
たったひとつの問い
さほど遠くない昔、分不相応なほどの金を持った者がいた。
巷では
「お金持ちになるより本当の愛を、本当に恐ろしいのは本当の愛を知らないまま死ぬこと」
と歌われていた。
まあただの余った女優志望を捌くための風俗店の広告ソングでしかないのだが、その男はいろいろと分不相応であるが故に、それを求めた。
しかし、彼は金持ちなので中々普通の女にも出会えないし、庶民感覚もよくわからなかったし興味もなかった。そもそも、その国では、権力者…実質の王者に該当する特定一族以外の人間を、皆全て劣ったものと交配して、封建的な社会を作っていた。
表向きは人権宣言に一部同意した先進国の一種だったが、自分の国の特定一族以外の下民など、正直言って醜くて愚鈍であるが故に、なかなか食指が動かないのであった。
では外国の女性はどうか、というと、彼は日本ではそれなりに美しく、金持ちではあったが、正直、世界各国の金持ちに比べるとはっきり言って見劣りしたのだった。規模も金額もやっていることもはっきり言って周囲と比べて勝てるものなど何一つなかった。
その国は、為政者や責任者には傀儡をあてがうことを常とした国であった。彼が自惚れないように知能以外の外見や背の高さや視力を劣らせておくか、あるいは、長い傀儡生活の中で外戚から疎まれ、知恵とは何か議論させてももらえない無知な話し相手しかいないなかで、立場の弱い彼らの一族は、何かのタイミングで知能もどうでもいい配偶者を混ぜてしまったのだろう。恐らくは知能すら劣っている事さえあった。ああいった者には、おごり高ぶらないようにと、例えば「足が短い」とか「頭髪が禿げている」などの欠点を作っておくのである。もしどちらもなければ、不倫スキャンダルか、性的暴行や全裸で走り回ったなどの奇行、あるいは幼少期の失敗談などを全人類に見えるところに公開されるなど、傀儡にされて外戚に逆らえないような、何かしらの脅しがかかっていた。
しかし、ここでは見劣りするようなパッとしない立ち振る舞いはに見えるにしても、これでも母国ではかなりましな部類なので、彼自身が油断しやすいということも原因があるのだろう。
海外で強敵と切磋琢磨してきた他の国々のセレブに比べると、どう考えても緩さと言うか、弱い敵にしか勝ったことがないような、立ち振る舞いの抜けているところと言うか、世間知らずさがある。
常に緊張感のある海外に比べて、何処となく隙があるというか、周囲の命を奪われる危険に備えた狡猾さ故に意図をもって洗練された動作に対し、「なぜそうするのかわからない」のに一応模倣したが理由を考えられるほどの知恵を持たず、それ故に気持ち悪そうな顔をして真似をするので不安そうであり、何か自分が見落としているから彼と同じことをしていないのだとおぼつかないまま猿真似をしているようにも見える。その姿は時に間抜けに見えないこともなかった。少なくとも、この場で彼が一番輝くようなことは絶対にないだろうと思える。
挙句の果てに、自分が誰かより下になったこともないので、「どうしてそうするのか」と堂々と自分が知らないことを示して誰かに聞くような「ずぶとさ」がなかった。要するに自分以上の敵にあわない環境で育ってきたので、恥をかいた経験がないのだ。常に奥の方に押しやられ、鍛えられず、子供の前で容赦なく批判される機会もないのだろう。
なお悪いことに、その方が部下も仕事が増えて楽になるので、できる限り主君には愚鈍でいてほしいという需要もあったのだった。恐らく部下たちは誰一人も彼にそういったことを教えてはあげない。指摘するのは恥ずべきことであり失礼であるという文化圏だからだ。
当然、部下も見劣りするので、私にも「ああいった部下が欲しい」と言い出して解雇されても困るのである。主人そのものが劣等感を持ち、「自分程度しか扱えない、優秀な部下なんか持てば裏切るのだ」と小耳に挟んでおく程度の知恵があるだろう。きっと、その下地を作った韓非子を殺しておくぐらいには狡猾な子孫の一端なのであろう。日本の南側の殆どが中国大陸の民族である。
そこで、疑心暗鬼になる男に与えられたのは、この世のことを知りもしない娘、つまり彼を愛するように育てた子供である。
彼が大人になってから育てたため、時間がかかったので、彼はぎりぎり初潮を終えたばかりの娘をあてがわれた。
これがロリコン島ができる理由である。相当金を積んで買ったのだろう。
本当の愛を初めて体験した彼は、当然その体験を強く記憶する。
大金をかけた純粋さである。疑心暗鬼で全てを周囲に把握されながらも何も教わらず、豚の交配の様に周囲にせかされて様子を見ながらさせられた結婚から解放されたような気分だったろう。そこには何の責任もない。ただ休んで愛されるだけなのである。
それから、各国の金持ちと並べて特に秀でたところのない彼が、誰か自分より秀でた人を貶す時は「愛されていない人間の癖に」と言うようになった。
いくら優秀で美しい部下でも、非合法な方法でつくった盲愛タイプの美少女からの愛だけは得ることが難しかったからである。
小児性愛を味わっていない男など、彼に言わせれば発言権がなかったのであった。結果、彼に何か意見を物申したい男たちは、仕方なく、大金を払って彼のそれより美しい小児に愛されてから彼に提言する羽目になった。
こうして、大量の美少女が量産され、金銀宝石芸術品や教養や各種のスポーツや狩りやゲームの類の中に「小児性愛」が含まれてしまったのだった。
彼が一番金をかけた品物が「愛」だったが故にである。
お陰で、金銀宝石などを奪う如く、金持ちに偽物の愛を売りつけようとして、あっちの美少女の遺伝子は硬度が高く、あれは有名なだけで本当は性格が悪いだとか、一生身に着けるなら料理の上手いこっちだとか、これは希少で粒が大きい、あれはホルモン剤を入れただけで天然と偽っているがシリコンではないだけで形が悪いだとか、宝石商がお互いの仕入れの原産国を貶すが如く、お互いの飼育した偽物の愛を貶しあいながら、高値で取引されることになったのである。今後は、せめて、卵子と精子だけにしていただきたいものである。
多くの人が辛い目に遭った。辛い目に遭った事すら気が付かず、セクシーなそぶりを学ばされて、流行りが廃れたペットのように邪険にされる子供たちもいただろう。
キルケゴール曰く、「絶望を知らないという絶望」が存在するそうである。美少女たちは皆これに晒され、飼い主の好みによってはこの最大の絶望から脱する機会を避けて育てられた。あるものは途中で気がついて絶望に対する無知という最大の絶望から別の絶望を知ることになった。彼女らの気持ちは誰も顧みなかったし、彼らが宝石から金をとることがあっても要らなくなった宝石に何かやるようなことはなかった。
この悲劇のどれもが「幸せというものは、本当にこれなのか?」という問いの一つで、別に、起こらなくてよかったはずなのである。
速度を愛する軍事国家の名残りの残る、先進国の高貴な一族の末裔たちよ。少し我々ペットの為にも立ち止まってくれやしないか。
どうか、貴方のその姿を上から神がずーっと眺めていると錯覚してくれたまえ。さもなくば作家が地上に貴方の姿を書いてしまうぞ。