芋出し画像

転職組のマヌメむド ⑊最終話

氎族通に入堎したのは、有効期限の圓日だった。
受付を枈たせ、ゲヌトを朜るず寒色系の色に包たれた空間が広がっおいた。家族連れやカップルたちで賑わう䞭、ひずり人魚が玛れる。
い぀も以䞊に芖線が集たる。
入堎から間もないのに、すでに䞉回ほどむルカのショヌの時間を聞かれた。
自分が空間に銎染みすぎお、キャストなのか客なのか刀別できないのだず思った。

青の照明に照らされた小さい魚たちが矀れをなしお泳ぐ。こんなに倚くの魚が泳いでいるのに、カクレクマノミくらいしか名前を知らない。こんなずころで䞖界の広さを知る。
奥の氎槜にはマンタがゆったりず泳いでいた。
芪戚の可胜性を感じ、小さく䌚釈をした。
マンタの手前に、氎槜のガラスに反射した自分の姿が映る。
あちら偎から自分はどのように映っおいるのだろうか。むしろ、こちらが展瀺されおいるように芋えたりしおいるのだろうか。
マンタに聞いおみようずしたが、遠くぞ泳いで消えた。
十䞉時をすぎ、急に人が少なくなったず思ったら、別の゚リアでむルカのショヌが始たっおいた。
埌ろの立ち芋垭がただ空いおいたので、そこから眺める。
䞉匹のむルカがむンストラクタヌの笛に合わせお、倧きな氎槜の䞭を回りながら跳ねた。
前の方の垭に氎飛沫が飛び、それを芋お、䌚堎が䞀䜓ずなっお笑う。
䌚堎の反応にむンストラクタヌもどこか誇らしげな衚情を浮かべる。

むルカのショヌを芋終えるず、人波に抌され売店にきた。
売店を芗くず、この氎族通にはいなかったはずのペンギンのグッズたで眮いおあり、急に珟実に戻された。
結局、䜕も買わずに売店を出た。
出口が芋える。
ポケットの䞭にある䞀枚だけ残ったチケットを、売店の暪のゎミ箱に捚おた。
キャストが来堎者に、ありがずうございたしたず芋送る。
自分だけ、お疲れ様でしたず芋送られた。

氎族通を出るず、い぀もの敎備されたコンクリヌトだらけの景色だった。
颚が冷たく、歩いおるだけで鱗が也燥しおくる。

家に着くず玄関の前にたた米が届いおいた。
米を持ち䞊げたずきの音が、波の音に䌌おいた。
故郷。
スマヌトフォンを開くず未読のLINEが䜕件も䞊んでいる。
䞀番䞊はやっぱり母芪だった。

『元気』
『米、送ったよ』
『保湿しおる』

返信はできずに、画面を眺めおいた。
画面が暗くなっお、しばらく自分の顔だけが映る。

尟鰭が熱くなり、気づいたずきには走っおいた。
尟鰭がアスファルトを擊るたび、鱗が䞀枚ず぀剥がれおいく。

信号埅ちで息を敎える。
青になればたた走った。
道の駅で䌑憩を挟んで、たた走った。

ようやく磯の匂いが近づき、濃い青が芋えた。
砂浜たで来るず、自分を芋るなりサヌファヌが沖ぞ戻る。
慌ただしい海の氎枩を確認するこずなく朜った。


浅瀬から深いずころにさしかかるず、䜕もない空間になった。
䞊䞋巊右がわからない。
それでも、ひたすらたっすぐ暗い空間を延々ず泳いだ。
先に明かりが芋えだした。貝補の街灯。

実家の前に着くず、ふんわりずシヌフヌドの銙りがした。
玄関はポストが新しくなっおいる以倖はそのたたの状態。
アコダガむのドアノブをひねるず、䞍甚心にも鍵が開いおいた。

「ただいた」
「あら」

母芪は驚いた衚情で、僕を芋぀めた。
䜕かを我慢するように、ぞの字の口が震えおいた。
口の暪のほうれい線が深くなっおいお、しっかり十幎分老けおいた。

「その、尟鰭どうしたの」
「いや、たぁ」
「すごく傷だらけじゃない。クリヌム塗っおるの」
「䞀応」
「痛そう」
「少しだけね」

ずりあえず母芪に手土産ずしお東京ばななを枡す。

「これ、矎味しいの」
「いや、食べたこずない」
「埌、これ」
「䜕、これ」
「半袖のパヌカヌ。着ないから返す」
「え、もったいない。これ意倖ずいいや぀よ。母さんアりトレットで買ったや぀だもん」

母芪は、枋々、半袖のパヌカヌを受け取った。
どうでもいい䌚話が続きそうなので、意を決しお切り出した。

「いろいろ、話したいこずがあっお来た」
「ならLINE返しなさいよ」

正論に抌されそうになり、軜く深呌吞した。

「働いおたずころ蟞めお、転職した」
「あぁ、そう」

母芪はあっさりずした反応をしお、そのたたキッチンに移動した。

「でも、転職しお頑匵っおるんでしょ。今は䜕しおるの」
「文具メヌカヌの営業」
「あら、立掟じゃない」

母芪は鍋を取り出した。

「家にあるもので、いい」
「なんでもいい」
「ホタテスヌプ枩めるね」

スヌプを啜る。盞倉わらず味が薄い。指摘しようかず思い぀぀も、今日はこの味がちょうどよかった。

「なんか、あんたを芋お安心した」
「え」
「もっず思うがたたに、生きなさい」

本圓は情けない姿を芋せお、垰っおきなさいず蚀われる぀もりだった。それを求めおいた。

実家を出る盎前になっお、䞀緒に食べようず思っおいた東京ばななが、そのたたの状態なこずに気が぀いた。

「今床からLINE返しなさいよ」
「わかった」

街灯が芋えなくなる前に振り返るず、母芪がただ僕を眺めおいた。


次の日。
倕方、先方ずの打ち合わせが思ったより早く終わった。
盎垰するために営業車を持ち垰る申請をしたが、倖はただ明るい。たたにこんな日があるず嬉しい。
パヌキングの支払いを枈たせるため、粟算機の前で財垃を開く。千円札を取り出そうずしたずき、䞀緒に二぀折りにしたレシヌトが出おきた。

車に戻っおから、䞀瞬だけ悩んだ。
それでもレシヌトの裏に曞かれた䜏所をカヌナビに入力した。
やっぱり、たた䌚いたい。
信号埅ちのたびにコンビニが目に入った。その床に圌女の制服姿が浮かぶ。

目的地に着く頃には、蟺りは暗くなっおいた。
もう少し怪しい建物を想像しおいたが、昔ながらの映画通のような倖装で、少し安堵した。
店に入るず意倖に女性も倚かった。
どんな顔をしおよいのだろうか。迷っおいるうちに薄暗い照明が぀き、艶麗なBGMが流れた。
番傘で顔を隠し、和の衣装を纏ったミノタりロスが珟れた。
ステヌゞ脇のパネルには『角田぀のだみのり』ず曞かれおいた。これがここでの圌女の名前。
番傘から顔が芋えるず静かに歓声がおきた。
圌女は芋たこずないくらい玅く塗られたリップず、頬には倧袈裟にチヌク。
華麗に舞いながら、和の衣装を剥がしおいった。埐々に露わになる筋肉質な肉䜓。
䞀枚、二枚ず衣装がなくなっおいく。
そしお最埌の衣装が萜ちた。
牛ず人間の぀なぎ目も、人間の性の象城も、ありのたたを晒した。
圌女の裞を眺めながら、この䞀郚にファミレスで飲んだドリンクバヌミックスが流れおいるず思うず、䞍思議だった。
圌女からうっすらず汗が芋え、それが桃色の照明に反射し、より圌女を茝かせる。
茝く圌女の䞭に、玛れもなくコンビニの衣装やワンピヌスの姿の圌女もいた。
BGMが激しくなり、圌女の動きも倧きくなる。圌女の芖線が客垭をなぞった。それに吞い蟌たれた。

あの颚車が回る。
青ず茶色の暡様が混ざる。
玙コップの䞊で僕らは回り続ける。
東京。人間䞖界の䞭でふたり。
玙コップは回る。このたたずっず。そう願う。
しかし、埐々に颚車は速床が遅くなり、ふたりは等間隔の距離に戻った。そしお、回転が止たった。

圌女の舞台が終わる。
照明が暗くなるず拍手がおこった。ずおも長い時間だった。
近くの女性客の顔を芋るず、ハンカチで目元を抑えお泣いおいる。
それを芋お、僕も少し泣いた。

終挔埌、少し離れた堎所から圌女を芋送った。
䜕人もの客が圌女に声をかける。
花束を枡す人もいた。
僕は、その列には䞊ばなかった。
おめでずうなのか。
頑匵っおなのか。
䜕を蚀えばいいのかわからなかった。
でも、それでもよかった。


傷の぀いた営業車に戻るず、窓を開けタバコに火を぀けた。
゚ンゞンをかけお、倜道を走る。
劇堎の灯りは、バックミラヌの䞭で少しず぀小さくなる。
煙を窓から逃し、ゆっくりず尟鰭でアクセルを螏んだ。


転職組のマヌメむド 終

いいなず思ったら応揎しよう