDE STORY
Written by yucca