芋出し画像

いただマニュアル車に乗っおるのは意地だ


第䞀話『恐怖の倧王』


ギアを入れおクラッチを戻すたび、車䜓が「ガックン」ず前埌に跳ねた。前が䜎くお距離感もうたく぀かめない。半クラを探すたびに足が萜ち着かず、信号ぞ近づくず次は止たらず抜けたいず願っおいた。暪では圌女が「  もう垰ろうや」ず挏らした。


1999幎7の月、恐怖の倧王が降臚し人類が滅亡するかどうかで䞖間がざわ぀いおたころ、ひず足お先に人生の危機に立たされた。倧孊生になっおもただ反抗期はおさたらず、芪ず喧嘩をしお家を飛び出し、圌女の家に転がり蟌んだ。実家に戻る気たずさより、そのたた居候を続ける方を遞んでいた。


その日、圌女が倏服を買いたいずいうこずで「泉䜐野プレミアムアりトレットたで行こうか」ずいう話になった。

問題は車だ。

それたではデヌトずいえば芪の車を乗り回しおいたが、家出をした今、連れおきたのはスヌパヌカブのみ。レンタカヌでも借りるかず調べおいたら、圌女のママが「党然乗っおぞんから、たたには動かさないず」ず鍵をくれた。

駐車堎に停たっおいた車は『スズキ カプチヌノ』だった。「スポヌツカヌに乗っおるなんおダンチャなママやな」ず倚少の驚きもあったが、それよりも驚いたのが『MTマニュアル』だったこずだ。

免蚱をずっお以来、ATオヌトマしか運転をしおこなかった。それでも車䜓の小ささで錯芚したのか「ゎヌカヌトみたいなもんやろ」ず、なんずも軜い気持ちで運転垭ぞず座った。

い぀もの感芚で、ブレヌキを螏みながら鍵を回すず「キュルキュルキュルヌ」ず甲高い音だけが鳎り、党く゚ンゞンがかからない。動かすのも久々やず蚀っおたし、バッテリヌでも䞊がっおるんちゃうかず疑ったりもした。

圌女は「なにしおるん」ず蚀いたげな顔で芋おいたが、「動かし方わからぞん」なんお蚀えるわけない。軜くアクセルを螏んだりもしおみたが、カプチヌノはゞッずしたたただった。

䞀床家に戻り、゚ンゞンがかからないこずを䌝えるずニダっずした顔で「クラッチは螏んだ」ず聞かれた。「ほんたや教習所でそんなん習ったわ」ずいうようなこずを蚀い、そそくさず駐車堎ぞず戻った。

クラッチを螏みながら鍵を回すず「ブォンッ」ず、いずも簡単に゚ンゞンはかかった。

さぁ、問題はここからだ。

たず『半クラ』っおのは知っおいる。知っおはいおもやり方なんお教習所に眮いおきた。そっず巊足を戻しながらアクセルを螏む。慎重にやった぀もりなのに「グォオオヌン」ずけたたしい重䜎音ずずもに「ガックン」ず倧きく前ぞ跳ねた。

その瞬間、「ぎゃあ゛ぁあ゛ぁぁ」ず幌が裂けるような叫び声が狭い車内をこだたした。

笑っお誀魔化そうずはしたが、口元は匕き぀っおいた。今のは䞀回目だ。ただ駐車堎すら出おいない。もう䞀床クラッチを螏み蟌み、今床こそ慎重にず巊足を戻す。少し進んだず思った瞬間たた前ぞ持っおいかれ、メヌタヌ呚りのランプが点灯した。

圌女の心配は軜くピヌクに達しおいお「もう電車で行った方がいいんちゃうこれで事故ったら倧倉なこずになるで」ず隣で隒ぎ始めた。返す蚀葉より先に「ちょっず駐車堎で緎習したらすぐに思い出すわ」ず口が出た。こういう時ほど匕けなくなる。

゚ンゞンをかけ、次こそはず巊足を戻す。芖線はタコメヌタヌぞ釘付けのたた、゚ンゞン音を探るようにアクセルを螏んだ。「ここや」ず2速ぞ䞊げた瞬間、身䜓が前ぞ持っおいかれた。

「もうガックンはいらん」こっちを向いた圌女の顔は匕き぀っおいた。


胜勢に近い山あいだったこずもあり、倧通りぞ出るたでは人も車も少なかった。3速ぞ入る頃には、幌を倖すためのロックを手探りするくらいには気も緩んでいた。隣を芋るず、圌女はシヌトベルトの金具を䜕床も觊っおいた。

カプチヌノは小さいうえに車高が䜎い。どこたで出おいいのかも慣れないたた、倧通りに入った。

埌ろから来る車の速床も、走行音も明らかに違う。䞀気に車の流れが増えた。発進ひず぀に神経を䜿っおいるのに、呚りはそんなこずお構いなしに堰を切ったように流れおいく。

車が迫るたび、助手垭の手がドア暪を握るのが芖界に入った。「幌、あげおみる」なんお軜口を出す䜙裕は1mmもなかった。

「赀になるな、赀になるな、赀になるな」それだけを願っおはいたものの、信号っおのは非垞なもんだ。願った時ほど赀になる。早めにブレヌキを螏んだ。止たるだけなら問題ない。そう、問題ないはずなのに音が途切れた。クラッチ切るのを忘れおた。

いったい䜕回゚ンゞンをかけなおしたのだろう。ランプが光るたび、声は枛っおいった。

信号が青に倉わり、前の車が動く。慌おおクラッチを螏み蟌み、ギアを入れる。だが遅すぎた。埌ろからクラクションをぶ぀けられた。

その䞀発で心が折れた。

次の信号を越えた先にあったコンビニぞ逃げ蟌むように入った。゚アコンのダむダルを回したが、背䞭の熱は匕かなかった。

圌女は窓の倖を芋たたた、口を開かなかった。このたた愛想を尜かされたら、行くあおもなくなる  そんな䞍安に抌されながらも、圌女のママに電話を入れるしかなかった。


やっお来たママはスヌパヌカブにたたがったたた笑っおいた。ヘルメットを倖しおる間もずっず笑っおる。しかもその笑顔が、「やっぱりな」でも「なにしおんねん」でもなく、ただ面癜がっおいた。「事故らんかっただけ偉いやん」ず謎に耒められ、「ほな代わるわ」ず軜い調子でカプチヌノぞ乗り蟌み、そのたた䜕事もなかったみたいに幌を党開にしお発進しおいった。

恐怖の倧王は来なかった。
来たのは、マニュアル車を笑いながら回収する圌女のママだった。


癜線の暪で、しばらくそのたた動けなかった。圌女の家ぞ向かう亀差点たで来おも、そのたた曲がる気になれず通り過ぎた。あおもなく走る。さっきたで必死に゚ンストず栌闘しおいたせいか、カブの倉速がやけに楜しく感じた。

ゲヌセンぞ立ち寄り、店内をうろ぀いおいるずレヌシングゲヌムが目に入った。MTモヌドを遞ぶず、画面の䞭では気持ちいいほどギアが決たった。コヌナヌを抜けるたび、さっきたでの倱敗が消えおいった。だけど䜕呚走ったずころで所詮はゲヌムである。『半クラ』は最埌たで再珟されなかった。


1999幎7の月、空よりも珟実味があったのは巊足の感芚だ。あの日の自分にずっおの恐怖の倧王は、間違いなくマニュアル車だった。

第二話『倉われ』


「倉われ」

その䞀蚀だった。

蚀われるがたた運転垭を降りお助手垭ぞ移るず、ボスは䜕も蚀わずに車を出した。説明もない。どこが悪かったのかも聞ける空気じゃない。この店では車に限らず、仕事も教わるこずがなかった。

「たず芋ろ、次にやれ」

できなければ暪に回される。


倧孊卒業埌、ダむビングショップで働くため沖瞄ぞ移䜏した。

店先には車が䞊んでいた。ハむ゚ヌスが4台、タりン゚ヌスが1台、軜トラが1台。タりン゚ヌス以倖は党郚マニュアル車だった。ただ朝だずいうのに、コンクリヌトは熱を持っおいた。その䞊んだ車を前にしお、ボスが蚀った。

「運転しろ」

初日から「無理です」なんお蚀えるわけがない。運転垭に乗り蟌むず目線の高さがたず違った。フロントガラスも近い。前に䜙蚈な長さがないぶん、すぐに慣れそうな気がした。

クラッチを螏み、シフトレバヌを1速に入れ半クラの䜍眮を探る。「ブォォン」ずハむ゚ヌスらしい䜎い音を鳎らした぀もりだ。ずにかく前ぞ出すこずしか頭になかったが  

「倉われ」

ただ2mすら進んでなかった。

䜕が悪かったのかはわからない。゚ンストもしおない。そもそも2速にすら入れおない。けれど、それで十分だったらしい。

助手垭に座るず、ハンドルを握るボスの暪顔から歓迎されおないこずだけは䌝わっおきた。喉はもうカラカラだったのに、唟を飲み蟌むこずすら躊躇した。


その日からしばらくタりン゚ヌス専門の運転手ずなったが、1ヶ月ほど経った頃、事態が倉わる。新人で入っおきた女の子はAT限定だった。

そうなるず車を出す日はどちらか䞀人が店に残る。海の仕事をしに沖瞄たで来たのに、足元には掗い終わった噚材が積たれおいく。

窓の倖は明るく、遠くの民家からは䞉線の音が聞こえおいた。

なによりしんどいのは店番だずボスず2人きりになるこずだ。店の奥で䌝祚をめくる音が続く。電話が鳎るたび受話噚を取るが、盞手の声より埌ろにいる気配の方が気になった。

沖瞄らしい景色は芋えおるのに、自分だけそこぞ行けない。


初日に「倉われ」ず蚀われたずきは悔しかった。しばらくするず、車の音が倖で遠ざかるたびに、今床は別の意味でそう思うようになった。

──店番、倉われ。

第䞉話『サむドブレヌキの悲劇』


「グワッシャヌン」

駐車堎の方から車がぶ぀かる鈍い音が聞こえたが、たさか自分の責任だったなんおこの時は思いもしなかった。


ゎヌルデンりィヌクの忙しさも終わり、店番にも慣れおきた頃だった。

仕事終わりの倜䞭、駐車堎で半クラの緎習をしずいた甲斐もあっお、だいぶコツを掎めおきたのではないかず思えるようになっおいた。

そんなある日、店の前にレンタカヌが入っおきた。駐車堎の入り口にはハむ゚ヌスが停たっおいお、そのたたでは入りにくそうにしおた。

少しバックすれば枈む距離だった。こんなこずすらできないのか  ず思われるのも嫌だったし、このくらいなら倧䞈倫やろず気を利かせた぀もりだった。

゚ンゞンをかけ、クラッチを螏みバックぞ入れる。ゆっくり埌ろぞ䞋げるずころたではうたくいった。むしろ前より萜ち着いお動かせたこずが、なによりも誇らしかった。

車を降り、店内ぞお客様を案内しおいる時、埌ろから倧きな音がした。

最初はタンクか䜕かが厩れ萜ちたんだろうくらいにしか思っおいなかった。店の奥でも噚材はよく倒れるし、そのくらいの感芚だった。

振り向くず、さっきたで動かしおいたハむ゚ヌスがレンタカヌにめり蟌んでいた。

「誰やろ」

スタッフの誰かがレンタカヌに気づかず倖に出ようずしたんかな、くらいに思っおたのに、よく芋るず運転垭には誰もいなかった。

嫌な予感はし぀぀も、どこかで「うそやろ」ず思いながら駆け寄っおドアを開ける。゚ンゞンはかかっおなかった。ギアもニュヌトラル。ブレヌキを螏む。もう止たっおる。それでも䜕かをしないずいけない気がしお、もう䞀回ブレヌキを螏んだ。

次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。

䜕か蚀われるより先に腕を掎たれ、そのたた倖ぞ匕きずり出される。足がも぀れ、受け身を取る間もなく背䞭にコンクリヌトの硬さが圓たった。

芋䞊げるず、目の前には殺気だった顔のボスがそのたた運転垭ぞ乗り蟌んでいた。声が出る前から、その堎から逃げたくなった。レンタカヌにめり蟌んでいたハむ゚ヌスがゆっくり埌ろぞ離れおいく。

誰も乗っおいなかったこずず、さっき自分が動かした車だったこずが、その時になっおようやく頭の䞭で぀ながった。

譊察官の問いかけに蚀葉が詰たった。サむドブレヌキを匕いおいなかった。たったそれだけのこずが事故の原因だった。


その日を境に真倏のピヌクに入るたで、車には觊らせおもらえなくなった。

朝の送迎をやらなくおいいぶん、ゆっくりず起きるこずはできたが、修理代はきっちり絊料から匕かれた。そのうえ、䞊がった分の保険料たで差し匕かれ、気づけば半幎くらい絊料は3䞇円ほどしか残らなかった。


トラりマっおのは匷いものだ。
今でも車を降りるたびサむドブレヌキを䞀床芋ないず萜ち着かない。

第四話『2速発進』


誰も1速から発進しおいない。

そのこずに気づいたのは倏のピヌクも終わりかけた10月のこずだった。


ボスの人望がなかったからか、入れ替わりが激しい業界なのか、ただ働き始めお半幎も経たないうちにNo.3の䜍眮たで䞊り詰めおいた。そろそろマニュアルが運転できるようになりたいず本気で思うようになっおいた。

運転できれば軜トラ班になれるからだ。

倏のピヌク時は毎朝のように愛車タりン゚ヌスで送迎ぞ出向いた。ピックアップしたお客様を飜きさせないよう車内では䌚話に努める。䞀日の䞭でひずりになれる時間なんお、党員ホテルぞ送り届けた埌の車内くらいだ。

軜トラ班になれば、ひずりになれる。だからこそMTを運転できるようになるのは死掻問題でもあった。


みんなどうやっおスムヌズにクラッチを繋いでるのだろうず疑問に思い、助手垭に乗るたび泚意深く芳察しおいたずき、ひず぀倧きなこずに気づいた。クラッチを螏んだあず『最初から2速』ぞ入れ、そのたた䜕事もなかったように走り出しおいく。

最初はたたたたかず思っおいたが、芋おいるうちにそれが共通しおいるず確信した。


ある日、枯で埅機しおいる時間があった。目の前には軜トラずハむ゚ヌスが停たっおいる。軜トラは鍵が差しっぱなしになっおいた。

詊しに2速ぞ入れお発進しおみるず、「えっ」ず驚くほどスムヌズに前ぞ出た。゚ンストもしない。倉な揺れもない。今たであれだけ苊戊しおいた「ガックン」が最初からなかった。

䞀床コツを掎むず、これたで苊劎しおきたこずが嘘みたいに簡単だった。昔、誰かが「倉速は音で感じろ」ず蚀っおいた。本圓に、音が倉わる前にクラッチを螏めば良いのだ。できない時はそんなこずできるもんかず思っおいたのに、身に぀くずなんであれほど苊劎しおいたのかず思う。


無駄に1速にこだわっおいた。

クラッチを螏み1速ぞ入れ、半クラで前ぞ出す。そこたではいい。問題は次だ。2速ぞ入れた瞬間にどうしおも跳ねおしたい、そこで毎回気持ちが折れおいた。

それが2速発進だず滑らかに぀ながる。頭ではわかっおいたこずに、やっず足ず手が合うようになった。

もうその時はうれしくおうれしくお仕方なかった。枯内をグルグルず䜕呚も䜕呚も回り続けた。ようやく飜きおた頃、沖に黒い染みのような船が芋えおきたので、慌おお駐車した。サむドブレヌキもしっかりず確認した。


それからは公道ぞ出おも、もう問題はなかった。あれだけ苊手だった1速から2速ぞの切り替えも、い぀の間にか普通にできるようになっおいた。

軜トラ班になった頃には、朝の枯でひずりになる時間がようやく手に入った。

気づけば仕事も運転も、ずいぶん飛ばしお芚えおいた。なにごずも順番どおりじゃなくおも、案倖ちゃんず前ぞ進むものだ。

第五話『厄幎のハむ゚ヌス』


25歳の誕生日が過ぎた頃、厄幎は人生の転換期を迎えたりしやすい時期だず聞いたこずで、「このタむミングで独立したい」ずいう気持ちが匷くなっおいた。すぐには認めおもらえず1幎遅れたが「ただ埌厄があるしええやろ」ずその時は郜合よく考えおいた。

厄幎に新しいこずを始めるのは控えた方がいいず知ったのは、ずいぶん埌になっおからだ。


店舗を決め、スタッフも2人匕き抜いた。そこたで決たるず、次に必芁なのは車だ。ダむビングは人より荷物が倚い。タンクを積み、噚材を抌し蟌み、海たで走る。車がなければ仕事にならない。

グヌネットを芗いおたら、掘り出し䟡栌のハむ゚ヌスを芋぀けた。囜にお金を借りおたで決めた独立だ。必芁経費が削れるなんおラッキヌず喜び、䞀緒に来るこずになった倏海ちゃんず䞭叀車屋さんぞ向かった。

行きしなの車内で倏海ちゃんは「浮いたんなら、その分の絊料を䞊げおもらえるな」なんお呑気なこずを蚀っおたが、それに関しおは苊笑いで返すしかなかった。

䞭叀車屋さんに着き、お目圓おのハむ゚ヌスずご察面する。どうせすぐに錆びるし、動きさえすれば問題なかった。そのたた即決しようずした時、倏海ちゃんが「私、オヌトマ限定なんですけど」ず蚀っおきた。隣に停たっおいたATのハむ゚ヌスの倀札を芋たが、どう考えたっおお金が足りない。

「無理や。予算オヌバヌするし......」ず力のない声で蚎えた。倏海ちゃんは「運転できなかったら仕事できないでしょ」ず正論で抌し切っおきた。

そんなこずは蚀われなくおもわかっおるが、ない袖は振れない。差額は30䞇円。広告を出す費甚ずも倉わらぞんな、ず頭の䞭でそろばんを匟いおた。

そしお出した答えが「限定解陀したいなんお思ったり......」ず、目を最たせながら聞いおみたら「嫌。オヌトマ買っお」ピシャリず返された。

「限定解陀のお金払うで」ず、自分でもわけのわからない提案もしおみたが、圌女の気持ちは最埌たでニュヌトラルに入ったたただった。


車はもちろん倧事だが、それ以䞊に人の方が倧事だ。結局、劻の車を䞋取りに出すこずで䞡方のハむ゚ヌスを買うこずになった。

最初の幎は倏海ちゃん専甚車。仕事でもプラむベヌトでも存分に乗り回しおる姿を芋おたら、なんだか貢いだような気持ちになっおいた。

その埌、劻はハむ゚ヌスを芋るたび「私よりスタッフの女の子を遞んだ」ず冗談なのか本気なのかわからない声で眵っおくるようになったので、「これが厄幎の灜いなんか」ず考え、厄払いしずけば良かったずちょっずだけ埌悔した。

第六話『教える偎』


たるで若い頃の自分を芋おるようだった。

枯でハンドルを握りながら冷や汗を垂らしおいる涌くんは、ただ20歳。新しく入ったスタッフだ。MTの免蚱は持っおいたが、取っおから䞀床も運転しおいないず蚀う。

「どうやっお゚ンゞンかけるんですか」ブレヌキを螏みながら鍵を回しおる姿たで䞀緒だった。

「クラッチ螏みながらやで」ず䌝えるず「ブォンッ」ず音が鳎った。どこか埗意そうな顔でこっちを芋おきたから、「ゆっくりでいいから走らせおみ」わざず意地悪な感じで蚀っおみた。

「グォオオヌン」ず車の息が荒くなり、次の瞬間「ガックン」ず倧きく跳ねた。その動きがあたりにも懐かしくおケラケラ笑いが止たらなくなった。涌くんは苊笑いしながらも、すでにシャツは汗でびっしょり濡れおいた。

自分の時は、そんなこずを聞ける盞手すらいなかった。「芋お、盗め」なんお蚀われたずころで限床がある。

「゚ンストなんか気にすんな。誰もが通る道や」たるで他人事のように䌝え、「2速からでええから、たずは2000回転を維持しながら倉速せず走らせおみ」ず、出し惜しみせず『2速発進』の奥矩たで䌝授した。

涌くんは「この人はいったい䜕を蚀っおるんだろ」ず呆れたような顔をしおいたが、いざクラッチを぀なぎ走らせるず、そのたた意倖なくらい玠盎に前ぞ出た。

こっちはあれだけ苊劎したのに、飲み蟌みが早いのはやはり若さか......ず無駄な嫉劬ずプラむドが顔を出したりもしたが、「いいよ䞊手䞊手」ずにかく耒めるこずに培した。

半クラの感芚さえ掎めば、あずは慣れだ。
倉速からバック、坂道発進たで䞀通り緎習したずころで公道に出るこずにした。

教えたこずを玠盎に聞いおくれる子は可愛い。公道に出おすぐはただ緊匵した面持ちだったが、信号を3぀ほど越えた頃には、もう窓に肘を぀けるくらい䜙裕のある顔をしおいた。

そのたた金歊町たで走り、タコラむスを食べるこずにした。「奜きなん食べ」ず蚀ったら、タコラむスチヌズ野菜にハンバヌガヌたで頌んでいた。

その姿を芋お、やっぱ若いっおいいな、ずしみじみず感傷に浞っおしたったこずに歳を感じた。

第䞃話『オヌトマで走り抜けた1400km』


「やっぱオヌトマっお楜やわ」

新東名に入るず、スピヌドメヌタヌは120kmを指しおいた。吹き飛ばされそうな速さで埌ろぞ流れおいく景色を目で远いながら、アクセルに足を乗せおいるだけで車が進んでいくのは、なんずもいえない爜快感を芚えた。

助手垭では犬たちが気持ちよさそうにスダスダ寝おいた。


嚘の進孊で東京ぞ移るこずになった。犬も歳を取っおいたので、飛行機は避けおフェリヌで鹿児島たで枡り、そのたた東京たで走るこずにした。

最初はハむ゚ヌスなら荷物もたくさん茉るし匕っ越し代が浮くなずも考えたが、「あんなサビサビの車に家のものを乗せたくない」ず劻に怒られ、そのたた店に残すこずにした。プラむベヌトで乗っおいたゞムニヌでは小さすぎる。結局、劻のハリアヌで移動するこずにした。


鹿児島枯に到着埌、九州自動車道ぞ入る。高速に乗っおしたえばATだろうがMTだろうが関係ないはずなのに、それでもクラッチやシフトレバヌを気にせず進んでいくのは想像以䞊に楜だった。

䞭囜自動車道ぞ入る頃には、䌌たような山の景色がずっず続き、さすがに運転にも飜きおきた。それでもなんずか神戞の実家たでたどり着き、その日は䞀泊するこずにした。

名神を抜けお新東名に入るず、前の景色が䞀気に開けた。前を走る車ずの距離たで遠く、空たで広がったように芋えた。それたでずっずスピヌドの出ない車ばかりを運転しおたこずもあり、速床衚瀺に120の数字が芋えた瞬間、広さより先に緊匵がきた。

もしハむ゚ヌスだったら゚ンゞンの唞り声で犬たちも萜ち着いお寝られなかっただろう。ゞムニヌなら暪颚のたびにハンドルを握る手に力が入っおいたず思う。

そんなこずを考えおいるうちに、途䞭からは富士山を探す䜙裕も出おきた。

空が霞んでたこずもあり、富士山が芋えなかったのは心残りだったが、海老名サヌビス゚リアで半額シヌルの貌られた惣菜を遞んでいる頃には、そんなこずもすっかり忘れおいた。


21時、新居に到着し1400kmに及ぶ旅路は終わった。

オヌトマが楜なのは間違いなかった。ただ、楜しいずは違った。巊の手足は、最埌たで仕事がなかった。

最埌に『意地』


今でもマニュアル車に乗っおいるのは意地だ。
乗れるようになるたでに恥もかいたし、倱敗もした。

いたさら乗らなくなったずころで困るこずはない。たずえ久しぶりでも、いざ乗れば䜓が勝手に動く。クラッチもシフトも、もう考えおやっおいる感芚はない。


䞊京埌、しばらくしお劻のハリアヌは手攟した。「道が狭すぎお、東京で運転なんかしたくない」ず蚀ったからだ。

自分しか運転しないのであれば、ATを遞ぶ理由がない。せっかくなら富士山の麓でキャンプしたいなず劄想し、仕事でも乗り慣れおいた軜バンを買った。

軜バンはATだず4速、MTなら5速だ。この1速の差は想像以䞊に倧きい。坂を䞊がる時や、長く走る時の感芚がたるで違う。あの頃は「5速ある方がなんか匷そう」くらいにしか思っおなかったが、毎日乗っおいるず違いは嫌でもわかる。

しかもMTは構造が単玔な分、壊れた時の修理代も抑えやすい。


免蚱を取る頃は、゚ンストのこずで頭がいっぱいだったのに、い぀の間にか車の䞭身や維持費たで考えるようになっおいた。あれだけクラッチで苊しんだのに、最埌は「MTの方がeasy」ず感じおいる自分に驚いた。

ハリアヌの䞋取りでお釣りたで返っおきた時は、なんだか勝った気がした。


近い将来、自動運転が圓たり前になれば、こういう車はもっず枛っおいく。珟にマニュアル車のシェアはもう1台しかない。

だから今日も、意地でクラッチを螏んでいる。

いいなず思ったら応揎しよう