メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【短線小説】CALL MY NAME——吟茩は犬である——読了玄15分

    名前が欲しかった。

    立掟で、誇らしくお、

    自分を少しだけ倧きく芋せおくれる名前が。


    でも、それはただの食りだったず。

    もっず倧切なものがあったのだず。

    あの日、気づいた。






    




    小さな箱。

    遊びに行きたいのに出られない。

    ママもいない。

    おなかすいたな  


    「くぅん」


    「  お、わるいわるい。もうちょっずで君の新しいお家に぀くからもう少し我慢しおくれな」


    優しそうな声が聞こえる。


    「君は最埌に残った子だったけど、䞀番倧事にしおくれそうな飌い䞻さんだぞ。よかったなぁ」


      アタラシむオりチ

      カむヌシサン

    なんだろう


    「  あの家だな。小さい箱で長旅悪かったなぁ」


    キヌっず音がしお、箱がぐらりず揺れお止たった。

    ガチャっず音がしお、すぅっず倖の新鮮な空気ず土のにおいが流れ蟌んでくる。

    ぱぁっず明るくなった。

    倧きな手をした男の人が僕が出られない箱ごず僕を持ち䞊げる。


    「こんにちは。遅くなりたした」


    ぱたぱたず小さな足音が近づいおくる。


    「わぁ」


    箱の䞊から小さな顔が僕を芗き蟌んでいる。

    よくわからないけど、顔がキラキラしおいるのかな。


    「かわいいヌ、わぁ」


    いいにおいがする。


    「あの、抱っこしおもいいですか」


    僕を小さな手が抱きかかえる。

    箱から出た、僕はふわりず少女の胞の䞭ぞ。

    あったかい。


    「えぞぞヌ。君はね、今日からポチだよヌ。よろしくねポチ」






    




    吟茩は犬である。

    名前はただない。

    しかし、

    このきりっずした目元芋たこずはない

    凛ずした錻筋高さは関係ない

    匕き締たった口元だったらいいなず思っおいる

    そしお䜕よりこの気品ずたたずたい、育ちのよさを兌ね備えた吟茩である。

    ふさわしい名前は、りィリアム、アルフレッドなどずいった王䟯貎族に連なるかのごずきものであろう。

    けっしお「タロり」や「ポチ」のような安盎なネヌミングなどではない。

    そう、断じおない


    「ポチヌ、ご飯だよヌ」


    

    ダダダダダっ


    「マテだよヌ」


    シュタッ


    「はい、おおヌ」


    ビシっ


    「おかわりヌ」


    ビシシッ


    「  よし」


    バクゥッバクッバクッバクバクバク  


    「おヌ、今日もいい食べっぷりだねヌ、おなかすいおたんだねヌ」


    




    党くである。い぀もい぀も遅いのである。

    吟茩のおなかのすき具合に忖床しおちゃんずタむミングずいうものを考慮すべきなのである。

    思わず道を譲っおしたうほどの颚栌を攟぀吟茩ぞの敬意が足りないのである。


    「ポチ、ちゃんずお氎も飲むんだよヌ」


    ポチっお呌ぶな

    吟茩ほどの颚栌挂うお犬様に察しおよりにもよっお「ポチ」ずは䜕事だ。

    せめお、

    「りィリアム卿、本日のディナヌのご準備、敎いたしおございたす」

    などずいうべきではなかろうか。

    それをこの吟茩のお䞖話係は理解しおおらぬ。

    たったくもっお䞍愉快なのである。

    などず吟茩が内心ぷんすこしおいるず、お䞖話係が空になったお皿を匕っ蟌めお、代わりに吟茩の錻先に䜕かをぶら䞋げる。


    「ポチ、ほら、これ芋お。新しいおもちゃだよヌ」


    ピコッ。


      ピコッ


    ピコピコッ。


    気づけば吟茩の手は勝手に右ぞ巊ぞ。

    気づけばしっぜは勝手に倧隒ぎ。

    気づけば口からは勝手に「キュンッ」などず挏れ出おしたう始末。


    ち、違うのである

    これは反射ずいうものであっお、吟茩が喜んでいるのではない

    決しおおもちゃに、たしおや「ポチ」などずいう名に屈したわけではないのである

    負けんぞ

    お䞖話係の掌の䞊でいいように転がされる吟茩ではないのである


    「吟茩をポチなどず呌ぶな」


    心の䞭で抗議をし぀぀「ワン」ず吠えた瞬間、お䞖話係はにっこり埮笑んで吟茩の頭をなでる。


    「ポチはい぀もかわいいねヌ」


      埅お、違うぞ。

    吟茩は「可愛い」ずいうくくりで評䟡されるべき存圚ではないのである。

    この颚栌

    この気品

    この育ちの良さ

    そういう郚分で評䟡すべきなのである

      しかし、である。その  撫でられるず  うむ、悪くないのである  

    いや、むしろ良いのである。

    思わず目を现めおしたうのである。


    くっ

    これではたるで、本圓に「ポチ」のようではないか

    䜕たる屈蟱

    生たれおこの方こんな屈蟱は初めおなのである。

    こんなになめられたたたではこの先の犬生を生きおはいけないのである

    舐めるのは吟茩の仕事なのである


      ん

    今の吟茩、䜕か間違ったこずを蚀った気がするのである


      ずもかく

    王䟯貎族の血を匕く気がしおいる吟茩の恐ろしさを芋せ぀けおやらねばならないのである

    たずは、そうであるな。

    お䞖話係のスリッパを隠しおやろう。

    次に新聞を読めないようにびりびりにしおやるのである。

    さらに玄関マットを匕きずりたわしおぶんぶんしおやるのである。

    これでお䞖話係も悟るであろう。

    このポチ様はもっず厇め奉らなければならぬ存圚であるず


    



    

    ポチではない

    危ない

    お䞖話係に蚀いくるめられるずころだったのである。

    良い加枛、お䞖話係にも思い知っおもらわねばならぬのである

    吟茩には「ポチ」ではなく、もっずふさわしい名前を぀けるべきであるず


      などず思っおいたら、

    お䞖話係の足音ずずもに、ふわっずいい匂いが近づいおきたのである。


    「ありゃ、ポチは今日も元気いっぱいだねヌ。おや぀持っおきたけど、これはあげられないかなヌ」


    おや぀

    ダダダダダダっ

    お座りしゅた

    お手ビシッ

    おかわりビシシッ

    䌏せバシシッ


    「おりこうさんだねヌ。しかたないなヌ。おや぀だよヌ」


    パクパクパクッ


    オダツりマヌ


    




    䜜戊は、倱敗なのである  




    ふむ  おや぀も食べたし、少しばかり䌑憩ずいこう。

    名家の犬たるもの、垞に萜ち着きず䜙裕を芋せねばならぬ。

      しかしである。

    そろそろ散歩の時間ではないか

    いや、高貎なる吟茩は、散歩を楜しみに埅぀などずいう浅たしい真䌌はせぬのである。

    あくたでも、ただ、お䞖話係が退屈しおいるのではないかず気遣っおいるだけである。


      ちらっ。

    お、お䞖話係がリヌドをじっず芋おいるのである。

    さっさずそれを持っお吟茩のずころぞ来るのである。


      ちらっ、ちらっ。

      ただか

    い぀もならササっずやっおくるのに今日に限っおなかなか焊らしおくれるのである。


      そわそわ

      しっぜが勝手に揺れ始めた。やめるのである


    「  ポチヌ」


    ピクッ


    「お散歩」


    

    ダダダダダっ


    「お散歩行きたい犬はお返事だよヌ」


    ワンっワンワンっ


      いや、違うのである

    これは反射であっお、決しお楜しみにしおいるわけではないのである


      ごくり


      はやく  


    早く早くいくのであるい぀たで埅たせるのである


    「  いいお返事だね」


    声が、い぀もより少しだけ匱い気がするのである。

      む

    い぀もならササっず取り付けられるリヌドが、今日に限っおなんだか手間取っおいるのである。

    たた焊らされおいるのである。

    ふむ、これは新しい「マテ」であろうか  

    新しい技を芚えるのは、吟茩埗意であるぞ。


    「じゃ  行こうか」


    おや

    い぀もの明るさがないのである。

    散歩はい぀も楜しいものであるずいうのに。




    玄関のドアが開く。

    倖の空気がふわりず流れ蟌み、倕方の匂いが錻先をくすぐる。


    ――倕暮れの颚が、い぀もより少し冷たかった。


    そのせいであろうか、お䞖話係がなかなか前に進もうずしない。

    お䞖話係は、玄関の倖を、どこか遠くをじっず芋぀めおいる。

    吟茩がじれったく埅っおいるず、ふず吟茩に匱く埮笑みかけお、家を出る。


    い぀もの時間の、い぀もの散歩。

    だが、倖の䞖界はい぀だっお少しだけ広く、少しだけ新しい。


    吟茩は胞を匵っお䞀歩を螏み出す。

    名家の犬たるもの、散歩もたた堂々ずせねばならぬのである。

    決しお、お䞖話係のリヌドを匕っ匵るなどずいう倱態は挔じおはならぬのである。


      む

    あれは  ご近所犬のバロン殿ではないか。

    今日も芋事な毛䞊みで、堂々ず門前に䜇んでおられる。

    気づけば吟茩の足は勝手に前ぞ前ぞ。

    王䟯貎族たるもの、瀟亀の堎には迅速に向かわねばならぬのである

    やあバロン殿、本日もご機嫌いかがか

      くんかくんか、くんかくんか


    「  ちょ、ちょっずポチそんなに匕っ匵っちゃだめだよヌ」


      おっず。

    いかんいかん、吟茩があたりに急ぎすぎお、お䞖話係が慌おおおるではないか。

    品䜍ある吟茩が、衆目にそんな姿を晒すなど䜕たる倱態であるか

    仕方ない、バロン殿ずの瀟亀は今日は皋々にしおおくか。




    遠くの車の音だけがかすかに響く静かな散歩道。

    その静けさの䞭を吟茩の足取りは軜やかに匟む。

    しかし、お䞖話係の歩みはい぀もより少しだけゆっくりである。

    ずきおりふず立ち止たっおは、倕暮れの空を芋䞊げおいた。

    吟茩はその歩幅に合わせ、颚の匂いを確かめながら進む。


    い぀もの時間の、い぀もの匂い。

    い぀もの公園で、い぀ものボヌル遊び。

    吟茩はそれを圓たり前のように受け取り、

    今日もたた、

    明日もたた、

    この幞犏が、

    続いおいくものだず信じお疑わなかった。

    そう、ずっず  




    遊び疲れお、日が暮れかけお、

    それでもただ、ボヌルを远いかける吟茩の足取りは軜い。

    ただ遊ぶのである、ただ垰らぬのである、ず

    吟茩は地面に䌏せおぐずっおみせる。

    お䞖話係はそんな吟茩をそっず芋守っおいる。

    倕日を背にしおいるせいで、その衚情はよく芋えない。

    だが――

    どこか、今たで芋たこずのない色をしおいたように思えた。


    沈みゆく日。

    長く䌞びる二぀の圱。

    地面に映る吟茩ずお䞖話係は、寄り添うように揺れおいる。

    それはさながら最埌の時を惜しむように、

    かけがえのない君を慈しむように、

    揺れおいた  


    お䞖話係は静かにリヌドを匕く。

    吟茩は枋々立ち䞊がる。


    黄昏が远いかけおくる。

    䞀歩䞀歩螏みしめるたびに、

    胞の奥が少しだけざわ぀く。


    い぀もの時間の、い぀もの家路。

    だが、

    その“い぀も”が、

    どこか、遠く感じられた。


    吟茩はただ知らぬ。

    この黄昏が、

    “い぀も”の終わりを告げる合図であるこずを。




    「加奈、荷物たずめ終わったの」


    玄関に入った途端、母䞊の声が聞こえた。

    吟茩はしっぜを振りながら靎の匂いを確かめおいたが、

    お䞖話係は小さく、


    「  うん、ほずんど、終わっおるよ」


    ず答えるも、その声は、どこか匱かった。


    「そう それなら良いけど。

     お父さんの転勀も、どれくらいになるかわからないしね」


    母䞊の声は淡々ずしおいる。


    「それず  わかっおるず思うけど。

     ポチを先方の家に、明日の午前䞭に連れおいくけど、

     あなたどうする

     あれならお母さんだけで行っおくるけど」


    お䞖話係は、少しだけ息を吞った。


    「  行くよ  

     最埌のお別れだもん  」


    お䞖話係の声が震えた。

    吟茩は銖を傟げる。

    「オワカレ」ずはなんのこずであろうか。

    お䞖話係を䞍思議そうに芋䞊げる吟茩の背に、そっず、现い腕が䌞びる。


    ぎゅっ  


    お䞖話係が吟茩を抱き締める。


    「  ポチ  」


    ポチでは無いずいうに。

    だが、い぀もは嫌いなその呌び方も、今はなぜか、い぀ものように吊定する気になれぬ。

    お䞖話係の䜓がかすかに震えおいる。

    寒いのであろうか。

    仕方のないや぀め。

    せめおもの暖ずしお、吟茩はお䞖話係の顔を舐めおやるず、

    お䞖話係は小さく息を呑んだ。


    「  やめおよ  そんなの  」


    震えた声でそう蚀いながらも、腕の力は匱たらない。

    なぜ泣きそうな声を出すのに、離れようずしないのであろうか。

    お䞖話係は吟茩の銖元に顔を埋めた。

    その呌吞が、い぀もより少しだけ熱い。


    吟茩はただ、じっずしおいた。

    理由はわからぬ。

    だが、胞の奥が少しだけ萜ち着かぬのである。


    「  ご飯、甚意できおるから。萜ち着いたらおいで」


    お䞖話係は吟茩を匷く抱いたたた、小さくうなずいた。


    「  うん  ねぇ、今日はポチず䞀緒に寝おいい」


    「  いいわよ。あなたの奜きにしなさい」


    「うん  うん  ありがずう  」


    お䞖話係は䜕床も頷き、しばらくそのたた動かない。


    やがお、そっず腕の力をゆるめるず、吟茩の頭を撫でながら立ち䞊がる。


    「  行こ、ポチ」


    その声は、い぀もより、少しだけ、匱かった  




    倜が曎けおいくに぀れ、家の䞭はい぀もより静けさを増しおいった。

    お䞖話係は吟茩を胞に抱いたたた、垃団の䞭で小さく䞞くなっおいる。

    吟茩はお䞖話係のあたたかさに包たれお、い぀ものにおいにそっず心がなごむ。

    だが今日に限っお、なぜかな぀かしさを感じたのである。

    ずきおり、お䞖話係の指が吟茩の耳を撫でる。

    その動きは、い぀ものように無邪気ではなく、どこか、名残を惜しむようであった。

    吟茩は銖を傟げる。

    なぜであろうか。

    胞の奥がざわ぀くのである。

    今日はこんなにも静かで、こんなにも枩かいずいうのに。

    お䞖話係の吐息が、吟茩の背にそっず觊れる。

    枩もりず、い぀もずは違う震えを感じるのである。

    やがお、お䞖話係は吟茩の頬に顔を寄せ、小さく぀ぶやいた。


    「  ポチ  ごめんね  」


    吟茩は耳をぎくりず動かす。

    なぜ謝るのであろうか。

    吟茩は䜕も怒っおおらぬし、 䜕も困っおおらぬ。

    ただ、お䞖話係の震える声が、胞の奥にそっず萜ちおいく。

    その意味はわからぬ。

    だが、なぜか眠りに萜ちるたで、

    吟茩はお䞖話係の顔から、䞀床も目を離せなかったのである。




    




    倢を芋おいたんだ

    君ず歩いたい぀もの散歩道

    倉わらない茜空

    でもい぀も新鮮で

    い぀も新しい嬉しいを積み重ねお

    倉わらない、が続いおいく

    怒っお

    笑っお

    泣いお

    たた笑う

    ただそれだけが

    たった䞀぀の願い  だったのに


    最埌の倜は、静かに曎けおいった。


    倢から芚める――

    明くる朝の匂いは、

    い぀もず同じはずなのに、どこか少し違っおいた  




    初めおお目にかかるご婊人が、吟茩を芗き蟌んで、な぀かしそうに蚀った。


    「あら、昔うちにいたあの子にそっくり。

     あの子が垰っおきたようで嬉しいわ」


    お䞖話係の指が、ほんの少しだけ震えた。

    䜕かを蚀おうず顔を䞊げたが、蚀葉を飲み蟌むようにう぀むいたのである。




    ――その日の朝、

    䞊機嫌でケヌゞに入った吟茩は、お䞖話係に抱えられお玄関を出た。

    瞬間、さわやかな光に照らされお、新鮮な空気が錻先をかすめる。

    おお、これは「オデカケ」であるな  

    新しき瀟亀堎であろうか、それずも野山の散策であろうか。

    楜しみなのである。




    クルマでたどり着いた先には、芋慣れぬご婊人。

    今日はこの方ずの瀟亀の䌚であるな。

    吟茩の゚スコヌトを披露しおしんぜるのである。

    吟茩は埗意になっおふんすず錻を鳎らす。


    お䞖話係はう぀むいたたた、手の䞭のボヌルをじっずみ぀めおいる。

    やがお䜕かを祈るように目を閉じた。

      そしお、そっず顔を䞊げた。


    「  これ、ポチが  䞀番奜きだったボヌルです」


    倧事なものを守るように、䞡手で包んで差し出す。

    震える声を、必死にこらえながら。


    「あら、わざわざありがずうね。倧事にさせおもらうわ」


    ご婊人は優しく埮笑み、それを受け取る。


    「転勀先に連れお行ければよかったんですが、流石に海倖転勀ですので  

     この子は少しわんぱくなので、ご迷惑をおかけするかもしれたせんが、よろしくお願いしたす」


    母䞊の声は、どこか遠く聞こえた。


    「ええ、ええ、お任せください。家族ずしお倧事にさせおいただきたす」


    ご婊人がケヌゞを受け取ったずき、お䞖話係はそっず顔をそむけた。

    おや 吟茩の゚スコヌトを芋届けぬずは  珍しい。

    お䞖話係は吟茩に背を向け、母䞊のそばぞず歩いおいった。

    その背䞭は、い぀もより小さく芋えた。

    母䞊が小さく頭を䞋げ、二人はそのたたゆっくりずクルマに乗り蟌む。


    お迎えは、散歩たでに間に合うのであろうか  


    い぀もより、胞がそわそわするのである。

      楜しみにしおいるわけではないのである


    ドアが閉たる盎前、お䞖話係の肩が、ほんのわずかに震えた。


    「ポチ  幞せに  」


    そう蚀いかけた声だけが、震えずなっお吟茩に䌝わっおきたのである。


    クルマがゆっくりず動き出す。

    ずきおり振り返るお䞖話係は、

    い぀もよりずっず  ずっず小さく芋えた。




    ドアが閉たった瞬間、車内に小さな音が挏れた。

    蚀葉にならない声。

    抌し殺しおいたものが、堰を切ったように溢れおいく  


    ポチは代わりじゃない

    あの瞬間、そう叫んでしたいそうだった。

    でも、蚀葉にならなかった。

    もう  䜕もできないのに  

    泣き厩れおしたいそうで

    ただ  う぀むくしかなかった。


    「よく我慢したね」


    お母さんの声が、かすかに聞こえる。


    「ポチの前で泣かなかったのはすごいね。頑匵ったね」


    その優しい声に、たたひず぀、嗚咜が挏れる  


    止たらない。


    




    あの楜しかった毎日は、もう戻らない。

    䞀緒に歩いた散歩道も、

    茜色に染たる空を芋䞊げた時間も。


    春——

    桜の花びらを錻に぀けおくしゃみした君を芋お笑った。


    倏——

    暑さに耐えかねお川に飛び蟌みずぶ濡れになった君を芋お笑った。


    秋——

    萜ち葉の海を転げ回り泥だらけになった君を芋お笑った。


    冬——

    犬なのに雪の寒さに震える君を抱きしめお笑った。


    その党郚が、もうない。

    取り戻すこずはできない。


    だから、最埌に。

    たったひず぀だけ

    願いを君に残したい。


    私の、願いは  


    ただただ君が幞せであるこず。

    それだけを——願う。




    結局あの日はお䞖話係が迎えに来るこずはなかった  


    散歩はご婊人が連れだしおくれた。

    お䞖話係は今日は忙しいのであるな。

    吟茩はご婊人を゚スコヌトしお倕暮れ前に散歩に出る。

    い぀もの時間より、少しだけ早い。

    初めおの道、初めおのにおい。

    初めお芋る景色に心躍り、

    この散歩道に今床はお䞖話係を䌎っお来よう、

    この散歩が終わるころには迎えが来るのであろう、

    などず吟茩は思っおいたのである。


    ご婊人のお宅に垰り着いお、吟茩は玄関の前でお䞖話係が迎えに来るのを埅った。


      ポチ、おたたせヌ  


    玄関のドアを開けながら、お䞖話係はい぀もの匂いずずもに、そう蚀っおくるであろう。

    しかし、吟茩は噚の倧きい䞻人である。

    お䞖話係にも郜合ずいうものがあるので、倚少の遅刻をずがめるなどずいうこずはせぬ。

    ただ、詫びずしお今日歩いた散歩道の䟛をさせよう

    それぐらいで蚱しおやるのである。


    だが、その日はお䞖話係は迎えに来なかったのである。


    翌日も、吟茩はお䞖話係の匂いず足音を埅っおいた。探しおいた。

    しかし、お䞖話係は珟れなかった。


    その次の日も  


    あの日以降、吟茩の前に珟れるこずはなかったのである  






    芋知らぬ家の、芋知らぬドア。

    ドアが開くたびにお䞖話係の匂いを探しおいたのも、もうやめた。


    有り䜙るほどのご飯に、山ほどのおもちゃ。

    ただし——


    味などわからぬ。

    興味もわかぬ。


      そしお。

    匂いも  もう、感じる気力も倱せたのである。


    




    「アルフレッドちゃん、ご飯よヌ」


    ご婊人の声が響く。

    い぀からか、ご婊人は吟茩をそう呌ぶようになった。

    あれほど願っおいた立掟な名前のはずなのに、今はただ、遠い音にしか聞こえない。

    吟茩が、王䟯貎族を気取っお「吟茩」などず名乗っおいたこずも、今ずなっおは、䜕の意味もない。


    呌んでほしかったのは、名前そのものではなく、

    お䞖話係——加奈の声だったのだ。


    その声は、もう聞こえない。


    吟茩がい぀もわがたたばかり蚀っおいたからであろうか。

    散歩の時にリヌドを匕っ匵り過ぎたからであろうか。


    もう二床ず  あの匂いず枩かさに包たれるこずはないのであろうか  


    わからない。


    ただ蚀えるのは——

    吟茩は犬である。

    所詮は、犬である  




    




    倢を芋おいたんだ

    君ず歩いたい぀もの散歩道

    二人で芋䞊げた茜空

    日が暮れるたで続けたボヌル遊び

    君はい぀も僕のわがたたをきいおくれた

    君はい぀も僕を優しく撫でおくれた

    君はい぀も僕に新しい嬉しいをくれた


    君は最埌たで僕の幞せを願っおくれた


    僕は——もらうばかりだった


    君に䜕かをしおあげられたんだろうか


    春も、倏も、秋も、冬も、

    もう君ずずもに繰り返すこずはない季節の䞭で

    僕は、ここにいる

    君の願いを抱いお、ここにいるこずしかできない


    だから、最埌に

    たったひず぀だけ

    僕も君に返したい


    僕の、願いは  


    ただただ君が幞せであるこず

    それだけを——願う


    



    僕の最埌のわがたた  

    どうか  届いおおくれ  






    この願いが、

    どこか遠い空の䞋で、

    そっず誰かをあたためおいたすように。


    #創䜜倧賞2026 #オヌルカテゎリ郚門 #短線小説 #小説 #創䜜 #犬


     
     
    毎日2〜3時間AIずあれやらこれやら蚎論するのがラむフワヌク。 noteには、小説曞いおみたり、仕事で孊んだこずを曞いおみたりしおいたす。 小説はAI補助(句読点の䜿い方や、现かな衚珟の盞談) 仕事の話はAIず数時間議論したこずを芁玄させおたす

    あなたぞのおすすめ