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【小説】空に残った線

 薄曇りの朝から、空は淡い青へと色を変えていった。
 十月の終わり。風は冷たく、銀杏の葉が金色の雨のように舞う。
 私はいつものように、古い団地の裏にある小さな公園のベンチに腰を下ろした。ここから見える空は、都会のどこよりも広くて、高くて、きれいだった。

 その日も、私は空を見上げていた。
 ベンチの横に落ちていた一枚の紙が、風に舞い上がる。拾い上げると、古い便箋だった。端が黄ばみ、インクは少し滲んでいた。

『空を見上げよ。
青いキャンバスに、境界線。
その先に、答えがある。
三日後の午後三時に。』

 裏には、おかしな向きで簡単な地図が描かれていた。公園の入り口から、銀杏の並木を通って、丘の上の古い展望台までの道筋。
 そして、最後に記された文字。

『君がここに来たなら、この手紙は届いたということだ。』

 私は思わず周囲を見回した。誰もいない。落ち葉がさらさらと音を立てるだけだった。

 三日後。
 私は午後三時に、丘の上の展望台に立った。秋の空は、まるで磨き上げたガラスのように澄みきっていた。遠くの山々までくっきりと見え、西の空にはすでに茜色が差し始めている。

 私は空を見上げた。
 青い空には飛行機雲がまっすぐと、北東から南西へ向かって伸びている。

 私は三日前に拾った便箋から例の紙を取り出して、裏の地図を広げた。それを空にかざして、ちょうど真ん中の折り目を飛行機雲に合わせる。
 おかしな向きだと思っていた地図が、目の前の景色とぴたりと重なった。
 さらに透けて見える紙の表側の文字。『答え』の文字に重なる景色。そこには公園の古いベンチが見えた。
 雲はゆっくりと薄れ、形を崩していく。
 西の空が急に深く茜色に染まった。
 その色に急かされるように、私はベンチへと向かった。
 落ち葉をかき分け、ベンチの下を探ると、小さな金属の箱が埋まっていた。
 蓋を開けると、中には一枚の古い写真と、手紙が入っていた。
 写真には、若い男女が写っていた。背景は、まさに今と同じ、澄みきった秋の空。
 手紙には、こう書かれていた。

『十年前の今日、私たちはここで別々の道を選んだ。
あの選択を後悔したことはない。
それでも、ときどき思う。
あのとき、違う選択をしていたら、私たちはどんな景色を見ていたのだろう、と。
けれど、こんなことを考えると「お前が選んだ道だ」と声が聞こえる気がして、言葉にできなかった。
だから、誰か託すことにした。
ただのイタズラだと思っていい。
誰かに話してもいい。
付き合ってくれてありがとう。
答え探しはこれでおしまいだ。』

 私は写真を握りしめ、再び空を見上げた。茜色がさらに濃くなり、やがて夕焼けが空全体を染め上げていく。
 飛行機雲は、もう跡形もなく消えていた。それでも、空は静かに、確かに、そこにあった。

 私は手紙を閉じ、ベンチに座った。
 風が、銀杏の葉をさらさらと運んでいく。
 秋の空は、今日も何も語らない。
 でも、確かに何かを残していた。


読んでくださりありがとうございます。

風まかせ文芸部用に書いてたけど間に合いませんでした。
1200字以内を目指していたけどオーバーしました。
字数制限の中で書くのって本当に難しいですね。

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