お米不使用!? 新感覚「ベジリゾット」に驚く──大阪・河南町発祥の里芋「石川早生」を味わう @食遺産 (元教授、定年退職897日目)
楠木正成ゆかりの大阪・千早赤阪村
以前、私の好きな昔の武将ということで、楠木正成について note で綴ったことがあります(4/12/2025)。高校時代に読んだ吉川英治さんの『私本太平記』がきっかけでしたが、その時「戦略家といえばまず正成!」と強く心に残りました。その正成が名をあげたのが、大阪南部の千早赤阪村にある金剛山の千早城での戦いです。鎌倉幕府の大軍を相手に、少数の兵で翻弄しました。私もこの辺りを車で訪れたことがありますが、大阪とは思えないほど山深い地形に驚きました。ドライブとしても楽しかったことを覚えています。
大阪・河南町と「かなん」
今回は、この千早赤阪村ではなく、その隣に位置する河南(かなん)町の話題です。「かなん」と聞くと、すぐに思いつくのが京都(関西?)弁の「かなんな(ぁ)」です。「今日も暑うて、ほんまかなんな」=「今日も暑くて、本当に参るね」、「そんなこと言われたら、かなんわ」=「そんなこと言われたら、嫌だ (困る)」といった感じで、基本的には不快・困惑・迷惑の気持ちを表します。語源的には「かなわない」が縮まった形で、「やってられない」「たまらない」に近い感覚です。友人や家族など近しい間柄で、軽い愚痴として聞くことが多い気がします。
『発見!食遺産』で地元発祥の食材探し
少し脇道にそれましたが、そんな河南町を、お笑い芸人の石田靖さんと元アイドルでタレントの須田亜香里さんが、テレビ大阪『発見!食遺産』で訪ねました。目的は河南町のおいしいもの探しでしたが、「地元発祥の食材がある」と聞き、二人は喜んでいました。まず、道の駅「かなん」で、地元の方が集まっている果物を見つけました。最盛期を迎えたイチジクで、ジャム用などに購入しているようです。駅長さんによると、河南町は大阪府第2位の生産量を誇るのだそうで、主な品種は「桝井ドーフィン」でした。さらに、希少な白イチジク「バローネ」を食べると、味が濃く、甘みも香りも強いとのこと。ドーフィンの糖度が平均 13〜15 度なのに対し、バローネは 20 度を超えることもあるそうです。ただし、イチジクは河南町発祥ではないため、二人はさらに食材を探します。(下写真もどうぞ)


ツルッと剥けてホクホク・トロトロ! 「なにわの伝統野菜」石川早生
そして見つけた河南町発祥の食材が、「なにわの伝統野菜」に認定されている里芋「石川早生 (わせ)」でした。「石川」という名称は、この地域の昔の地名「石川村」に由来し、他の品種より約1か月早く収穫できるのが特徴だそうです。そのため昭和 30 年代に全国へ栽培が広がり、現在ではスーパーでもよく見かける代表的な里芋の品種となっています。丸く小ぶりな形で、強い粘りとコクがあり、滑らかな口当たりとほんのりした甘みが特徴です。蒸したり茹でたりすると、ツルッと手で簡単に皮が剥けるのも特徴で、外はホクホク、中はトロトロとした食感を楽しめます。(下写真もどうぞ)

<追記> 里芋は縄文時代中期から日本列島に定着した作物で、江戸時代以前には単に「芋」といえば里芋を指していたそうです。正月に雑煮へ餅を入れない「餅なし正月」や、最上川の舟運文化に由来する「芋煮」は、水田稲作以前の根菜農耕文化の記憶を現代に伝えています。
「きぬかつぎ」って何?
里芋の伝統的な食べ方として、古くから親しまれているのが「きぬかつぎ (衣被)」です(上写真)。蒸した里芋の薄皮を半分剥いて白い身を露出させ、塩とゴマだけを添えて味わう、極めてシンプルな料理です。その名前は、平安時代の女性が顔を隠すために被っていた絹の布をまとった優美な姿に由来するそうです。旧暦八月十五夜、中秋の「芋名月」には、新米の収穫に先立って収穫神や祖霊に捧げられる、古くからの「ハレの料理」でもあるそうです。私が初めてこの名前を聞いたのは、新婚当時の奥様の手料理でした。「今日は、きぬかつぎね」と言われ、最初は「??」となったことを覚えています。しかし、剥き方を教わって食べてみると、ホクホクとして非常においしかったのです。ただ、なぜ「きぬかつぎ」というのかはその時には聞けずじまいで、今回初めて知りました。番組でも、農家の方から最初に出された料理が、この「きぬかつぎ」でした。
フライドポテトに肉じゃがも! 里芋「石川早生」が家庭料理を変える
石川早生は油や甘辛い煮汁との相性が抜群で、伝統食にとどまらず、多彩な料理で親しまれているそうです。次に出されたのは、里芋のフライドポテト(フライドさとポテト)でした。揚げる前に一度下茹ですることで、外はカリッと、中はホクホクとした独特の食感に仕上がり、二人とも感激していました。続いては、里芋の肉じゃがです。ジャガイモの代わりに里芋を使うことで、特有の粘りととろみが甘辛いタレによく絡み、味の染み込みも良い料理になっていました。考えてみると、東北には「芋煮」があり、里芋と豚肉や牛肉を河原で煮込む文化がありますので、味は想像できます。それでも、この石川早生を使った肉じゃがは絶品だそうです。(下写真もどうぞ)

北浜のシェフが魔法をかける!「石川早生」の生春巻きとベジリゾット
そして、そこに現れたのが河南町出身で、現在、北浜「アビタコロ(ABITA COLO)」の植松シェフでした。創作料理としてまず出されたのが、里芋のサラダ巻きです。千切りにした生の里芋を軽くボイルしてシャキシャキ感を残し、大葉、梅肉、酸味の効いたイカのマリネとともに生春巻きの皮で包みます。まず、里芋を千切りにすること自体が驚きですが、その結果、思いもよらない爽やかな食感が生まれたそうです。これは前菜として最高においしそうでした。(上写真もどうぞ)
最後にメインとして作られたのが、驚きの「里芋のベジリゾット」でした。リゾットといえばお米の料理ですが、今回はお米を一切使わず、里芋をお米に見立てます。話だけでは想像がつきませんでしたが、シェフは生の里芋を細かく刻み、バターで炒めた後、コンソメと水で煮込んでいきました。すると、里芋から自然なとろみが引き出されます。一方、付け合わせには里芋などの野菜をカットしてフライパンでソテーし、軽く塩で味付けします。リゾット本体との「食感の違い」を楽しむ仕掛けです。リゾットがフツフツしてきたら、隠し味に味噌と少量のチーズを加え、深いコクと旨味を出します。最後に皿へリゾットを盛り付け、ソテーした里芋や野菜を添え、胡椒を振れば完成です。濃厚なコクと自然なとろみがあり、食べ応え十分の一品となりました。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

二人からは、「お米がないリゾットは物足りないのかと思っていたが、見事に裏切られた」「すごい満足感」といった感想が聞かれ、番組の「食遺産」に認定されました(下写真)。伝統野菜の里芋が、ここまで現代的な一皿に変身するとは驚きです。この「ベジリゾット」、私もぜひ食べてみたくなりました。それでは、また。

――――
注1:テレビ大阪『発見!食遺産』の特集「河南町のさといも」より
