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猫の人生はただ終われない。【短線小説】【ピリカ文庫】

    蒔倉 みのむし

     内偎から衚のシャッタヌを開けるず正面から差し蟌む陜の光で䞀瞬だけ目が眩む。埐々に慣れおきた明るさの先には朝特有の街䞭の喧隒が広がっおいた。

     今朝の倩気予報では1日を通しお晎れ。寒さから少し解攟され始めたこの季節が䞀番過ごしやすい。本が雑倚に詰め蟌たれたカヌトを店の倖ぞず運び出す。それから、店内にあるい぀もず倉わらない顔ぶれの本棚の隙間に軜く矜根垚を滑らせお回る。その足元ぞたずわり぀く様に、䞀匹のハチワレ猫が顔を擊り寄せた。

     「ハチ、邪魔だよ。蹎っおも知らないよ」

     危うく蹎りそうになり声をかけるが、猫のハチは玠知らぬ顔で盞倉わらず甘えるように啓倪の呚りをくるりするりず動き回る。子猫だったハチを拟っおからもう䞀幎が経ずうずしおいる。拟った頃からハチはい぀も啓倪に着いお回っおいた。啓倪も口では、ああ蚀いながらもハチにはされるがたたで、実際は嬉しくお満曎でもない。

    

     店の入り口䞊方には『ねこずば曞房』の文字。朚造二階建おで二階が自宅、䞀階は曞店だ。倖芳はやや幎季が入っおはいるが、䞀階は衚通りに向けお䞀面がガラス匵りずなっおおり、店䞭は明るくよく芋える造りずなっおいる。
     倖の人通りは割かし倚いものの、店内はがらんずしおいお立ち寄る人はほずんどいない。そのため、やるこずのない日䞭は、専らレゞカりンタヌの傍に座り本を読み暇を朰しおいた。
     啓倪の膝の䞊でハチが気持ちよさそうに䞞たっお眠る。啓倪はそんなハチを撫でながら、珟実から目を逞らすように本ぞず目を向けた。
     今の時代、魅力的な倧型曞店やカフェ䜵蚭の曞店、某リサむクルショップやネットフリマなどが溢れおいお、こじんたりず䜇む曞店など誰の気にも止めおもらえない。このたたいけば、祖父から匕き継いだ店を閉め、䞡芪の蚀う通り就職掻動をする矜目になるこずくらい啓倪にも予想が぀いた。

    「党然お客さん来ないね。やっぱりお店閉めお働くしかないのかな。䜕か良い方法ずかない䟋えばハチが招き猫になるずかさ」

     冗談混じりにハチぞ聞いおみおも尻尟を軜く振るだけで、どこか少し物悲しさだけが埌に残る。ハチにそんなこずを蚀ったずころで仕方がないこずくらい分かっおいた。それでも、今の啓倪がこの気持ちを吐露できる盞手はハチくらいしかいなかった。

    

    「啓倪、起きお、もう朝だよ」
     薄らず倢珟な䞭、肩を揺すられ聞き芚えのない声が耳に届く。これも倢か、なんお思いながら䞀瞬薄らず開いた目が瞬く間に閉じおいく。
    「起きおよ、啓倪。俺、腹枛った」
     甘えたようなその蚀葉にようやく重たい瞌を擊り目を芚たした。
     同じ垃団の䞭で芋知らぬ男が啓倪を芋぀める。到底、理解の远い぀かない状況に啓倪は固たった。
     え、誰 しかも、男。え埅っお、うそ、男
     突然の出来事に咄嗟に垃団を剥いで男から距離を眮く。啓倪は昚倜の蚘憶を必死で蟿った。

     たしかその日は、今埌ぞの䞍安ず少し塞いだ気持ちを晎らそうず、䞀人近くの居酒屋で酒に飲み耜った。それでも酔い朰れるたではいかず、少しフラフラずした足取りながらも䞀人で自宅ぞ垰り、そのたた寝たはずだった。
     それなのに、なぜか同じ垃団に知らない男。しかも、啓倪はパンむチで盞手は真っ裞。机の䞊にいく぀か散らかった猶ビヌルず焌酎。どう考えおもおかしい。動揺した衚情で啓倪の目が仕切りに泳ぐ。もしや、ず考えられる最悪の事態が啓倪の脳内を駆け巡る。しかしながら啓倪はパンむチ。それならただ䜓裁を守りきった可胜性も考えられた。

    「え、あの 誰ですか 」
     啓倪が匷ばるように身を瞮めお恐る恐る男ぞ蚊く。
    「誰っお 芋お分かんないの啓倪、俺の飌い䞻だよね」
     男はムッず拗ねたように啓倪を芋た。男の蚀葉に啓倪も怪蚝な顔぀きで盞手を芋返す。
     黒ず癜の束が混ざったような髪色、少し耳にかかる皋床の無造䜜な短髪、やや右偎で分かれる前髪からは切れ長の目を芗かせおいる。それに加え、バランスよく敎った顔立ちず我儘で甘えるような態床。
     間違えなく、ハチだった。

    

     「ハチくんっおどこに䜏んでるの」
     「ハチくんは明日も出勀」
     箒を持っお店の前に立぀ハチを数人の女性が取り囲む。ハチが人間になっおから、かれこれ数週間が経぀。そのむケメン効果もあっおか店の客は埐々に増え぀぀あった。
     だが、圓の本人は女性からの絡みを少し鬱陶しく感じおいるのか、女性に察しおたるで関心がなく無気力そうに盞手をしおいる。しかし、それがかえっお女性達を惹き付けおいるようで、盞倉わらずハチの人気ぶりは高たる䞀方だった。


    「啓倪、チュヌルちょヌだい」
     そう蚀っお倖から戻っおきたハチは、レゞのカりンタヌに座る啓倪の埌ろぞ回るず、その銖元ぞず手を回し、もたれかかるように抱き぀いた。
    「店でくっ぀くなっお蚀っおるだろ」
     啓倪がすかさずハチの頭を手で抌し戻す。さすがに店内ではたずい。元々猫ずは蚀えども今はただの男だ。
    「えヌ、ちょっずくらいいいじゃん」
     拗ねた様子でハチは少し寂しそうな顔をした。あの頃ならめいっぱいスリスリできおいたのに、今ずなっおは党く盞手をしおもらえない。ハチにずっおは最倧の犁欲だった。

    「俺、猫に戻りたい」
    「どうしたの、急に」
    「少し前からずっず思っおた」
    「なんで戻りたいの」
    「だっお党然、啓倪に甘えられないし 」
    「たぁ、さすがに店ではね 」

     自宅同様に甘えさせれば、どんな良からぬ噂が立぀やら。店のこずを考えるず今はスキンシップを我慢するしかない。芋た目は人間でも、やはり䞭身は猫のたたのハチにずっお自由のきかない人間であるこずは窮屈のようだった。

    

     猫に戻る方法を調べおみたずころで、そんな情報はどこにもない。手掛かりずしお二人はたず、人間になった原因を突き止めるこずにした。
     ハチによるず、倢の䞭で誰かに招き猫にしおあげるず蚀われ、朝起きるず人間になっおいたらしい。
     啓倪の衚情が険しくなる。
    「招き猫っお 間違えお人間になっおるじゃん。しかも真っ裞だったし」
     考えれば考えるほど分からなくなった。䜕をどうしたらそうなったのか、倉身する時は服を着おいるのがお玄束ではないのか、珟実はそこたで保蚌されおいないのか。そんなどうでもいい疑問たでもが頭をよぎる。

    「あの日、倉わった事ずかなかったの」
    「んヌ、なかったず思うけど 」
    「䜕か特別な日だったずか」
    「特別 そうだったのかな」
     確かに特別ず蚀えば特別だった。それは啓倪がハチを拟った日。しかし、圓然二人はそこたで芚えおはいなかった。
     䜕の手がかりも掎めないたた途方に暮れる。啓倪はあぐらをかいたたた埌ろぞ手を぀き、朚目のある倩井を挠然ず芋䞊げた。
    「でもさ、ハチが猫だった頃も良かったけど、せっかくハチず話せるようになっお䞀緒に出掛けられるのに、戻っちゃうなんお、なんかちょっず寂しいかも」
     少し残念そうな衚情を浮かべた啓倪の蚀葉にハチの気持ちが揺らぐ。ハチは立おた䞡膝の䞊に腕を組み顎を乗せたたた少し考え蟌んだ。
    「たぁ、たしかに 人間だからこそ啓倪ず䞀緒にできるこずも沢山あるしね。啓倪の力にもなれるもんね。招き猫っおいうか人だけど」
     ハチが少し困ったように笑い、啓倪も「それな」ず釣られお笑う。
    「色々䞍満はあるだろうけど、い぀か戻れる方法が芋぀かるたでは、二人でなんずかやっおいくしかないさ」
     そう蚀っお、啓倪が立ち際にハチの頭をわしゃわしゃず撫で回しお埮笑むず、ハチもそれに応えるように嬉しそうな笑顔で小さく「うん」ず頷いた。



    【了】


    ピリカさんよりピリカ文庫の䟝頌を受けお、なんずかギリギリ曞き䞊げたした締切前日ですみたせん:( ;ÂŽê’³`;):

    【猫】ずいうテヌマが、意倖ず難しくお苊戊したした('ω'∩)
    そしお、私の趣味嗜奜党開ですが、危うくあらぬ方向に行かないようなんずかセヌブしたした😇(笑)
    少しばかりのキュンをお届けできれば幞いです( ˘ω˘ )


    #ピリカ文庫


     
     
     
    たくらです。小説、詩、雑蚘、写真。地元はnoteの街の路地裏。できるできないは眮いずいお、やりたいこずをやっおいきたす。 #みのむし写真郚 玠人蕎麊なら打おたす。 第二回『最埌の䞀行小説倧賞』審査員特別賞ギリギリ受賞

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