毎週ショートショートnote|半透明ハイキング | 「下り坂」
俺ら兄弟三人は下り坂を歩いていた。ハイキングの帰り道だ。
兄弟三人が足並みを揃えるのはいつも下り坂だった。
生まれ育った町に坂道があって、夕日に影を伸ばしながら帰ったあの日を思い出す。
10歳の兄貴はにこやかだった。半透明な天使みたいなやつで、誰も恨まない。文句も言わない。俺は自分より小さい弟をいじめたり、ときには偉ぶったりと、どうしようもない次男だった。それでも三人が揃って坂道を歩いているときは、平和だった。兄貴は俺の左、俺は真ん中、弟は右。
俺は泣いていた。「もうあの頃には戻れないのか」と声に出した。
兄貴は答えず、急に坂道を走り出した。下り坂の終わりのほうまで来ると、後ろを振り返った。
8歳の俺は手を振っていた。5歳の弟も手を振った。
兄貴の視線が、坂道の俺と弟から一瞬ずれた。そして、眩しい笑顔が俺の目に飛び込んできた。
俺は泣いていた。俺は両手を目の前にかざす。腕時計以外は半透明だった。腕に色が入ってくる。
朝が来る。
もう坂道を歩くことはない。
よろしければ、音声でもどうぞ。
こちらの企画に参加させていただきました。
