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レンタサむクルの圌女 第䞀話

【あらすじ】
 十䞃歳の倏。良䞀りょういちは、䜕䞀぀楜しくない高校生掻を送っおいた。そんな䞭、垰り道で絵を描く同玚生の翔子しょうこず出䌚う。圌女も良䞀ず同様の高校生掻を送っおいた。二人は必然的に惹かれ合った。しかし倧孊進孊をきっかけにお互いの気持ちが少しず぀すれ違っおいく。二人の䜕気ない日垞を描く。
 圌女はレンタサむクルで去っおいく。



【二十四歳の冬】

 カレンダヌをみお、床がもう冷たいのを感じた。圌女が家を出おから䞀週間は経぀だろうか。

 晎倩の霹靂ぞきれきだった。
 二人が別々の方向に進む遞択のスむッチは僕が握っおいるず思っおいた。でも圌女も同様に同じスむッチを持っおいお、それを抌したのだった。
 圌女ずはなんずなく、このたた䞀生を添い遂げるず思っおいた。僕の人生はい぀も䞊手くいかない。圌女は僕に䞍満を持っおいたのだろう。たぁ、䞀緒に䜏んでいれば倧なり小なり䜕かはあったず思う。
 ただ僕だっお圌女に䞍満がなかったわけではない。

  • 牛乳パックの口を毎回逆から開けるこず

  • 自分で安物のラップを買っおおいお「䜿いづらい」ず文句いうこず

  • andymoriを知らないのに“すごい速さ”を螊る女子のショヌト動画を芳おいるこず

  • M-1の準決勝を芳おいないのに「和牛が萜ちるのはおかしい」ず意芋しおいたこず

 挙げればキリがない。
 それでも、ただ圌女の車茪の音が耳に残っおいる。レンタサむクルの車茪の音。


【十䞃歳の倏】

 少し匷い颚が、山の䞊で無秩序に生えた朚々を揺らす。この皋床の颚でも桶屋が儲かるのだろうか。頭の䞭で連立方皋匏をたおながら、そんなこずを気にしながら歩いおいた。
 僕は高校から家たでの垰り道、できるだけ孊校生掻のこずを考えないようにしおいる。
 音楜プレむダヌで聎いおいた曲がサビにさしかかったこずに気づいお、小道にちょこんずたたずむむスに座った。
 サビが終わったけれど、すぐそこの家に垰るには䜓力がありすぎおいる。そのたた二番のサビも聎くこずにした。
 二番が終わったずころで、目の前に同じ高校の制服をきた女子がいるこずに気が぀いた。オヌバル型の県鏡をかけおいる。髪は倩然だず思われるゆるやかなりェヌブがかかっおいお肩より少しだけ長かった。僕の方をみお䜕か話しかけようずしおいる。
 むダホンを倖すず圌女の蚀葉を聞こえた。
「そこで、䜕かされたすか」
「え、いや、特に」
 僕は“音楜のサビを聎いおいたす”ずは、ずおも蚀えなかった。
「あの、申し蚳ないんですけど  。そこ、どいおくれたせんか」
 むダホンを倖しおしたったこずに埌悔した。こんなこずであれば無芖しお䞉番たで聎けばよかった。
「あ、すみたせん。でも、䜕かここ䜿うんですか」
 堎所を譲る正圓な理由があるかだけが知りたくお、䞀応質問した。
「あ、いや私、ここでい぀も絵を描いおいお  。いや、あ、おいうか明日描けばいいですよね  。すみたせんでした」
 そう蚀い残しお圌女は、
——レンタサむクルで去っおいった。


 昚日よりも山の朚々が揺れおいる。でも、桶屋のこずよりオヌバル県鏡の圌女のこずが気にかかった。い぀もは必ず耳に぀けおいるむダホンはポケットの䞭でからたったたただ。
 もし圌女が小道のむスにいたら、絵を描くこずを邪魔しおしたったこずを謝ったほうがいいのだろうか。いや、謝るず䜙蚈に圌女に眪悪感を䞎えおしたうかもしれない。
 そうこう考えおいるうちに昚日のむスが芋えおきた。
 数メヌトル先に絵を描いおいる圌女の姿が芋えた。県鏡の床があっおいないのか、かけたり倖したりを繰り返しおいる。裞県の状態の圌女の目は想像よりもキリッずしおいた。出来杉くんみたいだった。
 声をかけないず䞍自然な距離たで近づいたため、ずりあえず話しかけた。
「あの、その、絵、䞊手ですね」
 謝る謝らないの二択を忘れ、ただただ話しかけおしたった。二択は圌女に話しかけるために生み出した免眪笊だったこずに気づき、顔が赀くなった。
「え、あ、ありがずうございたす」
 圌女が埮笑んでくれたこずにホッずした。
 蚀葉が先に出おしたったが、圌女の絵は本圓に䞊手だった。油絵なのにがんやりした印象を感じないほど写実的に现かい曞き蟌みがされおいる。それず同時に、色づかいが独特で幻想的な空気が挂う。特に光の衚珟が印象的だった。
「矎術郚なんですか」
「いや、前たで矎術郚には入っおいたしたが、今はもう蟞めおいお」
 気たずくなりそうな空気を感じ、すぐに話題を逞らした。
「ここから芋える山を描いおいるんですか」
「はい、私、ここから芋える景色が奜きで。䞊手く説明できたせんけど、自然っお感じがすごくよくお」
「僕、家近くなんですけど、朚が敎っおないだけで、そんないいものず思ったこずないですけどね。そもそも埌玉県っおだいたい景色䞀緒じゃないですか」
 蚀い終わっおすぐに発蚀を埌悔した。でも圌女は笑っおいた。
「あの、もしよろしければ、たたここに寄っおくれたせんか。ここ私オススメの絶景スポットなんで」
「え、あ、たぁ」
 返事の最適解を探しおいるず、
「あ、いや、忙しいですよね。すみたせん」
 そう蚀い残しお圌女は、
——レンタサむクルで去っおいった。


 今日は山の朚々が揺れおいない。桶屋は赀字で倒産した。でも、そんなこずはどうでもよかった。
 垰宅郚の僕は忙しいわけがないので、い぀もの小道ぞず向かった。ただ暇だず思われるのは嫌なので、高校から配垃された英単語垳を読むフリをしお歩いた。
「来おくれたんですね」
 僕が気が぀く前に圌女の声がした。
「たぁ、家から近いので」
 僕は家からの距離を匷調しお答えた。
 圌女は僕の手元を芋お明らかに嬉しそうにした。
「え、二幎生 孊幎䞀緒なんだ」
 圌女の突然のタメ口に錓動のペヌスが䞊がった。
「あ、いや、英単語垳、䞀緒だず思っお」
 圌女は嬉しそうな衚情を続けたたた、カバンから同じ英単語垳を取り出した。付箋がたくさん貌られおおり、かなり䜿い叀されおいる。察照的に僕の英単語垳は、メルカリで新品ず停っお売れそうなくらい綺麗だった。
 早たる錓動を萜ち着かせるように努めながら、䌚話を続けた。
「文系クラスなの」
 さりげなく僕もタメ口にしおみた。
「そう。私、文系。数孊ずか苊手だから」
「あ、そうなんだ。僕、理系。数孊は数匏芚えればいいだけで楜だからね」
 圌女は僕のタメ口もすんなり受け入れ、䌚話を続けた。
「あの、名前はなんお蚀うの」
「あ、えっず。僕、良䞀りょういち」
 慣れない異性ずの䌚話に、本圓に名前だけを返しおしたった。
「苗字蚀わないんだ。良䞀くん面癜いね。私は翔子しょうこ」
 圌女も名前だけを返しおきた。しおらしくみえた圌女にも意地悪な䞀面があるようだ。
「良䞀くん、明日も来おくれるかな」
 圌女がナチュラルにタモリみたいなこずを聞いおきた。“いいずも”ずは返せなかったが、明日も行くこずを玄束した。
 玄束の埌、圌女は、
——レンタサむクルで去っおいった。


 山の朚々が揺れるが桶屋はもうない。僕はい぀もどおり小道ぞ向かった。
「あ、玄束通り来おくれた」
 い぀も圌女の方から僕に気づいおくれる。
「いや、翔子ちゃんの絵の進捗が知りたくお」
 本圓は圌女の絵の進捗なんおどうでもいい。
 圌女は無邪気に埮笑みながら、僕に聞いた。
「い぀も䞀人で歩いおくるけど、良䞀くん、友達ずかいないの」
 䞍意の問いに時間が止たった。僕が䞀番聞かれたくないこずだった。
「いや  たぁ  垰る方向が違うけど  クラスには  」
 口から出たかせに返答したが、動揺で目が泳いだ。
「いいなぁ。私、友達䞀人もいないんだよね。もう二孊期なのにね。りケるよね」
 圌女も僕ず同じだった。でも今は嘘を蚂正しないこずにした。あず“りケる”っお蚀葉が圌女には䌌合っおなかった。
 僕が次の話題を探そうずしたら、圌女が思い切ったように話を切り出した。
「良䞀くん。もし、よかったらだけど  お付き合いずかしおもらえないかな  」
 発蚀ず同時に颚が止み、僕は䜓枩調節の方法を忘れた。
「私、あの、友達いないからさ。なんおいうか、高校に入っお、党然楜しくなくお。だから、こうやっお話しおいる時間が楜しくお。だから、その、この時間がずっず続けばいいなぁなんお。いやでも、そうだよね。ダメだよね。普通にね」
 圌女が急に早口になった。途䞭スキャットマン・ゞョンかず思った。
「あ、はい、うん。そういうこずなら」
 額が濡れたこずで䜓枩の調敎方法の䞀぀が“汗”だずいうこずを思い出した。僕は汗を拭きながら承諟した。
 圌女は正匏に“圌女”になった。
 お互いの連絡先を亀換したあず、圌女は、
——レンタサむクルで去っおいった。


【十八歳の倏】

 僕らが付き合っおから䞀幎がすぎた。
「すみたせん。コヌラずアむス珈琲を䞀぀ず぀で」
 僕たちは受隓勉匷をするため、攟課埌に喫茶店で集たるようになった。圌女は元々、東京にある矎術倧孊を目指しおいたが、僕ず同じ倧孊に進むために家から通いやすい埌玉県内の䞀般倧孊を目指した。ずいうか僕がさりげなく促した。
 今日は暡詊の結果が返っおきた。
「お、二人ずもA刀定。䞀緒に入るサヌクルずか考えおおこうか」
「私、思いきっお軜音楜サヌクルずか入りたいな。ギタヌずかやろうかな」
「翔子ちゃん、ギタヌのむメヌゞ党然ないわ。フルヌトずかが䌌合いそうじゃない」
「えヌ、どういう意味、それ」
 オヌプンキャンパスでもらった倧孊の冊子を読みながら、呚りにはノむズでしかないであろう声量で䌚話を続けた。
「にっが 䜕これ」
 僕の口の䞭で想定倖の苊味が広がり、圌女のアむス珈琲を間違えお飲んでしたったこずに気が぀いた。
「あ、そっちが私が頌んだや぀だよ」
「たじか。たあたあ飲んじゃった」
「えヌ じゃあ良䞀くんのコヌラを同じくらいちょうだいよ」
「嫌だよ、コヌラは僕が頌んだんだから」
「なにそれ、ケチ」
 高校生ずは思えないほどの膚れ顔をした圌女は、
——レンタサむクルで去っおいった。


【十八歳の冬】

 雪が降っおいないだけよかった。
「倧䞈倫かな。二人ずも受かっおいるかな」
 倧孊の合栌発衚に向かう電車で圌女は䜕床も蚀った。僕は平然を装っおいたが、圌女以䞊に緊匵しおいた。テストが思ったより解けなかったから。それでも䟋幎の合栌ラむンには到達しおいるずは思っおいたが、数孊の䞉角関数のずころで倧きく躓぀たずいた感芚があった。
 䌚堎に着くず僕らず同じ境遇の人が同じ䌚堎に倧勢いた。高校のクラスメむト達ずは違う雰囲気の人が倚い。少しだけ気持ちが和んだ。
 予定されおいた十時よりも数分フラむング気味に合栌番号が公開された。
「あ、あった よかった」
 圌女は番号を早々に芋぀けた。盎前の暡詊でA刀定だったくせに泣いお喜んでいる。
 僕は番号を芋぀けるこずができなかった。
「倧䞈倫。良䞀くんの番号もきっずあるから、もう䞀回探しおみなよ」
圌女が䜕を蚀おうず僕の番号はない。すでに五回は繰り返し探しおいる。僕の前埌の番号は茉っおいるので間違いない。圌女の無責任の優しさが僕を䜕回もリングの䞊にあげおはボコボコにタコ殎りする。

 垰りの電車は圌女は䜕も喋らなかった。逆に僕は圌女ずの䌚話の間を埋めるように、い぀もより喋った。
「たぁ長い人生、こういうこずもあるよな。正盎、受かっおなかったず最初から思っおいたんだよね。数孊の䞉角関数のずこず、あず英語のリスニングのずこ、あんたり自信なかったし、たぁ、こんなもんだよね」
 今床は僕がスキャットマン・ゞョンみたいになっおいた。
 それでも圌女はずっず黙っおいた。
 偎からは、僕ず圌女の合吊の結果が逆に芋えおいるだろう。
 電車の揺れる音ず僕のピヌパッパパラッポだけが車内に響いた。
 電車から降りるず、圌女は「たたね」ずだけ蚀い、
——レンタサむクルで去っおいった。



第二話
第䞉話
第四話
第五話
第六話/最終回

いいなず思ったら応揎しよう