
やじろべえ
ある日、担任の先生から『明日の図工の時間にやじろべえを作るので家から材料を持ってくるように』との指示があった。
やじろべえが何かわからない。
机の上でしばらく考えてから、どんなものが材料になるのか、と聞いた。
竹串やストロー、使わなくなった消しゴムやコルクがよい、とのことだった。
コルクとは何か、聞き返した。
先生は少し面倒そうに「ワインの瓶の栓」とだけ言った。
ワインという言葉も、そのときはまだ遠かった。
明日までに材料を揃えるとなると大変だ。
両親共働きなので買い物は週末にしか行くことができない。
面倒をみてくれていた同居の祖母に家にあるものでなんとかならないか相談する。
竹串やストローはあるが使わない消しゴムがない。
なんだか分からないけどコルクというシャレた響きがいい。
祖母もコルクが何か分からないというので、酒瓶の栓だと説明する。
「ああ、それならある!」
まかせろ、という顔だった。
祖母は日本酒の一升瓶の蓋を2つ用意してくれた。
プラスチック製の中栓に金色の薄いアルミがかぶせてあり「菊正宗」と書いてある。
これはコルクではない気がしたが、これ以上祖母にわがままを言うことはできなかった。
それでも翌日、一升瓶の蓋はちゃんとやじろべえになった。
コルクを持ってきたクラスメイトがいたのかどうかは定かではない。
そもそも当時ワインを嗜むようなシャレた家庭環境の同級生は居たのだろうか。
プラスチック部分にきりで穴を開けて竹串を刺す。
金色のアルミがキラキラ光るやじろべえは、それなりに立派でよいものになったと感じた。
両腕を広げた竹串の両端で菊正宗と書かれた金色のウエイトが、揺れていた。
家に帰ると、菊正宗の一升瓶はサランラップと輪ゴムでふたをされていた。