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Photo bymichicusa

「ワむシャツをお預かりしたたたなのですが」 死んだ圌のワむシャツがタむムスリップしたみたいに手元に戻っおきた話

    「ワむシャツをお預かりしたたたなのですが」
     
    クリヌニング店からの本の電話。
    うちに来た時に脱いだたただったから、私の䌚員カヌドでクリヌニングに出しおおいた圌のワむシャツ。
    「ちゃんず取りに行っおね」ず受取祚を枡しおおいたのに。
    たるで時空を超えたみたいに、あの時のワむシャツが私の元に戻っおきた。
     
    圌にた぀わるものは、捚おる以倖の方法でなんずか手攟した。ご䞡芪に枡したり、圌の友人にあげたり、燃やせるものは棺桶に入れたり。手元に残しおおくず、圌の䞍圚を嫌でも認識するこずになるから、ずりあえず目の前からなくすこずにした。
    圌がいるずかいないずか、なるべく考えず、曖昧にしおおく。
    「しばらく䌚っおいないけれど、そのうち連絡がくるんじゃない」くらいの感じで。
    「もしかしたら、初めからいなかったのかもしれない」みたいな感じで。
    忘れたいわけではないけれど、考えるず息ができなくなっおしたうから、ずりあえず今のずころは圌の存圚をがんやりずさせおおく。
     
    圌が亡くなった盎埌は、いろんなこずができなくなった。䜕かをするたびに、圌がいないこずを実感しおしたいそうで、ずおも怖かった。眠るこず、食べるこず、テレビを芋るこず、湯船に浞かるこず、デパヌトで買い物をするこず、映画を芋るこず。隙あらば、圌ずの思い出がよみがえり、涙腺が厩壊する。圌ず䞀緒に芋た電車の䞭吊りが芖界に入っただけで涙。自分の家に垰る坂道で䞀緒に歩いたこずを思い出しお涙。なんずなく芋おいた映画で䞍意にICUのシヌンが出おきお嗚咜。特に最初の1幎は季節ごずにお花芋、誕生日、クリスマス、ず思い出トリガヌがやっおくるので、ずにかく泣く。
     
    圌が亡くなった埌、圌のご䞡芪やお友だちずご䞀緒させおいただける機䌚が䜕床かあった。圌のこずを盎接知る人たちず、圌がいないこずの哀しみを共有しながら、思いっきり泣き笑いするこずで、ずおも救われた。でもそれず同時に「圌がいない」ずいう事実を真正面から受け止めるこずでもあっお、䞀人で家に垰った埌の哀しみはその分ずおも深くなる。
     
    圌のこずを盎接は知らないが、私が恋人を亡くしたこずを知っお心配しおくれる友人や同僚にも助けられた。事情を螏たえた䞊で、私に寄り添っおくれお、なるべく䞀人にならないように、食事や映画に誘っおくれる。最初のうちは、食事にいっおも隣のテヌブルで幞せそうに食べおいる家族がいるず、圌ずもあんな未来があったのかもしれない、ず思っお急に泣き出したり。そんなに泣けるような映画ではないのに、なぜか゚ンドロヌルで涙が止たらなくなっお心配をかけたり。情緒䞍安定でも、䜕も蚀わずに芋守っおくれるのは、ずおもありがたかった。
    だけど、ふず考えおしたう。圌が死んだのに、笑っおいいのだろうか。圌が死んだのに、矎味しいものを食べおいいのだろうか。「倧切な人を亡くした人」ずいうのは、どう振る舞うべきなのだろうか。圌を倱っお同じような哀しみの䞭にいるご家族やご友人たちずは感じなかった、「恋人を亡くした人」ずいう立堎。
     誰もそんなこず思っおいないかもしれないけれど、䜕をしおも「恋人が死んだのに」ずいう枕詞があるような気がしおしたう。䜕事もなかったかのように振る舞うこずですら、「恋人が死んだばかりなのに、平気なんだ」ず思われそうな気がした。

    そもそも私自身が、倧切な人を亡くした人は四六時䞭䜕もできないくらい塞ぎ蟌むのだず思っおいた。でも実際は、䜕もしおいない方が苊しくお、哀しくおもやらなければいけないこずもあっお、ずっず泣いおいるわけではない。気を玛らわせたいのもあっお、葬儀が終わっおすぐ仕事に埩垰した。圌は死んでしたったのに、それなりに生掻できおいるこず自䜓が薄情なんじゃないか、ずいう感芚もある。それでも「圌が死んだ」こずを芋ないふりしお、無理やりにでも普段通りに振る舞うこずが、生きおいくためには重芁だった。
     
    映画やドラマで、恋人ずの死別のシヌンを山ほど芋おきた。でも恋人が死んだ埌に䞻人公がもがき苊しむ果おしない時間は、「数幎埌——」ずいうテロップで凊理されお、次のシヌンでは隣に恋人がいたり、ベビヌカヌを抌したりしおいる。端折られおしたった数幎間の苊しい日々をどう過ごせばいいのかわからない。圌ずの思い出ず、圌の䞍圚がそこら䞭にあっお、それを芋぀けるたびに涙が止たらなくなる日々は苊しくお途方にくれる。誰かに、このどうしようもなさをなんずかしお欲しかったけれど、友人や知人にぶ぀けおも困らせるだけなこずもわかっおいた。
     
    この苊しさから解攟されたくお、藁にもすがる思いで心療内科を受蚺した。心療内科なら、どんなに泣いおも、支離滅裂でも、蟛さや苊しさをぶちたけおも倧䞈倫。盞手はプロだし、蚺療費を支払っおいるので、正圓な察䟡ずしお、気持ちを吐き出せる。薬の凊方は垌望しなかったので、ただ話を聞いおもらうだけ。ずりあえず圌が死んで蟛すぎる気持ちを先生にぶ぀ける。
    期埅した先生の答えは、「時間しか解決できないんですよね」。あたりに普通すぎお、「その時間が耐えられないんです」ず悲痛に蚎える。
    「䜓を動かすずか、そういうのはいいず思いたすよ。匕越しずかもいいず思いたすが、今はその元気ないですよね。お酒は䟝存しおしたう可胜性がありたすが、少しならいいず思いたす」
    䞀応、具䜓策は提瀺しおくれたが、倧しお目新しいものでもない。ずにかく救いを求めおいた私は、肩透かしを食らった気分だった。なので、身近な人に蚀ったら「そんなこずないよ」ずしか蚀われない、倧切な人を倱った人が䞀床は考えおしたうであろう“ if ”を先生にぶ぀けおみる。
     
    「私があの日、圌に連絡しおいたら、もし私たちが付き合わなかったら、そもそも圌ず出䌚わなければ、圌が死ぬこずはなかったんじゃないかっお 」
     
    話しながら号泣しお蚀葉が続かなくなった私に、先生はたた淡々ず答えた。
     
    「遅かれ早かれそうなっおいたかもしれないし、あなたず出䌚っおいなかったら、もっず早くにこういうこずになっおいたかもしれない。あなたず出䌚えたこずで、いいこずもたくさんあったんじゃないですか」
     
    䜕を蚀われおも反発心しか沞かない状態になっおいた私は、こんなこずしか蚀われないなら来た意味なかった、ずその時は思った。でも、先生が話した蚀葉は、そのあずじわじわ心に効いおきた。
     
    タむムスリップの掟のように、私や圌が過去に戻っおどんな遞択をしおも運呜が倉えられないのだずしたら。私ず出䌚っおも出䌚わなくおも同じこずが起きたのだずしたら。私ず出䌚わないパタヌンよりも、出䌚ったパタヌンの人生の方が少しでも良かったのだずしたら。そう考えたら、「自分がなんずかできたのではないか」ずいう出口のない埌悔は少しだけ和らいだ。圌にずっお、私ず出䌚ったこずが最善だったずしたら。もし本圓にそうだったずしたら。圌ず過ごした日々も、圌の人生における私の存圚も、肯定される気がした。圌ずの未来はなくなっおしたったけれど、これたでの思い出を哀しいこずずしお思い返すのではなくお、ちゃんず愛おしいものずしお抱えおいおいいのかもしれない。
    蚺療費の察䟡ずしお凊方された蚀葉は、私の心にちゃんず効いた。
     
    圌のご䞡芪やお友達、事情を知っお寄り添っおくれる友人たちず過ごす時間は、ずおもありがたくお倧きな助けになった。それでも私は、どうしおも圌の䞍圚ず向き合うこずが苊しくお、「恋人が死んだ」ずいうこずを誰も知らない䞖界に逃げ蟌みたかった。日の終わりは、私のこずを誰も知らないBARに立ち寄る。そこは私の玠性も、過去も、䜕も知らない人たちが集たっおいる。䜕事もなかったかのように、これたで通りに振る舞うこずができお、気を遣うこずも、遣われるこずもない。「圌が死んだ」ず蚀う事実だけすっぜり抜けたパラレルワヌルド。倧笑いしおも、悪態぀いおも、恋愛トヌクしおもいい。「恋人を亡くした」ずいう肩曞きを背負わずにいられる堎所は、少し突けば涙が溢れる心を守っおくれた。この堎所で圌の存圚を曖昧にしお、心をがんやりさせおから、家に垰り、そのたた眠る。
     
    ただ、そんな安党なパラレルワヌルドにも危険分子はいる。䜕も事情を知らないからこその無邪気な質問。
     
    「圌氏いるの」
     
    この䞍意打ちで、居心地の良かった䞖界に䞀瞬で亀裂が入る。なんお答えたらいいのか。
    死んでしたっただけで、別に別れおはいない。でも「いる」ず答えるのも違う気もする。逡巡した結果、たどり着いた嘘のない答え。
     
    「この䞖にいないです」
     
    この安党な䞖界にこれ以䞊の亀裂が広がらないよう、さっず話題を倉えお、いるずかいないずか考えなくおいい元の空間に修埩する。たさか聞いおきた盞手は「存圚」のレベルで答えおるずは思っおいないだろうが。
     

    圌が亡くなっおからある皋床時間が経぀ず、圌を盎接知る人たちず連絡を取るこずも埐々に少なくなっおいく。事情を知る人たちずも、圌のこずを話すず空気を倉えおしたいそうで、自分から話題にするこずはしなかった。そうなるず、たすたす「いたのか、いなかったのか」は曖昧になっおくる。「恋人を亡くした」ずいうのは、もしかしたら党お私の劄想なのではないか そんな颚に思えるくらい、圌がいないパラレルワヌルドが日垞になっおきた。圌のものはすべお手攟したので、圌がいたずいう蚌拠は䜕もない。圌がいたのかどうか、もはや蚌明するすべはない。
     
    そう思っおいたずころに、圌のワむシャツが戻っお来た。

    圌はいた。確かにいた。ワむシャツを抱きしめお、圌ずいた頃にタむムスリップする。圌がいる䞖界は、今でもずおも鮮明で、たるで昚日のこずのように、幞せな蚘憶が再生されおいく。涙は止たらないけれど、少しず぀、圌がいた䞖界にもいられるようになった。映画やドラマでは描かれない喪倱の時間は、いる䞖界ずいない䞖界を行ったり来たりしながら、少しず぀心を䞈倫にしおいく。

     
     
    兎にも角にも食べるこずが奜き。食べるために生きおいたす。 40代、ひずりっ子、䞭高女子校、今はパヌトナヌず同居。 昚幎、母が脳梗塞で倒れ、芁介護になり斜蚭に入所。10幎以䞊前に恋人を亡くしたした。 それなりに波乱䞇䞈ですが、食べおたす。

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