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260509 愛の書

    今日のプレイ・リストから 566
    "The Book of Love"
    オリヴィア・ロドリゴ
    出典:War Child Records "HELP(2)"
    原曲:ザ・マグネティック・フィールズ
    ポップ/R&B/ジャズ


    War Childは戦時下の子供たちの支援を目的とする慈善団体です。1992年に勃発したボスニア紛争を契機として、その翌年に設立されました。紛争は泥沼化し、1995年に最悪の局面を迎えます。支援は急を要していました。そこで、ブライアン・イーノが中心となってチャリティ・アルバム"HELP"を発表することになりました。

      ☆

    イーノは「月曜に録音して土曜にリリースする」と宣言します。当時、険悪な仲だったオアシスとブラーも含め、多くのミュージシャンが参加しましたが、9月4日の月曜に全20曲が録音されました。翌日にはミキシングを終え、予定通り9月9日の土曜に発表されました。

    発売当日に71,397枚を売り上げました。やがて販売総数は60万枚を超えました。寄付金なども併せると125万ポンド(約2.5~3億円)以上を調達し、支援の対象となる子供たちの心の支援、身体の保護、教育等に役立てられました。

      ☆

    それから30年が経ちました。戦時下の子供たちは、むしろ増加しています。オスロ平和研究所による2025年時点のまとめによると、戦争地域から50㎞以内に住む子供の割合は約10%から約21%に倍増しました。世界人口も増加しているので、人数にすると約2.3億人から約5.2億人という途方もない数になります。

    2025年に改めて"HELP(2)"が編集されました。総合プロデューサーの名前は喜びの驚きをもって迎えられました。1月に急性骨髄性白血病を公表していたジェームス・フォードだったからです。大病を乗り越えた人が持つ強い使命感を抱いたのかもしれません。イーノ同様の影響力によって、短期間に23曲を1枚にまとめました。

      ☆

    参加ミュージシャンの中で、オリヴィア・ロドリゴは強烈な存在感を示しています。ブリット・インディーズ・ミュージシャンが多い中、たった一人のアメリカン・スーパー・ポップ・アイドルです。フォードは、アルバムのトリに、世代や地域に関わりなく誰からも広く知られたワールド・ビッグ・ネームが必要だと考えたのでしょう。

    録音する場所と日時が先に決まっているなんて、ロドリゴにとって初めての経験ではなかったでしょうか。しかも、彼女はツアー中でした。ロンドンのアビー・ロード・スタジオまで行かなければなりません。飛行機で飛んできて、なんとか用意できたのはたったの4時間。これで成果を上げなければいけません。何が歌えるでしょうか。

    フォードがいくつか提案した中から、ロドリゴは昔から好きだったアメリカのインディー・ポップをカヴァーすることを選びました。静かなギターで始まります。弾いているのはブラーのグレアム・コクソンです。ロドリゴは伸びやかな明るい声のソプラノですが、少し低く曇った声で、そっと歌います。

      ☆

    あなたを愛しているという歌ではありません。愛の本は難しくて退屈だけれど、あなたが読んでくれるなら好きだ、という歌です。なぜこんな歌を選び、こんなふうに歌うんだろうとずっと考えています。

    京都国際写真祭へ行って、ファトマ・ハッスーナを観た後にふと思いました。ハッスーナはガザという「死と崩壊のただなか」で、『生』を捉えようとしました。彼女の残した写真集は決して難しくないし、まして退屈なわけもありませんが、「愛の本」であることに間違いはありません。

    彼女は家族全員とともにミサイル攻撃で亡くなりました。彼女に子供はいなかったんですが、彼女が写した子供たちはどんな気持ちだろうと思いました。自分を写してくれた、確かに愛されたことを喜びとともに思い出す、切ない歌だと思います。


     
     

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