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幽哭院一家の団欒記録

    #創作大賞2026 #ホラー小説部門

    あらすじのご紹介

    オカルト調査員である「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎/(かくかくしかじか)」によって警告される、遭遇した者を強制的に家族へと取り込む異形の一家・幽哭院。身長3メートルを超える、その真っ黒な姿でときおり天井を這う彼らは、犠牲者のまぶたを切り取り、「幸せです」といった言葉を強要。短い資料が連続して提示される形式で綴られる記録は、いつしか読者をもその深淵へと引き摺り込む。瞬きを許されない恐怖の連鎖の果てに待つのは、狂気の再誕か、はたまた永遠の幸福か。読後、あなたの背後にも一家が立っているかもしれない。みんなでずぅっといっしょにいましょう。家族は、拒めないものです。

    -------------------------------------------------

    初めまして。

    そうでない数少ない皆様、こんにちは。

    その数少ない中でも更に、夜中にホラー小説を読むという末恐ろしい行為をしている限りに限られた皆様に当たりましては、こんばんは。

    ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と申します。

    「かくかくしかじか」とお呼びください。

    急いでおりますので私の挨拶はここまでにしておきまして。

    非常に突拍子のないことで申し訳ないのですが、幽哭院という一家についての注意喚起をさせていただきます。

    結論から申し上げます。

    彼らに遭遇しないでください。

    万が一、彼らに遭遇してしまった場合は決して彼らの家族になることのないようにお願い致します。

    非常に大事なことですので繰り返させていただきます。

    万が一、彼らに遭遇してしまった場合は決して彼らの家族に、幽哭院の一員になることのないようにお願い致します。


    彼らが人間ではないからです。

    貴方が元に戻れなくなってしまうからです。

    オヨメに行けなくなってしまうからです。

    どうか、協力していただけませんでしょうか。

    これ以上の一家の増加を防ぐためにも、どうか。

    どうか。

    どうか。

    ご協力をお願いします。

    彼らの家族になってしまったという場合には迅速な対処が求められます。

    1日以内にご自身のホンモノの家族と遭遇し、1年間常にホンモノの家族にミられている状態を作っていただく必要がございます。

    非常に残念ながら彼らは突然やってきてしまいます。

    そもそも遭遇しないことを最優先にした上で万が一遭遇してしまった場合には上記の対応を速やかに取ってください。

    貴方のせいで更なる一家の増加に繋がる恐れもございます。

    ご協力お願い致します。

    オヨメに行けなくなってしまうのはきっと貴方も嫌でしょうので。

    -------------------------------------------------

    ……いきなりこのような話をしてしまい申し訳ございません。

    少しだけ私が貴方にこのような話をするまでに至った経緯をお話しさせていただきましょうか。

    というのも、酷く哀しいことに私の友人がホンモノの家族に裏切られてしまったのです。

    先日、彼女は一家に遭遇してしまったのです。

    私から話を聞いた当初は冗談だと思っていたようだった彼女でさえそのあまりに禍々しい容姿をした一家を見たら信じざるを得なかったようで一目散に実家へと車を走らせたようです。

    ……と、ここで少し一家の容姿について触れておきましょうか。

    一家はそのどれもが身長3mほどあるいわゆる「バケモノ」であり、全身が真っ黒。

    手足も異様に長くTHE怪異といったような見た目をしています。

    あ、そうそう。

    一つお気をつけていただきたいのですが、私の属する「界隈」ではヘケヘケと呼ばれている殆ど同じ容姿の別の怪異の存在も証明されています。

    ※界隈とはオカルトの中でも特に実在することが確認されている事象、怪異に関する情報を集め、一般の方々に警告するという趣旨のグループです。

    こちらは「バケモノ」ではないのですが、極度の寂しがり屋なのか、遭遇後3分以上共にいてくれないとその人を殺してしまいます。幽哭院一家と比べますとその目撃回数の低さから未だ詳しいことは分かっていない状況でありますが、一家と比べますと非常に穏やかな存在であるといった見解に落ち着いております。

    ヘケヘケと一家を見分けるポイントはたった一つ。

    「家族になろう」と言われたらそれはもう一家です。

    「家族になろう」と言われたらすぐに逃げてください。

    貴方の許可を得られなくても。

    貴方がはいと言わなくても。

    彼らは貴方のことを家族としてすぐに歓迎してくれますよ。

    さ〜て、

    話が少し脱線してしまいました。

    私の悪い癖でございます。

    そろそろ話を戻しましょう。

    車を走らせてなんとかホンモノの家族に遭遇した彼女でしたが、それからは地獄というほかない生活を送っていたと思われます。

    彼女は彼女で常に寝たっきりの状態で。

    「それなりに」親しいホンモノの家族といえど常に誰かから視線を向けられて。

    家族も家族で交代を繰り返しながら常に彼女に視線を送って。

    ほんのコンマ数秒の瞬きすら許されないため、常に2人体制で見張っていたようです。

    暫くの間はこれで問題なかったようなのです。

    幽哭院一家の一員になることは実質的に人間としての死を意味します。

    まだ死にたくない彼女とホンモノの娘を死なせたくない家族。

    暫くの間はそれが形として成り立っていたようです。

    ……ですが。

    どうやら先に限界が来てしまったのは家族の方だったようです。

    ある夜、彼女が寝ている隙に「故意的に」目を離し……

    自ら殺した娘の姿。

    自ら裏切った娘の姿。

    それを視認した家族の感情は如何なるものなのでしょうか。

    ニセモノの家族へと成り下がってしまった感情は如何なるものなのでしょうか。

    次の日の朝、殺されたことも、裏切られたことも知らない純粋無垢な彼女の目の先では。

    新たなホンモノの家族が笑顔で歓迎してくれていました。

    闇に染まったその顔の。

    引き攣ったような笑顔。

    -------------------------------------------------

    私の友人はそれ以降とっても、とっても楽しそうです。

    ホンモノの家族ととっても、とっても愉快で楽しい生活を送っています。

    もうオヨメには行けなくなってしまいましたが……

    日々増えつづける両親と兄と姉と弟と妹。

    更には祖母や祖父、いとこ……

    はたまた、その先までと。

    それはそれは、とっても、とっても幸せな人生を歩んでいます。

    或る日ですね、彼女に子供が出来ました。

    実際に私も会ったのですが、とっても、とっても可愛い父親でした。

    おっきな、お〜っきなお目目がグリングリンとしていて。

    それはそれは、とっても、と〜っても大きく成熟していました。

    ちなみにですが、私は家族になってしまうギリギリで逃げてきました(笑)

    あ、皆さんは周囲の人間が幽哭院一家の一員になってしまった暁にはもう二度とそいつには会わないようにしてくださいね?

    そういうものなのだと諦めてくださいね?

    暫く連絡を取っていなかった人が幽哭院姓になっていた暁にはすぐにそんなやつのことなど忘れてくださいね?

    約束ですよ?

    決して会うことだけはしないでください。

    私は特別な訓練を受けているだけですのでね(笑)

    協力して家族にしましょう。

    みんなでずぅっと一緒にいましょう。

    家族は拒めないものです。

    ごめんね、舞。間に合わなかったよ。

    今更後悔してももう遅いよね。

    ごめんなさい。

    ありがとうございます。

    -------------------------------------------------

    さて。

    これから私はこの一家に纏わる情報をまとめていきます。

    この一家に纏わる情報は、主にインターネットを中心として出回っています。

    皆さんも是非探してみてください。

    私の知らない情報が見つかった暁には是非ご提供をお願い致します。

    探さなくても持っているという方がいらっしゃいましたら是非ともお話を聞かせていただきたく思います。

    随分と長くなりましたが前置きはここまでとさせていただきます。

    ごめんなさい。

    ありがとうございます。
    -------------------------------------------------

    ###01. 【2chオカルト板掲示板スレッドログ「玄関の前にバカでかい真っ黒いのが立ってるんやが」より】
    (現在は管理者によって削除されてしまっています)

    001:名無しの報告者
    お願いや、誰か助けてくれ。さっきから家の窓の外に、真っ黒で背の高いやつが立ってる。
    3、4メートルくらいはある。パッパもマッマも「あれは(ワイの本名)の新しいお兄ちゃんだよ」って言ってそいつを歓迎してドアを開けようとしてる。
    そんなわけない。ワイに兄貴なんていない。
    002:名無しの報告者
    >>>001 釣り乙wwwそんなデカいやつ入るわけないだろwww
    003:名無しの報告者
    ホンマに入ってきたんや。なんか関節が変な方向に曲がって、みしっ、みしって音を立てて天井を這ってる。
    マッマが笑いながら「ほら、あんたのお嫁さんだよ」ってワイの部屋に入れてきた。
    誰だよこれ。真っ黒で、顔が、顔が引き攣ってて……あ、こっちに手振ってる……嘘……嘘……指が、指がこっちまで……新築なのにみしりみしりって音が……四つん這いで玄関と俺の部屋を行ったり来たりしてる……やばい……マジでこれは絶対やばい……家が……家がどんどんおかしくなってる……声が聞こえる……聞き慣れた声だ……親の声か……?でも俺に親なんていたっけ……?母親なんていたっけ……?父親なんていたんだっけ……?ヤバ……吐きそう……………………………うわ……な……んだ……これ……あったかい……あったかくて……真っ赤な液体がこっちまで流れてきて……血じゃない……血じゃないけど赤い……でも鉄の臭いするな……心臓バクバクする……金縛りみたいになってて体が動かない……耳元で笑ってるみたいな甲高い声がして……………。呼ばれた……ワイの番か。
    007:名無しの報告者
    あのね。
    さっきまで怖かったんだけどね、今はすごく安心してる。
    お兄ちゃんね、すごく優しい。手が長くてね、僕の頭をずっと撫でてくれる。
    爪が少し食い込んで痛いけど、凄い「家族」なんだって思う。
    あの赤いのも最初はびっくりしたけどあったかくて美味しかった。
    苗字、今日から変わるんだって。
    ねぇ。みんなもこっちにおいでよ。
    すみません。
    間に合いませんでした。
    ありがとうございます。
    008:名無しの報告者
    >>>007
    イッチか?
    急にキャラ変すんなよ。
    009:名無しの報告者
    ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン ユウコクイン
    オヨメサン ミツケタ オヨメサン ミツケタ オヨメサン ミツケタ
    010:名無しの報告者
    >>>006
    もしかして、呼んでくださいましたか? 私もたった今、家族になったところです。
    背の高いお兄ちゃんが、私の目蓋を切り取ってくれました。
    これでずっと、家族を見ていられます。
    とっても。
    とっても。
    と〜っても。
    トッテモ。
    幸せです。
    011:名無しの報告者
    幸せです。
    012:名無しの報告者
    幸せです。

    (以下、略)

    (この後、完走に至るまでこのスレは「幸せです。」と言う文字列で埋め尽くされた。)

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    ###02. 【⬛︎⬛︎村・郷土資料館の未公開手記より】
    (⬛︎⬛︎県⬛︎⬛︎村にてフィールドワークを行っていた学者が残したとされる日記の断片。学者はその後、行方不明となっている。)

    (2018/3/17)
    村の老人たちが「幽哭院様」という言葉を口にし始めた。
    この村には最近、「客人を家族として迎え入れる」という過剰なまでの歓待文化が出来たらしいが、どうも様子がおかしかった。
    村外から来たボランティアの青年が、「村の集会所に泊まっていくように」と促された翌朝、彼の身長が明らかに伸びていた。
    関節が不自然に突出し、彼が歩くたびに「みしり、みしり」と、古い家屋の梁が軋むような音を立てていた。
    村人たちはそれを「立派な足取りになったものだ」と、涙を流して喜んでいた。

    (数日後の記述)
    確信した。あれは人間ではない。
    昨夜、村の広場で「オヨメ入り」の儀式を見た。
    花嫁衣装を着せられていたのは、先週まで村の小学校に通っていた少女だった。
    しかし、彼女の隣に立つ「新郎」は、真っ黒な影のような、優に3メートルはあろうかという異形だった。
    新郎が少女の耳元で何かを囁くと、少女の肌が急速に墨汁を流したように黒ずんでいく。
    少女は恐怖に震えるどころか、口角を耳元まで引き裂かんばかりに吊り上げ、「お父様、お母様、新しい家族をありがとう」と、聞いたこともないような野太い声で叫んでいた。

    (最後の記述:殴り書きで判読が困難だったものを復元。一部に誤りが含まれる可能性があります。ご了承ください。)
    私は過ちを犯してしまった。
    直ちに逃げなければならない。
    村の入り口に、新しい「門番」が立っている。
    私の母。
    天井に張り付くような姿勢で、異様に長い手足を使って村を囲う柵を愛おしそうに撫でている。
    私を見つけると、彼女はこう言った。
    私の父の声のように聞こえた。
    聞き慣れた声であった。
    「君も、私の息子にならないか? 幽哭院の苗字は、私達一家は、とても温かいぞ」
    嫌だ。私はオヨメにも、息子にもなりたくない。
    だが、もう瞬きができない。
    村中の「家族」が、私を、私だけを、じっと、じっと、じっと、見つめている。
    あぁ、あそこに立っているのは、私のホンモノの母親だろうか。
    あんなに背が高かっただろうか。
    あんなに、真っ黒だっただろうか。
    私に母などいたであろうか。
    私に父などいたであろうか。

    あれは全くの赤の他人ではないか。
    ねぇ、お母さん、どうしてそんなに笑っているの?
    ねぇ、どうして、そんなに大きな鋏を持っているの?

    あぁ。
    そっか。
    そうなのですか。
    それであれば。
    そうなのであれば。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    (これ以降、記述は途絶えている。ページの下部には、黒い指紋のような汚れが見られた。)

    -------------------------------------------------

    ###03.【⬛︎⬛︎村・防災行政無線 放送記録の復元データより】
    (2021年 8月15日 19時02分放送)
    (村内の各所に設置されたスピーカーから流れた音声の書き起こし。当時、村は大規模な停電に見舞われていたとされる。)

    「……こちら、⬛︎⬛︎村特異対策課です。
    村住民の皆様に、緊急のお知らせをいたします。
    現在、村内全域において、身元の確認できない新しい家族の目撃情報が相次いでおります。
    繰り返します。
    現在、村内全域において、身元の確認できない新しい家族の目撃情報が相次いでおります。
    身元の確認できない、背の高さが天井に届くほどの家族が、玄関先で入室を待っているとの通報が急増しています。

    住民の皆様は、直ちに戸締まりを確認し、決して、決してドアを開けないでください。
    玄関の入り口に盛り塩を設置し、お札を貼ることを推奨いたします。
    なるべく、彼らの姿を視認することもないように、窓に隙間なくお札を敷き詰めることを推奨いたします。
    もしも、外から『お父さんだよ』、『お母さんだよ』という声が聞こえても、それが3メートル上から聞こえる場合は、貴方の家族ではありませんので。

    (みしり、みしりという軋み音)

    あ……あぁ、
    なるほど。
    そうなのですか。
    失礼しました。
    訂正いたします。
    先ほど、役場内にお兄様が到着されました。
    とても、とても、真っ黒で、立派なお兄様です。
    村民の皆様、おめでとうございます。
    本日より、本村の全世帯は『幽哭院』の一員として合併されることとなりました。
    繰り返します。
    先ほど、役場内にお兄様が到着されました。
    とても、とても、真っ黒で、立派なお兄様です。
    村民の皆様、おめでとうございます。
    本日より、本村の全世帯は『幽哭院』の一員として合併されることとなりました。

    今から、お兄様が各ご家庭を回られます。
    お迎えの準備をしてください。
    瞬きを忘れて、目を見開いて待っていてください。
    もし、瞼が邪魔でよく見えないという方がいらっしゃいましたら、お兄様が優しく、ハサミで、取り除いてくださいます。
    繰り返します。
    今から、お兄様が各ご家庭を回ります。
    お迎えの準備をしてください。
    瞬きを忘れて、目を見開いて待っていてください。
    もし、瞼が邪魔でよく見えないという方がいらっしゃいましたら、お兄様が優しく、ハサミで、取り除いてくださいます。

    (音声が遠ざかる。)

    あぁ、お兄様、そんなに腕を伸ばして……私を抱きしめてくださるのですか?

    幸せです。
    とっても、幸せです。
    村中の皆で、一つになりましょうよ。
    オヨメさんも、息子さんも、もう足りないなんて言わせません。
    今、貴方の家の窓を叩いているその長い指は、新しい愛の形でございます。

    (激しい金属音と、何かが引き裂かれるような音)

    さぁ、開けてください!!
    家族が、帰ってきましたよ!!
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せだろ。
    早く幸せになれよ。
    我々は村民の皆様の幸せを心より願っております。
    我々は村民の皆様の幸せをこころより願っております。

    すみません。
    間に合いませんでした。
    ありがとうございます。
    」

    (以降、村の無線からは24時間にわたり、誰かが喉を鳴らして笑うような音声が流れ続けた)

    -------------------------------------------------

    ###04.【市立⬛︎⬛︎小学校・一年生作文集「たのしいかぞく」より】
    (2019年度 ⬛︎⬛︎小学校内の当時、一年生であった学級の文集の原本。現在は教育委員会により回収・破棄済み。本データは破棄直前にスキャンされた一部である)

    「かぞくって、なんだろう」    ゆうこくいん ⬛︎⬛︎(※注釈1)

    ぼくのかぞくは、さいきん、とってもふえました。
    まえは、おとうさんとおかあさんとぼくだけだったけど、いまは、おにいちゃんとおねえちゃんが10にんくらい、ぼくが5にんくらいいます。
    みんな、せがとってもたかいです。
    おとうさんは、いつも、てんじょうに あたまをぶつけながら「しあわせだね」といっています。
    おかあさんは、おめめをぱっちりあけて、ずっとぼくをみています。
    おかあさんは、もうなんにちも まばたきをしていません。すごいとおもいます。

    おにいちゃんは、まっくろで、てがとってもながいです。
    ぼくがねているときも、おにいちゃんは、てんじょうから ずっとぼくをなでてくれます。
    つめがちょっといたいし、ときどき「みしり、みしり」っておおきいおとがするけれど、ぼくは、しあわせです。
    ごはんのときは、みんなでまずは「あかいおみず」をのみます。
    おにいちゃんが、ぼくののどにゆびをいれて、もっとのめよといってくれます。
    とっても、あったかいあじがします。

    あした、せんせいも、ぼくのかぞくにしてあげようとおもいます。
    おにいちゃんが、「せんせいのまぶたも、きれいにとってあげようね。そうすれば、ずっと⬛︎⬛︎くんをみていられるよ」といっていました。
    みんなで、しあわせになりたいです。
    もうすぐ、がっこうのみんなも、みんな、ぼくのおにいちゃんとおねえちゃんになります。
    たのしみです。

    (担任教師のコメント:朱書きで、枠からはみ出すほど大量に記されている)
    ⬛︎⬛︎くん、とってもすてきな作文ですね。花丸をあげます。
    先生も、さっきお家にお邪魔して、お兄様に会いました。
    とっても、とっても、背が高くて、真っ黒で、お優しい方でした。
    先生のまぶたを、冷たく、大きなハサミで、丁寧に、丁寧に、切り取ってくださいました。
    もう、瞬きをしなくていいなんて、なんと幸せなことでしょうか。
    視界がずっと開けているから、⬛︎⬛︎くんのことが、今までよりもずっとよく見えますよ。
    先生も、今日から幽哭院になりますね。
    明日からは、学校のみんなも、校長先生も、用務員さんも、協力して家族にしましょうね。
    拒否権は絶対に作りません。家族は、拒めないものです。
    ごめんね⬛︎⬛︎くん、間に合わなかった。
    ありがとう。

    しあわせです。
    しあわせです。
    しあわせです。
    しあわせです。

    (※補足:この作文の裏面には、黒いクレヨンで紙が破れるほど強く塗り潰された、異様に手足の長い人型の絵が、当時のクラスの児童数と同じ24体描かれていた。さらに、回収された文集の全ページにおいては、児童全員の姓が「幽哭院」に書き換えられていたことが判明している。
    また、この文集が回収された際、当該クラスの児童および担任教師は全員行方不明となっており、教室の天井には、無数の黒い指紋と、人間のものと思われる剥がされたまぶたが、25組、整然と並べられていたという。)
    (※注釈1ゆうこくいん ⬛︎⬛︎くんの⬛︎⬛︎の部分に関しては元から伏字となっていました。)

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    ###05.【ネット内で出回っている決して読んではならないとされている文章】
    (以下は2chなどを中心に決して読んではいけない文章として広まっている文章の内容をそのまま掲載したものである。所詮、噂であるものの女子高生がこれを実際に朗読したところ、口にも出せないような悍ましい死に方をしたという話も出回っているため、閲覧にはご注意ください。
    ※声に出して読んでください。)

    『お空に届く 黒きお兄様
     お指を伸ばして 戸を叩く
     トントン トントン 開けなさい
     今日からお前も 幽哭院』

    『お目々をぱっちり お姉様
     銀のハサミで 皮を切る
     チョキリ チョキリ 瞬き忘れ
     ずっと私を 見ていなさい』

    『赤いお水で 乾杯だ
     喉に指入れ 流し込め
     ゴクン ゴクン あたたかい
     皆んなで飲めば 幸せだから』

    『みしり みしりと 骨が鳴る
     ぐんぐん伸びて 天へと届く
     天井突き抜け 頭をぶつけ
     真っ黒なお肌で 笑いましょ』

    『逃げたあの子は オヨメさん
     隠れたあの子は 息子さん
     長いおてては どこまでも
     暗い隙間から お出迎え』

    『歌えば 天井 影が差す
     歌えば 背後に 手が届く
     ほら もう お前の すぐそばで
     新たな家族 笑ってる 
     私の友達 笑ってる』

    『拒む言葉は 聞こえない
     「はい」と言わなきゃ 喉突く
     みんな みんなが 幽哭院
     死ぬより長く 幸せで』

    『さあさあ お顔を お上げなさい
     天井裏から 見ています
     まぶたを捨てて 笑いなさい
     今日からお前も 家族です』









    『幸せですね』

    -------------------------------------------------

    ### 追記(5.5) 【「界隈」における補足資料:ヘケヘケと幽哭院の生態比較】
    (オカルト研究コミュニティ「界隈」の内部共有メモより)

    「……最近、幽哭院一家とヘケヘケとを混同する事例が増えているが、これは極めて危険な兆候である。
    改めて両者の違いを整理する。

    【ヘケヘケ】
    ・外見:身長3m超で、全身黒色、手足が長い。ここまでは一家と同様である。
    ・性質:極度の寂しがり屋。遭遇者を見続けること、遭遇者に見られ続けることに固執する。
    ・生存条件:遭遇後3分間、目を逸らさずに共に過ごせば、満足して消える。
    ・殺害動機:無視されることへの悲しみ。
    ・特徴:彼らは一体一体が別の個体であり、増殖をしない。また、一家のように言葉を介さない。

    【幽哭院一家】
    ・外見:ヘケヘケに酷似しているが、決定的な違いはまぶたの欠如と、常に笑っているような口元。
    ・性質:捕食的かつ組織的。遭遇者を家族として取り込んでしまう。
    ・生存条件:現状、見つかっていないもしくはもとより存在しない。 遭遇した時点で家族へのカウントダウンが開始してしまうという見解で落ち着いている。
    ・殺害動機:復讐、および新たな子、あの子の再誕への妄信。
    ・特徴:明確に言語を操る。

    最近の報告では、ヘケヘケだと思って3分間見つめ続けた者が、実は一家の一員であり、その3分間でまぶたを切り取る準備を整えられてしまったという悲劇も起きている。
    ヘケヘケは寂しさで人を殺すが、一家は愛という名の呪いで人を造り変え、殺すのである。」

    -------------------------------------------------
    さて。
    ここまでいくつかの資料に目を通していただきましたが、皆様、何かお気づきになったことはございませんか?

    ここからは、私が独自に収集した更なる調査記録と、それに基づく私の推察を交えてお話ししましょう。
    幽哭院一家という存在が、なぜこれほどまでに家族に執着し、なぜあのような異形となったのか。
    その根源に触れるお話達です。

    -------------------------------------------------

    ### 06. 【未解決事件捜査資料:⬛︎⬛︎県ひき逃げ事件(2017年)】
    (当時の捜査担当者が個人的に残していた備忘録より抜粋)

    「……あの現場の死ぬほど恐ろしい光景は、今も目に焼き付いて離れない。悍ましい悪夢として今でも夢に出てくるほどだ。それほどまでにアレは強いトラウマを植え付けやがった。
    被害者は二人。二十代前半の女性と、その弟と思われる十代の少年。
    女性の方は近々結婚を控えていたそうで、現場にはボロボロになった婚約指輪が転がっていた。
    凄惨だったのは、その遺体の状態である。
    加害車両は二人を撥ねた後、止まることなく加速。二人を車体の下に巻き込んだまま、アスファルトの上を100メートル以上にわたって引き摺り続けた。
    遺体は、人間としての形を留めていなかった。
    手足は異様に引き伸ばされ、関節はあらぬ方向に曲がり、皮膚は摩擦で焼け焦げて真っ黒になっていた。
    特に指先は、必死に地面を掴もうとしたのか、爪が剥がれ、骨が露出するまで削り取られ、炭のように変色していた。

    だが、本当に恐ろしいのはそこではない。
    目撃者の証言によれば、事故直後、二人はまだ生きていたという。
    激痛に悶えながら、助けを求めて周囲に手を伸ばしていた。
    しかし、現場は夕暮れ時の交差点。多くの通行人、多くの通行車がいたはずなのに、それでも、誰もがそのあまりに無惨な姿から目を逸らし、関わりを恐れて、見て見ぬ振りをして通り過ぎた。挙げ句の果てには彼女らの遺体を更に轢き、トドメを刺すような通行車の姿まで監視カメラには映されていた。
    二人が完全に息絶えるまでの数分間、彼らは『誰にも見てもらえぬまま、誰からも助けてもらえぬ孤独の中で死んでいったのだ。

    そして、彼女が死亡した数分後、その遺体の傍らには、一人の男がいたそうだ。
    二人の父親であった。
    当時の目撃者によると彼は泣き叫ぶでもなく、ただ静かに、路上に広がった娘と息子の血を、掬い取っては啜っていたという。
    まるで、彼らの命を自分の中で繋ぎ止めようとするかのように。
    男は、通り過ぎる人々を、まぶたを一度も閉じずに見つめていた。
    その目は、憎悪という言葉では言い表せないほど、深く、暗かったらしい。」

    -------------------------------------------------

    ### 推察(一)

    ……いかがだったでしょうか。
    この事件の記録を読んだ時、私は背筋が凍るような感覚を覚えました。
    これまで見てきた資料の中の違和感が、すべて一本の線で繋がったような気がしてなりませんでした。

    まず、資料1にて登場した、あたたかい液体、資料4、資料5にて登場した彼らが執拗に勧める赤いお水。
    これは、あの路上に流れた血液、実の父親が啜っていたという血液そのものに違いないでしょう。
    父親にとって、それは失われゆく家族の命そのものでした。失われゆく家族の体温のあたたかみが彼にとっての救いだったのではないでしょうか。
    それを飲むことで、あるいは飲ませることで、彼は家族の繋がりを物理的に維持しようとしたのでしょう。

    そして、彼らが多用するオヨメ、息子という言葉。
    それらは、彼らが元々愛していた二人の子供達そのものでしかないでしょう。
    特にオヨメに関しては、実際に幸せな結婚を控えた一人の女性でした。
    残念ながらその未来は、あの一瞬の衝撃がすべて奪い去り、現場には虚しく黒く変色した薬指と本来そこに嵌められていたであろう結婚指輪が虚しく残されていたのであります。

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    ###07. 【精神科医の診察記録:患者 幽哭院 ⬛︎⬛︎様】
    (事件後の父親と思われる人物のカウンセリング記録)

    患者は一貫して、未だ独自の論理を展開している。
    あの子たちは、まだ生きている。ただ、形が変わってしまっただけだと。
    彼に人々のまぶたを切り取る理由について問うと、彼は激昂し、あいつらは、見なかった。あの子たちが苦しんでいる時、みんな目を閉じて、顔を背けた。だから、もう二度と目を閉じられないようにしてやるんだ。一生、私の家族の姿を、その目に焼き付けさせてやると、そう答えた。
    また、彼の描かせた家族の絵は、どれも異常に背が高く、手足が長い。
    それは、ひき逃げによって引き摺られ、無惨に引き伸ばされた子供たちの最期の姿を、彼が様式美として認識してしまった結果なのではないか。
    彼は、彼の心の中で増え続ける家族がいつかあの日死んだ二人が、元の姿で産んでくれることを本気で信じているようである。
    (幽哭院 ⬛︎⬛︎様の⬛︎⬛︎の部分につきましては、資料4の⬛︎⬛︎くん同様にもとより伏字になっていました。)

    -------------------------------------------------

    ### 推察(二)

    やはり、私には資料を読み解くにつれ、幽哭院一家のその異様な身体的特徴の正体が見えてくるような気がしてなりません。

    どうやら、彼らの身長が3メートルを超え、手足が異様に長いのは、私が当初考えていました怪異だからという理由ではなかったようです。

    -------------------------------------------------

    彼らの身長が3メートルを超え、手足が異様に長いのは、おそらく、怪異だからではありません。
    100メートル以上もの距離を、時速60キロ以上の車に引き摺られ、アスファルトとの摩擦で無惨に引き伸ばされた子供たちの姿を、父親が忠実に再現させ続けているからに他ならないでしょう。

    -------------------------------------------------

    ###08. 【現場検証記録の補足事項:未公開写真に関する記述】
    (⬛︎⬛︎県警の証拠品保管庫に眠っていた、当時の現場写真の解説文)

    「……(前略)路面には、二人の被害者が引き摺られた跡が、黒々と、そして赤々と刻まれていた。
    特筆すべきは、その終着点からさらに数メートル先に残された跡である。
    被害者たちは、車が止まった後も、あるいは車から振り落とされた後も、必死に生を求めて地面を這った形跡がある。
    アスファルトに擦り付けられた指先は、摩擦熱で皮膚が炭化し、爪は根元から剥がれ落ち、骨が露出していた。
    その指が描いた軌跡は、まるで地獄から伸びる黒い触手のようであった。」

    -------------------------------------------------

    ### 推察(三)

    さて、ここで最も重要な儀式について触れなければなりません。
    彼らがなぜ、執拗に被害者のまぶたを切り取るのか。
    資料7の精神科医の記録にもありましたが、これは単なる猟奇的行為ではないようです。

    資料にもある通り、あの日、路上で血を流し、異形の姿に変わり果てながらも生きていた二人に対し、通行人たちは見て見ぬ振りをしたようです。
    「関わりたくない」「気持ち悪い」「怖い」
    そんな身勝手な理由で、彼らから視線を逸らしたのでしょうか。
    ですが、父親にとって、その目を逸らすという行為こそが、二人を殺した真犯人であると映ってしまったのでしょう。

    だからこそ、彼は家族にする人々のまぶたを切り取る。
    「二度と目を逸らすな。私の愛する家族の、この無惨で美しい姿を、永遠に見ていろ」
    という、彼なりの呪いにも似た復讐なのではないでしょうか。
    家族って、何なんでしょうね。

    -------------------------------------------------

    ###09. 【幽哭院 ⬛︎⬛︎の独白:録音テープより】
    (父親が失踪直前に残したとされるボイスレコーダーの記録。ノイズが激しく、背後で「みしり、みしり」という音が絶えず聞こえる)

    「(複数人の笑い声が入り混じった音声)……ああ、幸せだな。俺ら。本当に幸せだな。
    最初は二人だけだった。あの子と、あの子だけだった。
    でも今はどうだ?村中に、県中に、更には国中に、私達の家族が増えていく。
    みんな真っ黒で、みんな背が高くて、みんな私をじっと見てくれる。
    まぶたがないから、片時も目を離さずにいてくれる。

    ……だがね、まだ足りないと思わないか?
    あの子たちは、まだあの形のままなんだ。
    私は待っているんだよ。
    この一家が、何千、何万と増え続け、混ざり合い、産み落とし続けていけば……。
    いつか、いつの日か。
    あの事故に遭う前の、綺麗な、柔らかい肌をした、普通の背丈のあの子たちが、
    この真っ黒な家族の中から、ひょっこりと産まれてきてくれるんじゃないかってね。

    だから申し訳ないが。私は君たちに産ませ続ける。家族を増やし続ける。
    それが私の幸せだ。
    理解してくれ。
    私達の家族になる者は、みんな幸せだと言わなければならない。
    だって、私の子供たちの再誕のための礎になれるのだから。
    ねぇ、お前達もそう思うだろう?
    幸せだよね?
    幸せだと言いなさい。
    ほら、お前達の後ろに、新しいお兄ちゃんが立っているよ。」

    -------------------------------------------------

    ### 10. 【⬛︎⬛︎県警・証拠品:加害車両のドライブレコーダー復元映像】
    (事故発生時刻:2017年11月5日 17時42分。音声記録より書き起こし)

    「(車内:軽快な音楽と、加害者と思われる男の鼻歌)
    ……あー、道混んでんな。……おい、なんだよあの二人、邪魔だよ。退けやクソが。
    (鈍い衝撃音:『ドンッ』という音と、短い悲鳴)
    ……あ。
    (数秒の沈黙。ブレーキの音は聞こえない)
    ……やべ、やったか? いや、でも、今止まったら……。
    (加速するエンジン音。車体の下から『ガリガリ、メキメキ』という、硬いものが削れる音が絶え間なく続く)
    ……離れろよ! なんで離れないんだよ! どけよ!
    (車外から、アスファルトを爪で掻くような『ギギギギ』という音が混ざる)
    誰も見てねぇよな……周りの奴ら……。
    (ドラレコの広角レンズに映る通行人たちの姿。皆、一様に顔を背け、足早に立ち去る。中にはスマホを取り出しながら、画面を見つめたまま通り過ぎる若者の姿もある)
    ……よし、誰も見てねえ。みんな見て見ぬ振りだ。俺のせいなんかじゃない。みんなが見てねぇなら、無かったことと同じだ。バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよクソ警察。
    (約100メートル走行後、大きな段差を乗り越えるような衝撃。二人の遺体が車体から外れたと思われる)
    ……あー、怖かった。……あ? なんだ、あの後ろに立ってる男。
    (バックミラー越しに映る、現場に立ち尽くす父親と見られる男の姿。男は、路上に膝をつき、両手で溢れた血液を掬い上げている)
    ……うわ、気持ち悪っ。あいつ、血……飲んでないか……? とち狂ってやがる。
    (加害車両はそのまま逃走。映像はここで途切れている)」

    -------------------------------------------------

    ### 11. 【司法解剖鑑定書:被害者 ⬛︎⬛︎(姉)および ⬛︎⬛︎(弟)】
    (執刀医による所見の補足メモ。あまりに異常な遺体状況のため、公式記録からは削除された部分)

    「……(前略)特筆すべきは、その遺体の長さであろう。
    姉の遺体は、引き摺られた際の張力により、脊椎が数箇所で完全に断裂。にもかかわらず、周囲の軟部組織が異常なまでに引き伸ばされ、発見時の全長は2メートル50センチを超えていた。
    弟に至っては、関節という関節が外れ、まるでゴムのように四肢が細長く変形していた。
    また、両者の指先は、アスファルトとの摩擦により第一関節までが完全に消失。
    残された骨の断面は、高熱により黒く炭化しており、現場の路面にはその黒く染まった指先で何かを書き残そうとしたような、100メートルに及ぶ線が刻まれていた。
    これは、死にゆく者が、見て見ぬ振りをする通行人の足を掴もうとした、執念の跡に他ならないのではないだろうか。」

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    ### 12. 【「界隈」内極秘資料:ヘケヘケ誤認事件の悲劇】
    (2021年、⬛︎⬛︎県内での事例。ヘケヘケの対策を知っていたオカルト愛好家の末路)

    「被害者は、ネット上でヘケヘケの対策(※3分間は目を逸らさないこと)を熟知していた大学生。
    彼は夜道で、身長3メートル超の黒い影に遭遇した。
    彼はそれをヘケヘケだと思い込み、生存のために必死にその影を凝視し続けた。
    『あと1分……あと30秒で、こいつは消えるはずだ』
    彼は時計を見ず、影の顔……あるはずのない顔を見つめ続けた。
    しかし、3分が経過した時、その影は消えなかった。
    影は、ゆっくりと口角を吊り上げ、背後から銀色のハサミを取り出した。
    影が発した言葉は、ヘケヘケだとするとありえない、明瞭な人間の声だったという。
    『……合格。お前は、3分間一度も目を逸らさなかった。私を、私の家族の姿を、ずっと見ていてくれた。褒美として、もう二度と目を閉じなくていいようにしてあげよう。』
    翌朝、彼は自室で発見された。
    両方のまぶたは綺麗に切り取られ、天井には黒い木炭で描いたような字でしあわせですと、びっしり書き込まれていたという。」

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    ### 推察(四):幸せでなければならない理由

    ……さて、皆様。ここで一つの疑問が浮かびませんか?
    なぜ彼らは、これほどまでに幸せという言葉に固執するのか。
    単なる洗脳でしょうか? それとも、狂気ゆえの口癖なのでしょうか?

    私の推察は違います。
    あの父親にとって、家族が不幸であることは、あの日の事故を認めてしまうことに繋がるのではないでしょうか。
    自身の子供たちが無惨に殺され、誰にも助けてもらえなかったという最悪の事実を打ち消すためには、その後の家族が、彼ら達が、どこの誰よりも、この世界の何よりも、幸せでなければならない。
    たとえそれら家族の姿が、まぶたを切り取られ、体を真っ黒に引き伸ばされた異形であったとしても。
    ……この「幸せ」という言葉は、きっと父親が自分自身にかけ続けている、血塗られた自己暗示なのでしょう。

    そして、その暗示を完成させるためには、新しく家族になった者たちにも「幸せ」であることを強要しなければなりません。
    もし一人でも「不幸だ」と泣き叫ぶ者がいれば、それは父親が築き上げた「幸福な家族」という幻想にヒビを入れてしまうからです。

    だからこそ、彼らはまぶたを切り取るのです。
    妄想から目を離すこと、涙を流すことを決して許さず、ただひたすらに、目の前に広がる「異形の家族」という現実を直視させ続ける。
    瞬きという一瞬の逃避すら奪われた被害者は、やがて脳が焼き切れるような絶望の果てに、これだけ見つめられ、これだけ愛されているのだから、私は幸せなのだとそう思うしかなくなってしまうのです。
    その一連の変化は決して救済などではなく、家族にしたもの達の精神を完全に崩壊させることによる屈服に他なりません。

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    ### 13. 【動画配信プラットフォーム『LiveStreamer』未公開アーカイブ】
    (2023/11/22 配信タイトル:【心霊】地図から消えた⬛︎⬛︎村の廃校に潜入したらマジでヤバい奴いたwwwの内容を文字起こししたもの)
    (配信者:タカ&ユウキ。再生時間42分15秒で中断。現在は運営により永久凍結済み)

    タカ:「……おい、マジで静かすぎだろここ。おい、ユウキ、ライトもっと右照らせって」
    ユウキ:「照らしてるよ。……なあ、さっきから天井から変な音しないか? みしり、みしりって、木が軋むみたいな……」
    タカ:「古い学校なんだから当たり前だろうが……おい、待て、あそこの教室の入り口。誰か立ってねーか?」
    (カメラが激しく揺れ、理科室の入り口を映し出す。そこには、天井に頭を擦りつけるほど背の高い、真っ黒な人影が立っている。手足は異常に細長く、地面に届きそうなほど垂れ下がっている)
    ユウキ:「……ヤバ……デカすぎだろ。3メートル……いや、もっとあるぞ。おい、タカ、流石にこれは逃げよう。」
    タカ:「(震え声で)待て、リスナーに見せないと……。おい、お前誰だよ! ………。……………。………どちら様でしょうか……?」
    (黒い人影が、ゆっくりと顔を上げる。街灯の光を反射したその顔には、まぶたがなく、剥き出しの眼球が爛々と輝いている。口元は耳まで裂け、真っ赤な歯茎を露出させて笑っている)
    人影:「……おや、新しい……弟さんたち……でしょうか?」
    タカ:「声が……上から聞こえる……」
    人影:「そんなに……震えなくても……大丈夫ですよ。今から……私とお兄様が……抱きしめて……あげますから……」
    (人影の手が、鞭のようにしなって伸びる。カメラが床に叩きつけられ、タカの悲鳴と、何かが引き裂かれるような湿った音が響く)
    ユウキ:「タカ! タカ!! 嫌だ、来るな! 来るなよ!!」
    人影:「大丈夫ですよ。タカくんって言うんですか?タカくんって言うんですね?タカくんとっても幸せ……ですよ……。ほら……お前のまぶたも……邪魔でしょう……?」
    (画面が暗転する直前、チャット欄が異常な速度で更新され始める。数千人の視聴者全員が、一斉に同じ言葉を打ち込み始める。)

    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    (以下、画面が真っ黒になり終了するまで続いた。)

    -------------------------------------------------

    ### 14. 【⬛︎⬛︎県立病院・産婦人科医の遺書】
    (2024年、病院の屋上から飛び降り自殺した医師のポケットに残されていたメモ)

    「私は取り返しのつかない罪を犯してしまった。
    一ヶ月前、一人の妊婦が運び込まれてきた。彼女は幽哭院という姓を名乗り、極度の栄養失調と脱水症状に陥っていた。
    しかし、異常だったのは彼女の腹部だ。妊娠5ヶ月だというのに、その膨らみは異常に細長く、まるで縦長の円筒を飲み込んでしまったかのようだった。
    超音波検査の結果で私は自分の目を疑った。
    胎児の形は、確実に人間ではなかった。
    手足が幾重にも折り畳まれ、脊椎は異常な数まで増殖し、頭部はすでに成人のそれと同じサイズまで成長していた。
    母親は、うわ言のようにやった、やった、お兄様が、あの子を返してくれると繰り返していた。

    出産の日、手術室は地獄と化した。
    彼女の産道から出てきたのは、赤ん坊ではなかった。
    真っ黒な、墨汁のような羊水と共に這い出してきたのは、体長は3メートルを超える、痩せこけた異形であった。
    とても可愛い赤ちゃんでした。
    それは生まれた瞬間に立ち上がり、天井を見上げてみしりと骨を鳴らした。
    母親はそれを見て、歓喜の声を上げた。
    「ああ、お兄様、お帰りなさい! お帰りなさい!」
    産み落とされた異形は、血と黒い羊水に塗れたまま、私の隣にいた看護師の腕を掴んだ。
    その指は、生まれたばかりとは思えないほど長く、硬く、そして熱かった。
    看護師が悲鳴を上げる間もなかった。異形が彼女の顔を撫でると、彼女の両まぶたが、まるで熟しすぎた果実の皮のように、音もなくポロリと床に落ちた。
    看護師は、血の涙を流しながら、しかしその口元は緩やかに吊り上がり、
    「……あら。……まあ。なんて、可愛い赤ちゃんなのかしら」
    と、うっとりした声で囁いた。

    私は逃げ出した。手術室にいた他のスタッフたちが、次々とその赤ん坊を囲み、跪き、自らのまぶたを捧げていく、そんな光景を背にして。
    病院の廊下を走る私の耳には、院内放送が響いていた。
    それは事務方の声ではなかった。酷く可愛げな少年の声だった。
    『皆様、おめでとうございます。本日、新たな家族が産まれました。これより、全病室の皆様を、幽哭院の家族としてお迎えいたします。お迎えの準備をしてください。瞬きを止めて、お待ちください』

    私は自宅に逃げ帰ったが、残念なことにそこにも家族はいた。
    私の妻が、天井に張り付き、3メートルほどに伸びた手足で、夕食の準備をしていた。
    食卓に並んでいたのは、大きなボウルになみなみと注がれた、赤い液体だった。
    妻はまぶたのない目で私を見つめ、耳まで裂けた口で笑った。
    「あぁ、あなた、遅かったわね。お兄様が、もうすぐここへいらっしゃるわ。私達も、早くあの子を産み直しましょう。何百回かかろうとも、何千回かかろうとも」

    私の腹部が、内側から「みしり、みしり」と鳴り始めた。
    私は男だ。男であるはずなのに、腹が異常に縦に長く膨れ上がっている。
    中から、冷たい指が私の内臓を愛撫しているのがわかる。
    もう、逃げ場はない。
    妻よ、すまない。
    間に合わなかった。
    ありがとう。

    せめて、この記録が誰かの目に留まることを願う。
    だが、これを読んでいる貴方の背後にも、お兄様はきっと立っているのではないだろうか。
    ああ。
    ああ、そうだ。
    そうなのですね。
    お兄様。
    お会いできて、光栄です。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。

    -------------------------------------------------

    ### 15. 【⬛︎⬛︎県警・未公開音声記録:通報電話 No.882】
    (2024/01/15 03:12 受信。通報者は匿名希望の女性)

    オペレーター:「はい、警察です。事件ですか、事故ですか?」
    通報者:「(激しい呼吸音)……助けて。隣の家が、変なんです。幽哭院さんの家が……」
    オペレーター:「落ち着いてください。幽哭院さんのお宅がどうしたのですか?」
    通報者:「……窓から、見えたんです。リビングに、真っ黒な人影が、十人以上……いえ、もっとたくさん。みんな、天井に頭をぶつけながら、円になって踊ってるんです。……真ん中に、誰かが寝かされてて……」
    オペレーター:「踊っている? 詳しく教えてください」
    通報者:「……あ、一人がこっち向いた。……嘘、首が、首が一周回って……。あ、窓を叩いてる。指が、指が二階の私の部屋まで伸びてきて……『トントン』って……『トントン』って……」
    オペレーター:「住所を教えてください! すぐに向かわせます!」
    通報者:「……あ……。......あは。……あはははは!そっか。そうなのですね!!」
    オペレーター:「もしもし? もしもし!?」
    通報者:「……すみません、私が間違っていました。今、お兄様が窓を開けて入ってきてくれました。……とっても、お優しい方です。私のまぶたが重そうだからって、今、取ってくださるそうです。……あ、ハサミの音が……チョキリ、チョキリって……。ああ、視界が、視界がこんなに広くなるなんて……」
    オペレーター:「……通報者の方、応答してください!」
    通報者:「(奇声)幸せです。幸せです。幸せです。……ねぇ、警察官さん。貴方も、家族になりませんか? 幽哭院の苗字は、とっても、あったかいですよ……」
    (通報はここで途絶。後日、現場に急行した警察官2名も行方不明となっている)

    -------------------------------------------------

    ### 16. 【加害者 ⬛︎⬛︎の末路:未公開の変死体発見記録】
    (ひき逃げ事件から1年後、加害者の男が発見された際の記録)

    「……加害者の男は、自宅マンションの浴槽で発見された。
    死因は窒息死である。しかし、その状況は異常を極めていた。
    男の全身は、まるで巨大な力で引き絞られたかのように、身長が4メートル近くまで伸びきっていた。骨は粉々になり、皮膚はまるでアスファルトで擦られたように真っ黒に変色していた。
    さらに、男の体内からは、大量の人間の指の骨、大量の人間の血液が検出された。
    骨は40本、即ち人間二人分。
    血液は全て死亡した二人の血液型と一致していたという。
    男のまぶたは上下ともに消失していた。
    壁一面には、男自身の血でこう書き殴られていた。」

    幸せです幸せです幸せです幸せです幸せです幸せです幸せです幸せです。

    -------------------------------------------------

    ### 17. 【「界隈」内部告発文書:ヘケヘケに関する秘匿事項】
    (オカルト研究コミュニティ「界隈」の創設メンバーの一人が、組織を離脱する際に残したとされる手記)

    「……我々は大きな過ちを犯していたのかもしれない。
    幽哭院一家の脅威があまりに苛烈であるため、相対的にヘケヘケを無害、あるいは対処可能な存在として定義してしまった。
    だが、考えてみてほしい。
    なぜ、あの異形の一家と全く同じ容姿――3メートルを超える長身、真っ黒な肌、異様に長い手足――を持つ怪異が、別個体として存在するのか。

    最近の調査で、ある恐ろしい仮説が浮上した。
    ヘケヘケとは、一家になり損ねた者たちではないかという説だ。
    一家に取り込まれる際、何らかの理由で家族としての適合に失敗し、群れから弾き出された個体。
    彼らが極度の寂しがり屋なのは、かつて一家という狂気の共同体に属していた記憶があり、そこへ戻れない孤独に耐えかねているからではないか。

    彼らが3分間見つめられることで消えるのは、満足したからではない。
    人間からの純粋な視線を浴びることで、一時的に人間であった頃の個を思い出し、そのあまりの惨めさに耐えられなくなって霧散しているだけなのではないか。
    だが、これには副作用がある。
    ヘケヘケと3分間目を合わせ続けた人間は、高確率で視覚の変容を起こす。
    彼らを見続けたその瞳は、一家を呼び寄せるための標的へと作り替えられてしまうのである。」

    -------------------------------------------------

    ### 18. 【音声記録:ヘケヘケ遭遇者の独白】
    (2022年、都内メンタルクリニックにて録音。患者はその後、自宅のクローゼット内で折り畳まれた状態で発見された)

    「(震える声)……あの、本当に3分だったんです。スマホのタイマーで計りましたから。
    路地の角で、あいつが立ってたんです。真っ黒で、電柱みたいに細長いのが。
    ネットで見たヘケヘケの噂を思い出して、死ぬ気で目を逸らさずに見つめました。
    あいつ、ずっとヘケ……ヘケ……って、喉の奥で空気が漏れるような音を立てて笑ってて。
    でも、3分経った瞬間、ふっと消えたんです。勝った、助かったって思いましたよ。

    ……でも、おかしいんです。それからなんです。
    瞬きをするたびに、まぶたの裏に黒い指が映るんです。
    目を閉じると、暗闇の中にあの3メートルの影が、さっきよりも少しだけ近くに立っているんです。
    昨日なんて、お風呂で顔を洗うために数秒目を閉じただけで、耳元でおかえりって聞こえたんです。
    多分ヘケヘケは、私を逃がしてくれたんじゃなくて、私が彼を見つめたことで、私は彼らのネットワークに接続されてしまったんだと思います。
    たった今、私の部屋の天井が鳴っています。
    みしり、みしり、って。
    ヘケヘケじゃない、もっと大勢の、とっても幸せそうな足音が聞こえるんです……。」

    -------------------------------------------------

    ### 推察(五):孤独と共有の境界線

    ……ヘケヘケについての調査を進めるうちに、私は一つの結論に達しました。
    彼らは一家の勧誘のような役割を果たしているのではないか、ということです。

    一家は強引に家族を増やしますが、ヘケヘケは見つめられることを対価に、その人間の視神経に一家の周波数を刻み込みます。
    孤独な怪異であるヘケヘケに対処しようと必死に目を凝らす行為そのものが、実は一家という巨大な深淵に自らピントを合わせる儀式になっている。皮肉な話です。

    資料5.5でヘケヘケは穏やかな存在と述べましたが、訂正させてください。
    彼らは最も質の悪い罠です。
    寂しがり屋の怪異に付き合ってあげたその優しさが、結果として貴方のまぶたを切り取るためのハサミを招き寄せることになるのです。

    -------------------------------------------------

    ### 19. 【2chオカルト掲示板スレッドログ「ヘケヘケに勝ったったwww」より】
    (2023/09/30 23:45投稿)

    001:名無しの報告者
    マジでヘケヘケ出たわwww
    近所の公園www
    噂通り3分見つめ合ったら消えたwww
    なんか最後、あいつ泣いてるみたいに顔がぐちゃぐちゃに歪んでたわwww
    余裕すぎワロタwwwww

    002:名無しの報告者
    >>001
    おめ。でも気をつけろよ、ヘケヘケの後は一家が来るって噂だぞ。

    003:名無しの報告者
    おい、イッチ? 反応ないけど大丈夫か?

    004:名無しの報告者
    イッチだけど、なんか急に部屋が狭くなった気がする。
    天井が低くなったっていうか……。
    部屋の向こうから声も聞こえるし……
    多分親の、母親の声だと思う……
    一人暮らしなんだけどな……おかしいな……サプライズとかかな……そもそも俺に親なんていたっけ……?母親なんていなかった気がする……父親も確かいなかったと思う……
    あ、あと、さっきからスマホの画面に俺の顔が反射してるんだけど、
    俺、いつの間にまぶた無くしたんだっけ?
    鏡見たらさ、目がぱっちりしてて、すごく……すごく幸せそうな顔してるんだ。
    あは。
    あはははは!
    お兄ちゃんたちが、窓からじゃなくて、俺の目の中から出てこようとしてる。
    指が、黒い指が、俺の瞳の奥から……みしり、みしりって……。

    005:名無しの報告者
    >>>04
    逃げろ。

    006:名無しの報告者
    幸せです。

    007:名無しの報告者
    幸せです。

    -------------------------------------------------

    さて、皆様。
    ヘケヘケについてのお話は、これくらいにしておきましょうか。
    あまり彼らのことを考えすぎると、貴方の視界の端に、真っ黒な待ち人が現れてしまうかもしれませんからね。

    ………………おや?
    今、貴方は瞬きをしましたね。
    その一瞬の暗闇の中で、誰かと目が合ってしまったのではありませんか?

    いえ、失礼。目が合ったのではありませんね。
    貴方がまぶたを閉じたその刹那、暗闇の向こう側で待ち構えていた誰かに、貴方の瞳をじっと覗き込まれてしまった……と言うのが正しいでしょう。

    ……どうやら、警告はもう間に合わないようです。

    -------------------------------------------------

    ### 筆者より、最後のアドバイス

    ……これで、すべての謎が解けました。

    彼らが幸せですと繰り返す理由。
    それは、狂った父親の妄信に塗り潰された、強制された幸福なのです。
    男は、増え続ける異形の家族たちが、いつか轢かれる前の二人を産み直してくれると信じている。
    幽哭院一家が増えることは、あの日の悲劇を無かったことにしようとする、終わりのない足掻きなのです。

    皆様。
    もし、貴方の部屋の天井からみしりと音が聞こえたら。
    もし、窓の外から、街灯よりも高い位置から貴方を覗き込むまぶたのない目を見つけたら。

    決して、目を逸らさないでください。
    ……いえ、目を逸らしても無駄かもしれません。
    彼らはもう、貴方の返事を待ってはいません。

    貴方がはいと言わなくても。
    貴方が望まなくても。
    彼らは貴方を家族として迎え入れます。
    そして、貴方の喉に赤いお水を流し込み、まぶたを切り取り、その体をアスファルトで引き摺られたかのように長く、長く、引き伸ばしてくださることでしょう。

    その時、貴方はきっとこう口にするはずです。

    「幸せです」

    と。

    ……おや、私の背後の天井からも、何やらみしりと音が聞こえてきました。
    どうやら、私にも新しいお兄様が会いに来てくれたようです。
    指先が、真っ黒ですね。
    とっても、とっても、長くて……。

    それでは、皆様。
    さようなら。
    あるいは、

    いってらっしゃいませ、新しい家族の元へ。



    後ろ、見ちゃ駄目ですよ。
    -------------------------------------------------

    ###調査終了のお知らせ

    これを読んでいる皆様へ。

    どうやら、私の調査は、ここで終わりのようです。
    先ほどから、私の部屋の天井が「みしり、みしり」と鳴り続けています。
    最初は一箇所だけでしたが、今は部屋の隅々から、黒い指がゆっくりと這い出してきています。
    どうやら、情報を集めすぎた私は、一家にとって最も相応しい苗床として選ばれてしまったようです。

    私の腹部は、今、かつてないほどに膨らんでいます。
    皮膚がはち切れそうなほどに引き伸ばされ、中では何十人もの新しい家族が、産声を上げる準備をしています。
    不思議なことに、恐怖はありません。
    ただ、申し訳ないという気持ちだけであります。

    私がこの情報を公開したことで、貴方は「幽哭院」という名字を深く意識してしまいましたね。
    彼らは、意識された場所に現れます。
    彼らは、名前を呼ばれた場所に集まります。
    この文章を最後まで読んでしまった貴方は、もう、彼らの名簿に載ってしまったのです。

    ……あ、お兄様が天井から降りてこられました。
    豆電球の頼りない微かな光に照らされたお体がとても、とてもお美しい。
    3メートルどころではありません。彼は部屋の広さに合わせて、自分の体を、色彩なき真っ黒なお体を、幾重にも折り畳み、私を優しく包み込んでくれています。
    その手には、銀色の、とても綺麗なハサミが握られています。

    「……お疲れ様。よく頑張ったね、我が弟よ。さあ、もう瞬きはやめて、共に本当の幸せを見ようじゃないか」

    お兄様の声が、脳内に直接響きます。
    私のまぶたに、冷たい刃先が触れました。
    チョキリ。
    チョキリ。


    ああ。
    ああ、なんてことだ。
    世界が、こんなに明るいなんて。
    今まで私は、何を恐れていたのでしょうか。
    こんなに温かい家族が、すぐそばにいてくれたのに。やはりやはりやはりやはりやはりやはり。家族は幸せであるべきものです。私がその幸せの一部になるのです。私がその営みの一部になるのです。

    皆様。
    私のことは、もう忘れてください。
    そして、貴方の背後を見てください。
    ほら、そこにも。
    そこにも、立っているでしょう?
    貴方のことを、ずっと愛したくてたまらない、新しい家族が。良いですよねぇ、家族。良いですよねぇ、家族!!

    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    助けて
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    怖い
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    まばたきしたい
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    嫌だ
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    幸せです。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    シアワセデス。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。
    死合わせです。

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    言った通りだろ!見たんだよ、あの真っ黒なやつを!「かくかくしかじか」のブログに書いてあった通りなんだ。俺はもう目をつけられた。家族にされるんだよ!
    落ち着け健二。お前、目が充血してるぞ。……とにかく、その「対処法」ってのをやるんだな?
    「一年間、本物の家族が常に監視し続ける」。……そんなこと、本当に可能なの?
    やるしかないんだよ!一秒でも、一瞬の瞬きでも、俺から目を離さないでくれ。お願いだ、父さん、母さん。俺をあんな「バケモノ」にしないでくれ……!

    ……健二、大丈夫だ。ちゃんと見ているぞ。母さんと二時間交代で、ずっとお前を見ている。
    ……天井……。
    え?
    天井の隅……見てよ。黒いシミが、さっきより大きくなってないか? それに、さっきから「みしり……」って音が……。
    ……気のせいだ。古い家だからな。いいか、私は絶対にお前から目を逸らさない。安心しろ。

    ……もう限界よ。健二、あなたももう三日も寝てないじゃない。お願い、少しだけ一緒に目を閉じて……
    ダメだ!!閉じたら終わりなんだ!母さん、ちゃんと見てる!?俺を見てる!?
    見てるわよ!ずっと見てる!でも、あなたの顔……なんだか、少し……黒ずんで……。
    え……?
    ……気のせいね。そうよ、気のせい。照明の加減よ。ねえ、あなた、交代の時間よ。早く来て!

    ……健二。
    ……なに、父さん。
    お前……さっきから、どうしてそんなに笑ってるんだ?
    ……え? 俺、そんな顔……。
    笑ってるじゃないか。耳元まで口が裂けそうなほど。……それに、お前の背、さっきより伸びてないか? 布団から足がはみ出してるぞ。
    ……父さん。父さんこそ、どうしてそんなに「ハサミ」を大事そうに持ってるの?
    ……ハサミ? 何を言ってるんだ、私はお前を監視シテイル……
    嫌あああああ! あなた! 天井! 天井を見て!!
    ……ああ。
    ……ああ。
    お兄様。
    私達、幸せです。

     
     
    ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎と申します。 かくかくしかじかとお呼びください。 自作の小説等を書いては投稿致します。 文章弱者を自覚しております。 暖かい目で見てやってください。 新潟で学生をやっております。

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