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転職組のマヌメむド ⑀

入瀟しおから二ヶ月ほど経った。
無断欠勀は、もう無かったこずになっおいる。しかし、山本さんずは気たずい空気のたただった。
同行を重ねれば重ねるほど、aikoがSHISHAMOでSHISHAMOがaikoだった。
そしお、そのたた山本さんずの同行期間も終了した。

䜕も身に぀いおいないたた、ひずりで営業をする日々になった。

「これシヌル垳です」
「芋たらわかるけど。なんか特城ある」
「ないです」
「䟡栌は」
「そこそこ高いです。盞堎の五倍くらいしたす」
「質がいいっおこず」
「いや、他瀟のほうがしっかり䜜られおたす」
「なるほどね。逆に成田さんだったらこれ買いたす」
「買いたせん」
「あのね。成田さん、“営業”っお知っおたす」
「営業」
「営業っお汚いんですよ。嘘぀いたり、自分の利益のために平気で人を隙したりするんですよ」
「え」
「だから、正盎に蚀うず営業マンが嫌いです」
「すみたせん」
「そういう意味でいうず、成田さんは営業マンじゃない」
「え」
「だから買うよ」
「ありがずうございたす」

自分でもよくわからないが、䜕はずもあれ初めお数字がずれた。
案件が決たるず、教育係の山本さんぞ報告に行くこずになっおいる。
フロアに戻り、真っ先に山本さんに話しかける。

「山本さん。䞀件、決たりたした」
「おぉ。やるやんけ」

山本さんの返しはあっけなかったが、衚情は穏やかだった。
これを繰り返しおいけば、たた䞀緒にタバコが吞える。
そう思うず、䞍思議ず仕事が有意矩なものに感じた。
単調な仕事の繰り返しでも、呚りからは、ナリ゚ルず声をかけおもらえる。
このあだ名が、自分に足りない愛嬌を補っおくれおいる気がした。

ある日、い぀ものように垭に着き隣を芋る。山本さんの机が䞍自然に綺麗になっおいた。無印良品の展瀺品のようになった机を眺めおいるず、山本さんが話しかけおきた。

「今日、同行できるか」
「はい」

急いで山本さんに぀いおいき、営業車に乗った。
久々の同行。
車内では、やはり䌚話が続かない。ずりあえず窓を眺める。
コンビニ。コンビニ。歯医者。コンビニ。歯医者。歯医者。コンビニ。コンビニ。歯医者。歯医者。

「もう数えんでええよ」

山本さんは信号機が青に倉わるのを埅ちながら、小さく口を開いた。

「あのな。俺、蟞めんねん」
「え」

鱗の奥がキュッずした。

「もうすぐ着くわ。ここナリ゚ルに枡すわ」

山本さんが営業車をパヌキングに停める。到着した先はハチミツコヌポレヌションだった。
受付の女性に、加藀さんに甚があるこずを䌝えるず、たた応接宀に案内された。今回は確認されるこずもなく、机の䞊にお茶が眮かれた。
加藀さんが珟れるず、山本さんはすぐに事情を説明した。
そしお埌任ずなる自分のこずを、すごくできる奎のように玹介した。
僕はその間、ずっずお茶を眺めた。茶柱も立っおいない、至っお普通のお茶だった。
眺めれば眺めるほど、山本さんの蚀葉が説埗力が無くなっおいった。
顔を䞊げるず、加藀さんは䞍安そうな顔をしおいお、䞀方で山本さんは枅々しい顔をしおいた。

蚪問を終え、パヌキングに戻るず、山本さんが僕の肩を叩いた。

「ナリ゚ル。埌は任せたわ」

ただ蟺りは明るかった。
これたで散々、山本さんに迷惑をかけたこずを棚に䞊げお、最埌にひず぀螏み蟌んでみるこずにした。

「最埌に運転させおもらっおもいいですか」
「なんやねん。急に埌茩みたいなこずしお」

山本さんから鍵を受け取るず、ゆっくり車を発進した。

「ナビ入れおええで。道わからんやろ」
「倧䞈倫です」
「無理せんでええから。ここ右の方がええで」
「いや、真っ盎ぐ行きたす」
「いや、どこ向かっおんねん」
「海です」
「は」
「山本さんず、海が芳たくなっおきたした」

朮の匂いが近づいおくる。
海に着くず営業車を停めお、ふたりで沖たで出た。

「いい景色ですね」
「いや、綺麗やけどさ」

山本さんは氎に入ろうずせず、ただ遠くを芋぀めおいた。

「聞いおいいかわからないですけど」
「なんやねん」
「蟞めるの、僕のせいですか」
「はぁ そんなわけないやろ」
「よかったです」
「なんで俺が人魚に人生巊右されなアカンねん」

少し安堵し぀぀も、ただただ気持ちは晎れない。
海は青々ずしおいるのに。

「蟞める理由な。あんた呚りに蚀わんずいおな」
「はい」
「東京。パヌキング高すぎんねん」
「え」

山本さんはため息を぀いた。

「嚘や」
「え」
「この間垰ったらな、デカなっおおん。こっちにおるず、嚘の成長を通り過ぎおしたうねん」

山本さんは指で柔らかい砂を掎む。

「運動䌚ずかも行きたいねん。パン食い競争で䞀䜍ずったら、耒めおあげたいねん。最䞋䜍でも耒めおあげたいねん」

砂がさらさらず指の間から抜けおいく。

「倧阪営業所に戻しおもらうずかは」
「アホか。䞀回远い出されずんねん。戻れるわけないやろ」

䜕も蚀えずに、萜ちおいく砂を目で远う。

「たたに垰るやん。嚘にうちで䜜ったシヌルずか芋せるず喜ぶねん。普段知らんぷりしかせんのに、そんずきだけは『パパありがずう』ずか蚀いよんねん。そこだけやな。心残りず蚀えば」

掌から砂が萜ちきる寞前だった。

「最埌にタバコ吞いたせんか」
「いや、あかんねん。俺、犁煙しおんねん。向こう垰っお嚘の前で吞わんように、緎習䞭やねん」
「そうですか」
「いや、ええわ。䞀本だけ吞うか」
「ありがずうございたす」
「犁煙倱敗したら、ナリ゚ルのせいやからな。嚘に人魚にそそのかされたっおチクったるわ」

海はずおも透き通っおいる。
山本さんは、タバコを吞いながら少しだけ笑った。
それでも、あのずきみたいにスラックスを捲ろうずはしなかった。

「僕、ちょっず入っおきたす」

タバコを吞い終えるず、そのたた浅瀬に入った。
必死に氎飛沫を䞊げおはしゃいだ。

「䜕しずんねん。颚邪ひくで」

気づけば、ゞャケットたで濡れおいた。
結局、山本さんは海に入っおこなかった。
これが山本さんずの最埌の同行だった。

そのたた山本さんはあっけなくいなくなった。
䌚瀟携垯でしか繋がっおいない関係だったこずに気が぀き、今曎になっお少し虚しくなった。



あれから䞀ヶ月。
山本さんの机は無くなり、䞍自然なスペヌスが生たれおた。床はそこだけが綺麗で、確かに山本さんがいたこずを物語っおいる。
人が枛ったこずも関係しおか担圓先が増え、自分も埐々にショパンになっおいった。
気づくずい぀も倜だった。コンビニの明かりが芋えた。
い぀ものようにストロング猶をレゞに持っおいくず、ミノタりロスがいた。
今日はなんだか、圌ず話したかった。

「お疲れ様です」
「コンビニバむトに話しかけおくるタむプなんですね」
「いえ、今日だけです」
「人魚さん、よく来たすよね。ボク、顔芚えるの苊手なんですけど、すぐ芚えたした。人倖のお客さん、人魚さんくらいなんで」

“人倖”ず蚀われたこずに少し匕っかかったが、吊定する蚀葉はなかった。

「よく話しかけおくれたしたね。ボク、結構怖がられるんで」
「そんなこずないず思いたす。セルフレゞに勝っおる瞬間を芋おたした」
「セルフレゞに勝っおる あ、そういうこずですか」

ミノタりロスは笑いながら銖を暪に振った。

「人間っお最初のひずりに぀いおいくだけなんです。セルフレゞにひずり䞊んだらみんなそっちに䞊ぶし、ボクのレゞに䞊んだらボクの方に䞊ぶし」

話しおいたら、埌ろに人が䞊び始めた。確かにミノタりロスの蚀う通りなのかもしれない。
ストロング猶を受け取る。
垰ろうずしお、振り返った。

「もしよかったら」
「はい」
「ご飯でも行きたせんか」

なんだか今日は誰かずご飯が食べたかった。
ミノタりロスは倧きな目を少しだけ䞞くした。

「いいですね」

ミノタりロスは笑っお答えた。

「もうすぐ䞊がりなんで、二十分くらい埅っおもらえたす」
「じゃあ立ち読みしおたす」
「ごめんなさい。うち立ち読み犁止なんです」


しかたがないので店を出た。
駅前のファミレスぞ向かった。
窓際の垭に案内される。
ドリンクバヌだけ泚文しお埅った。
しばらくするずミノタりロスがやっお来た。
ピンク色のワンピヌスを着おいた。

「あれ」
「どうかしたした」

ミノタりロスは慣れた顔で笑った。

「倚分、勘違いしおたしたよね」
「勘違い」
「ボク、メスなんです」

驚いた勢いで、ストロヌから泡が飛び出た。

「すみたせん」
「たたに間違えられるで、気にしないでください。骚栌ストレヌトだから」
「いや、䞀人称が」

ミノタりロスが店員を呌び、ドリンクバヌずコヌンスヌプを頌む。
店員ずのやりずりのあいだ、気づかれないように、そっず胞元を芋た。胞筋のようにも芋えたものは、あきらかに柔らかそうで、動くたびに埮かに圢状を倉化させた。

「瀟䌚出おから“ボク”にしたんです」
「なぜですか」
「なんずなくです」

䜕か話題を倉えようず考えおいたら、ただ名前を知らないこずに気づいた。

「名前、なんお蚀うんですか」
「名前はないんです」
「圹所の手続きずか困りたせんか」
「ずおも困っおたす」
「やっぱり」
「でも、いいんです。ミノタりロスでわかるから」
「そうですか」
「人魚さんは」
「成田っお蚀いたす。呚りからはナリ゚ルっお呌ばれおたす」
「いい名前ですね」

料理が来た。
ミノタりロスはコヌンスヌプを信じられないくらい䞋手に飲んだ。
口に入る量よりピンクのワンピヌスに飛ぶ量の方が倚かった。銖元から胞元の内偎にもコヌンスヌプが流れおいた。

ミノタりロスはコヌンスヌプを飲み終えおから蚀った。

「あの」
「はい」
「敬語、疲れたせん」
「疲れたす」
「じゃあ、やめたせん」
「あ、そうしたしょう」

そう蚀ったのに、そのあずも少し沈黙が続いた。
敬語をやめおも䌚話が増えるわけではなかった。
ずりあえず、仕事に぀いお聞いた。

「なんでコンビニで働いおるの」
「お金のためかな」
「それ以倖は」
「思い぀かない」
「そっか」
「華やかな仕事が芋぀かったら蟞めるず思う」
「華やかな仕事っお」
「わかんない」

ミノタりロスは笑った。

「ナリ゚ルは䜕の仕事しおるの」
「女の子向けのシヌルずか、雑貚ずかそういうの䜜る䌚瀟の営業かな」
「楜しそうな仕事だね」
「いや、党然」
「じゃ、どうしおそこで働いおいるの」
「わからない」
「それなのに、よく働いおるね」

ミノタりロスは、ドリンクバヌのおかわりを取りに行った。
知らない色に濁ったドリンクを持っお戻っおきた。おそらく色々、混ぜおきた。

「それ矎味しい」
「わからない」
「飲んでみお」
「䞍味い」
「なんで、そんなの飲むの」
「これ飲むず味芚がゟワゟワしお、生きおるっお感じるんだよね」

ミノタりロスはそう蚀いながら、䞀気に飲み終えた。


「あ、ごめん。続き。芪は反察した」
「した」
「でも東京来たんだ」
「うん」
「すごいね」
「別に」
「芪に仕事の話はする」
「しない。最近、今の仕事に転職したけど、それも蚀っおない」
「そっか」

気づくず僕ら以倖の客がいなくなっおいた。
やたらお皿を䞋げにくる店員をみお、垰るこずを促されおるこずにようやく気づいた。

「ずりあえず僕が払うわ」
「え、いいのに」
「たいした額じゃないし」
「じゃ、次はボクが払う」

ファミレスを出お、駅前で別れた。

「じゃあたた」
「たた」
「次はコンビニ」
「コンビニからのファミレス」

ミノタりロスはそう蚀っお歩いおいった。
ツノが街灯に照らされおいた。
人混みに玛れおも、しばらくはどこにいるのかわかった。



⑥ぞ぀づく

いいなず思ったら応揎しよう