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自治体に、「シビックブランディング」という考え方を 〜ブランディングディレクターとして市役所の中で見えてきたこと〜

    市役所の中に席を置いていると、まちの仕事の多さに驚きます。

    子育て、教育、福祉、交通、観光、農業、防災、広報。どれも市民の暮らしに直結していて、どれか一つだけを切り出して「これが、うちのブランドです」と言うことはできません。

    会議に出ていても、それぞれの課が、それぞれの現場を抱えていることがわかります。制度を運用する人がいる。地域の声を聞く人がいる。事業者と向き合う人がいる。子どもや高齢者の暮らしを支える人がいる。道路や水や農地や観光や移住に関わる人がいる。

    ひとつひとつの仕事は、地味に見えることもあります。けれど、その多くは、まちで暮らす人の一日を支えています。

    同時に、こうも感じます。

    それぞれの仕事が、「このまちは何を大切にしているのか」という問いと結びついたとき、単なる事業や制度や取り組みではなく、ひとつのまちの姿、つまり「ブランド」として見えてくるのではないか、と。

    遅ればせながら、自分の立場を少しだけ説明しておきます。

    僕はこれまで、博報堂でビジネスデザインやストラテジー、ブランドコンサルティングに関わり、その後、戦略デザインファームBIOTOPEでブランディングディレクターとして、企業の理念策定やブランド戦略づくり、クリエイティブディレクションの支援をしてきました。

    そして2026年4月からは、地域おこし協力隊として、福岡県うきは市に移住。個人でブランドコンサルティングやコピーライティングの仕事を続けながら、うきは市のブランディングを、市役所の中から支援しています。

    企業のブランドづくりに関わってきた人間が、自治体の中に入り、まちの仕事を近くで見ている。

    その立場から見えてきたのは、自治体におけるブランドとは、ロゴやキャッチコピーや観光PRだけではなく、もっと日々の政策や制度や職員のふるまい、市民の体験に深く関わるものなのではないか、ということでした。

    とはいえ、移住して3ヶ月。何か大きな成果が出たわけではありません。完成された方法論があるわけでもありません。いまはまだ、行政の中で何ができるのかを、職員や市民の方々と話しながら、少しずつ試しはじめている段階です。

    ただ、市役所の中に入り、日々の仕事や会議、職員の方々との対話に触れる中で、少しずつ見えてきたことがあります。

    それは、これからの自治体には、単なる広報やプロモーションではなく、少なくとも4つの視点が必要なのではないか、ということです。

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    まちの在りたい姿から逆算する「戦略的思考」。
    各課の取り組みや地域の出来事をつなぎ直す「編集的思考」。
    (古巣である博報堂の言葉を借りますが、)行政の都合ではなく、市民の暮らしから考える「生活者発想」。
    そして、ビジョンや約束を、日々の政策や制度や体験に一貫させていく「ブランド的思考」。

    こうした考え方は、企業のブランド戦略や事業づくりの現場では、比較的よく語られてきたものかもしれません。

    けれど、実は自治体にこそ必要なのではないか。

    そう考えるのは、自治体もただ制度や事業を用意していれば、それだけで十分に伝わる・選ばれる時代ではなくなっているからです。

    人口が減り、暮らし方や働き方が多様になり、地域との関わり方も一つではなくなりました。住む人、訪れる人、働く人、応援する人、ふるさと納税や関係人口として関わる人。まちとの関係は、以前よりもずっと多層的になっています。

    その中で問われるのは、「このまちには何があるか」だけではありません。

    このまちは、何を大切にしているのか。
    どんな未来に向かっているのか。
    自分はこのまちと、どんな関係を結べそうなのか。

    そうしたことが伝わらなければ、制度も事業も発信も、ばらばらの情報として流れていってしまいます。

    だからこそ、自治体にもブランドという考え方が必要になるのだと思います。

    ただし、ここでいうブランドとは、まちを商品として売るためのものではありません。ロゴやキャッチコピーで、まちをよく見せるための装飾でもありません。

    まちが何を大切にしているのかを、政策や制度、職員のふるまい、発信、市民の体験の中で一貫させていくこと。
    そして、いま住んでいる人、これから住みうる人、関係人口として関わる人との関係性を育てていくこと。

    これからの自治体には、ブランドを「見せ方」ではなく「在り方」、あるいは「関係性を育てる考え方」として捉え直す必要があるのではないか。

    そんなことを、最近よく考えています。

    そして、この四つの視点を束ねる言葉として、いま自分の中でしっくりきているのが「シビックブランディング」という言葉です。

    「地域ブランディング」では広すぎる。「自治体ブランディング」では狭すぎる

    自治体とブランドの話をするとき、よく使われる言葉に「地域ブランディング」があります。

    地域ブランディングという言葉自体を否定するわけではありません。多くの地域で、観光、特産品、移住促進、ふるさと納税、地域イメージの向上など、さまざまな取り組みが「地域ブランディング」という言葉のもとで進められてきました。

    ただ、この言葉には少し難しさもあります。

    「地域ブランディング」と言ったとき、それが何を指しているのかが、場面によって大きく変わるからです。

    地域そのもののイメージを高めることなのか。
    特産品をブランド化することなのか。
    観光地としての認知を広げることなのか。
    移住者に向けて暮らしの魅力を伝えることなのか。
    地域の人たち自身が、自分たちのまちに誇りを持てるようにすることなのか。

    どれも大切ですが、レイヤーが少しずつ違います。

    一方で、「自治体ブランディング」という言葉も聞いたことがあります。これは行政がブランドを考える、という意味では近いのですが、少しだけ「役所という組織のブランディング」に聞こえやすいところがあります。

    市役所のイメージをよくする。
    職員採用のために組織の魅力を伝える。
    行政サービスの見せ方を改善する。

    これも必要な視点です。けれど、いま考えたいことは、役所の見え方だけではありません。

    市民の暮らし、地域資源、行政の判断、職員のふるまい、政策や制度、発信、そしてこれからこのまちに関わるかもしれない人たちとの関係性。
    それらをどうつなぎ、どう一貫した体験にしていくのか。

    その意味では、「地域ブランディング」では少し広すぎる。「自治体ブランディング」では少し狭すぎる。
    と、思うのです。

    海外では、これに近い考え方として「Place Branding」という言葉があります。OECDの報告書でも、地域のアイデンティティやブランドを、計画、政策設計、実行、コミュニケーション、評価にまで埋め込むものとして扱っています。つまり、Place Branding は単なるロゴや観光PRではなく、政策や地域の誇り、公共体験にも関わる考え方です。

    この考え方には、とても近いものを感じます。

    ただ、日本の自治体の現場で考えるときには、もう少し馴染みのある言葉で捉え直したい。行政だけでなく、市民だけでもなく、いま住んでいる人、これから住みうる人、関係人口として関わる人まで含めた、まちとの関係性を育てる言葉がほしい。

    そこで、ここでは「シビックブランディング」と呼んでみたいと思います。

    「シビックブランディング」とは何か

    では、「シビックブランディング」とは何か。

    短く言えば、まちの約束を、暮らしの実感に変えていくこと、です。

    もう少し丁寧に言えば、いま住んでいる人、これから住みうる人、関係人口として関わる人が、そのまちに愛着を持ち、関わり続けたいと思える状態を育てるために、まちのビジョン、ブランドプロミス、政策、事業、制度、発信、市民体験を一貫させていく営みです。

    近い言葉に「シビックプライド」があります。まちへの誇りや愛着、あるいは自分もこのまちに関わっているのだという感覚。

    シビックプライドが、結果として人の中に育つ誇りや愛着だとするなら、シビックブランディングは、その誇りや愛着が育つように、行政や地域の取り組みを設計していく営みだと言えるかもしれません。

    大切なのは、ブランドを「外からどう見られるか」だけで捉えないことです。

    外からの見え方は、内側の在り方と切り離せません。

    そのまちは、何を大切にしているのか。どんな未来に向かおうとしているのか。その価値観は、政策や制度や職員のふるまいに表れているのか。市民は日々の暮らしの中で、それを体験できているのか。

    シビックブランディングは、こうした問いを扱うものだと考えています。

    ビジョンとブランドプロミスを、行政の判断基準のひとつにできるか

    シビックブランディングを考える上で、中心になるのが「ビジョン」と「ブランドプロミス」です。

    ビジョンとは、まちが目指すありたい姿です。
    どんな未来をつくりたいのか。
    何を大切にするまちでありたいのか。
    その方向を示すものです。

    一方で、ブランドプロミスとは、そのまちに関わる人に対して、どんな価値や体験を約束するのか、ということ。

    企業であれば、ブランドプロミスは顧客との約束として語られることが多いと思います。自治体に置き換えるなら、それは「このまちに住む人、住もうとする人、関わる人に対して、どんな体験を届けるのか」という問いになるかと思います。

    たとえば、うきは市は『第3次総合計画基本構想(案)』の中で、「こどもをまんなかに すべての市民が幸せになれるまち うきは」という将来像を掲げています。

    これは、とても大切なビジョンに類するものだと思います。

    けれど、ビジョンは掲げるだけでは、まだ十分ではありません。
    ビジョンに共感してもらい、それが日々の判断基準になり、政策や制度に落とし込まれ、市民の暮らしの中で体験されてはじめて、まちのブランドになっていきます。

    どのくらいの職員の方々が、こうしたビジョンを自分ごと化できているでしょうか。いままで企業のビジョンづくりや、その自分ごと化の支援をしてきた経験から言っても、それほど多くはないような気がしています。

    「こどもをまんなかに」と掲げるなら、市民が日々の体験の中で、それを感じ取れることを目指していかなければなりません。

    子育て情報はわかりやすいか。
    保育園や学校との関係は安心できるか。
    子どもが歩く道は安全か。
    親が孤立しない接点はあるか。
    地域の中に、子どもを見守る空気はあるか。
    窓口での説明や広報の言葉からも、その姿勢は伝わるか。
    子どもを真ん中にしたとき、まちはどう変わるのか。

    ブランドプロミスは、掲げた瞬間に信頼されるものではありません。
    窓口での対応、広報誌の言葉、通学路の安心、保育園での関わり、地域の見守り、イベントのつくり方。そうした日々の接点の中で、少しずつ検証されていくものです。

    だからこそ、シビックブランディングは、広報課だけの仕事ではなく、全庁に関わるものになります。

    では、それを行政の中でどう実装していくのか。

    そのために必要なのが、冒頭で触れた4つの視点です。

    戦略的思考:在りたい姿(ビジョン)から逆算する

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    ひとつ目は、戦略的思考です。

    ここでいう戦略とは、競争に勝つためだけのものではありません。まちの限られた力を、ありたい未来に向けて束ねるための考え方です。

    ビジョンを設定する。
    そこにたどり着くための道筋を考える。
    重点テーマを定める。
    具体的な事業や取り組み、制度設計に落とし込む。
    そして、それが市民の体験としてどう届くのかを考える。

    自治体では、どうしても既存事業の積み上げで話が進みがちです。

    今年度はこの事業を実施する。
    この制度を運用する。
    この補助金を案内する。
    このイベントを開催する。

    実務としては、そうした積み上げが必要です。けれど、シビックブランディングの視点から見るなら、問いは少し変わります。

    この事業は、まちのビジョンのどこにつながっているのか。
    この制度は、どんなブランドプロミスを支えているのか。
    この取り組みは、市民のどんな体験を変えるのか。
    この発信は、まちへの愛着を育てることにどう貢献するのか。

    それぞれの点の集中力やこだわりが強い方はいらっしゃいます。しかし、点と点をつないで線にすること。単体ではなく、統合的に捉えること。そうした視点は、まだ少ない気がします。
    事業を増やすことではなく、在りたい姿に向けて意味づけ、選び取り、つなげていくこと。

    それが、自治体における戦略的思考ではないかと考えています。

    編集的思考:各課の取り組みを、市民の体験として編み直す

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    二つ目に必要なのが、編集的思考です。

    ここは、特に自治体にとって重要な視点だと感じています。

    地域には、すでにたくさんの素材があります。うきは市なんて、魅力だらけです。

    山がある。川がある。水がある。果物がある。田畑がある。商店がある。学校がある。保育園がある。祭りがある。昔から暮らしている人がいる。移住してきた人がいる。猟師がいる。地域を支える事業者がいる。

    市役所の中にも、たくさんの取り組みがあります。

    子育て支援、教育、福祉、公共交通、観光、農業振興、移住定住、広報、防災、環境、水。それぞれの課が、それぞれの専門性と責任のもとで、日々仕事をしています。

    ただ、市民から見ると、「どの課が担当しているか」はあまり関係がない話、ということを忘れてはいけません。

    子育て世帯にとって、保育園、通学路、公園、病院、買い物、地域の見守り、広報のわかりやすさは、すべてひとつながりの「子育てしやすさ」として感じられます。

    移住を考える人にとっても、補助金、住まい、仕事、保育園、学校、買い物、交通、地域との距離感、休日の過ごし方は、別々の情報ではありません。その人のこれからの暮らしとして、つながって見えています。

    行政側では別々の課の仕事でも、生活者側ではひとつの体験です。

    だからこそ、編集的思考が必要です。

    ここでいう編集とは、単に文章を整えることではありません。広報物をきれいにすることでもありません。

    それぞれの課で進んでいる取り組みを、ビジョンに照らしてつなぎ直すこと。
    バラバラに見える事業の奥にある共通する価値を見つけること。
    行政の分類を、市民の暮らしの文脈に翻訳すること。

    それが、自治体における編集的思考だと思います。

    会議の中で、ある課の取り組みを聞いていると、それ自体は一つの制度や事業として語られます。けれど、別の課の取り組みと並べてみると、そこに共通する価値が見えてくることがあります。

    子どもを支える取り組み。
    地域の人の関わりを生む取り組み。
    移動しやすさを支える取り組み。
    うきはの自然や食や水を、次の世代に手渡そうとする取り組み。

    それぞれは別の事業でも、奥にある問いはつながっているかもしれない。

    編集的思考とは、そのつながりを見つけ、意味の流れをつくる力です。

    「横串を刺す」という言葉があります。たしかに、課を横断することは大切です。でも、本当に大事なのは、組織上の横串を刺すことそのものではなく、市民の体験として筋が通っていることなんだと思います。

    市民から見たときに、「このまちは、こういうことを大切にしているのだ」と感じられるか。
    移住を考える人から見たときに、「ここで暮らすと、こういう日々がありそうだ」と想像できるか。
    職員から見たときに、「自分の仕事は、まちのビジョンのここにつながっている」と感じられるか。

    編集的思考とは、そうした意味の流れをつくる力、価値に編み直す力と言っても良いかと思います。

    生活者発想:行政メニューではなく、市民の一日から考える

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    三つ目に必要なのが、生活者発想です。
    これは、僕の古巣である博報堂のフィロソフィーでもあります。

    行政の言葉は、どうしても制度の側から始まりがちです。

    子育て支援。
    移住定住促進。
    地域公共交通。
    産業振興。
    関係人口創出。
    水資源保全。

    ただ、市民の暮らしは、そのような行政区分でできているわけではありません。

    子育ては、保育園だけの話ではありません。
    朝の支度、通園路、近所の人の声かけ、スーパーでの買い物、公園の居心地、病院までの距離、仕事との両立、家計の不安まで含まれています。

    移住も、補助金だけの話ではありません。
    家の広さ、湿気、ゴミ出し、保育園の空き、買い物のしやすさ、地域との距離感、朝の空気、子どもがどこで遊ぶかまで含まれています。

    生活者発想とは、行政メニューから考えるのではなく、その人の一日から考えることです。

    朝起きて、子どもを送り、仕事に行き、買い物をし、家に帰り、近所の人とすれ違う。
    その一日の中で、どこで困るのか。
    どこで安心するのか。
    どこでこのまちを好きになるのか。
    どんな瞬間に「ここで暮らしていてよかった」と感じるのか。

    市役所の中にいると、どうしても事業名や制度名で物事を見てしまいそうになります。けれど、市民の側に立つと、それらは一日の中の小さな接点として現れます。

    案内文がわかりやすかった。
    窓口で少し安心できた。
    子どもが歩く道に不安が少なかった。
    地域の人に声をかけてもらえた。
    必要な情報に迷わずたどり着けた。
    まちの発信を読んで、自分の暮らしもこのまちの一部なのだと感じられた。

    そうした小さな体験の積み重ねが、まちへの信頼や愛着につながっていくのではないかと思います。

    ブランドは、スローガンだけでは暮らしに届きません。
    暮らしの中で感じられてはじめて、少しずつ実感になっていきます。

    だからこそ、生活者発想が必要だと思うのです。

    ブランド的思考:ビジョン、約束、体験を一貫させる

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    四つ目に必要なのが、ブランド的思考です。

    自治体でブランドというと、ロゴ、キャッチコピー、観光PR、移住サイト、プロモーション動画など、外向きの発信に意識が向きがちです。

    それらは、まちの価値を伝える大切な接点です。
    ただ、ブランド的思考の本質は、見た目を整えることだけではありません。

    ビジョン、ブランドプロミス、政策、事業、制度、発信、市民体験を一貫させていくこと。
    それが、自治体におけるブランド的思考です。

    市民にとってのシビックブランドは、広告よりも、日々の接点の中にあります。

    窓口での対応。
    広報誌の言葉づかい。
    保育園での安心感。
    道路や公園の整備。
    イベントの空気感。
    観光客のまちへの期待。
    首長をはじめ、市役所職員の語る内容や語り口。

    つまりシビックブランドは、広報課だけでつくるものではなく、全庁的なふるまいの集積です。

    だからこそ、ブランド的思考では、次のような問いが大切になります。

    このまちは、何を大切にしているのか。
    その価値観は、どの政策に表れているのか。
    市民は、それをどの接点で体験できるのか。
    職員は、自分の仕事とその価値観を結びつけられているのか。

    この問いを、部署を超えて持つこと。

    そこから、インターナルブランディングの必要性も見えてきます。

    インターナルブランディングは、自分の仕事とビジョンをつなぐこと

    自治体でブランドというと、市外に向けた発信や、市民に向けた広報の話になりがちです。けれど、内側の理解がなければ、外側の体験は一貫しません。

    職員一人ひとりが、まちのビジョンやブランドプロミスをどう理解しているか。
    自分の目の前の仕事が、そのビジョンにどうつながっていると感じられるか。
    日々の判断や言葉づかいの中に、まちとして大切にしたい価値が表れているか。

    ここがとても大切です。

    インターナルブランディングとは、職員に同じ言葉を覚えてもらうことではありません。

    自分の仕事が、まちの約束のどこを支えているのかを考えられるようにすること。そして、少しでも誇りに思える状態にすること。
    それが、自治体におけるインターナルブランディングの本丸ではないでしょうか。

    企業の例で考えると、スターバックスはわかりやすい存在かもしれません。スターバックスでは、働く仲間を「パートナー」と呼び、ミッションや価値観を採用サイトでも示しています。また、新卒入社時研修やフォローアップ研修、リーダーシップ開発など、パートナーが成長するための仕組みも紹介されています。

    スターバックスの強さは、コーヒーや店舗空間だけでなく、働く人がブランドの価値観を理解し、それを日々の接客や店舗づくり、地域との関わりの中で体現していることにもあります。

    もちろん、自治体と企業は違います。
    自治体は、顧客を選ぶことも、市民を選ぶこともできません。利益を最大化するための組織でもありません。

    それでも、「内側の理解が、外側の体験をつくる」という点では、学べることがあります。

    職員がビジョンを自分の仕事とつなげられていなければ、市民の体験は一貫しません。
    逆に、職員一人ひとりが「自分の仕事は、まちの約束のどこを支えているのか」を実感できるようになると、制度の説明、窓口での言葉、広報の表現、事業の設計にも少しずつ変化が生まれるはずです。

    僕がこれまで関わってきた企業のブランドづくりでも、外側の見え方だけでなく、内側の理念や姿勢からブランドを立ち上げることを大切にしてきました。以前、BIOTOPEのnoteで書いた「インサイドアウト・ブランディング」も、外側からイメージをつくるだけではなく、内側から理念を軸にブランドの変容を促し、表現や行動につなげていく考え方です。

    これからのブランドに問われるのは、「スタイル(見せ方)」だけではなく、社会や生活者とどう向き合うのかという「スタンス(在り方)」です。

    広告業界では「What to say(何を伝えるか)」と「How to say(どう伝えるか)」の違いについて、まず学びます。多くの方がつい「How to say」の議論に飛びつきますが、まずは「What to say」を磨くことが大切です。
    そしてその前に、「Who to be(どう在りたいか)」、つまりスタンスについて考えることの必要性は、これまで書いてきた通りです。

    この考え方は、自治体にも通じるのではないかと思っています。

    自治体のブランドも、ロゴやキャッチコピーや発信のトーンだけではつくれません。内側にある「スタンス」が問われます。

    このまちは、何を大切にしているのか。
    市民とどう向き合うのか。
    こどもや高齢者や事業者や移住者や関係人口に、どんな姿勢で関わるのか。
    その姿勢が、政策や制度や職員のふるまいにどう表れているのか。

    シビックブランディングにおけるインターナルブランディングとは、まさにこの「内側から外側へ」の流れをつくることです。

    たとえば、道路整備も、保育園運営も、観光PRも、広報誌づくりも、窓口対応も、それぞれ単独の業務として見ることができます。

    でも、たとえば「こどもをまんなかに」というビジョンから見直すと、それぞれの意味は少し変わります。

    道路整備は、子どもが安心して歩けるまちをつくることかもしれない。
    保育園運営は、子どもだけでなく、親の安心や地域との接点を支えることかもしれない。
    広報は、子育て世帯が必要な情報に迷わずたどり着けるようにすることかもしれない。
    観光は、次の世代に誇れる地域資源を外に開いていくことかもしれない。

    同じ仕事でも、ビジョンとつながることで意味が変わります。
    意味が変わると、判断が変わる。
    判断が変わると、市民の体験も少しずつ変わっていくはずです。

    だから、シビックブランディングを実装していくためには、庁外への発信だけでなく、庁内での対話も必要になります。

    まちのビジョンを、職員一人ひとりの仕事とどうつなげていくのか。
    各課の取り組みを、まち全体の約束としてどう編み直していくのか。
    その問いを共有する場を、少しずつつくっていく必要があるのだと思います。

    発信は、最後の広報ではなく、意味づけのプロセス

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    そして、ここで改めて考えたいのが「発信」の役割です。

    多くの場合、自治体の発信は「できあがったものを知らせる仕事」として捉えられがちです。市役所で回ってくる自治体広報の業界誌でも「文章の書き方」や「写真の撮り方」の話ばかりです。

    新しい制度ができたから知らせる。
    イベントを開催するから告知する。
    事業が終わったから報告する。
    観光資源があるから紹介する。

    それは広報の大切な役割。でも、役割の一つです。

    シビックブランディングの視点から見ると、発信にはもう一つの役割があります。

    発信とは、まちの外に向けた説明である前に、まちの内側にある価値を発見する行為でもあります。

    地域の出来事は、そのままだと単なる「情報」です。
    でも、そこに視点を置き、背景を聞き、まちのビジョンとつなげて語り直すことで、「意味」に変わっていく。

    発信することで、地域の出来事は「情報」から「意味」へと変わっていくのだと思います。

    たとえば、うきは市公式noteで公開した『うちの子は、地下水育ち。』という記事があります。

    この記事は、うきは市が全国でも珍しい「上水道のない市」であり、暮らしの多くが地下水に支えられていることを、子育ての実感から書いたものです。

    地下水というと、地域資源や水環境、あるいは行政上のインフラとして語られることが多いかもしれません。

    けれど、暮らしの中で見ると、それはもっと身近なものです。

    子どもが飲むミルク。
    麦茶。
    味噌汁。
    炊きたてのごはん。
    お風呂。
    沐浴。
    汗をかいたあとの一杯の水。

    うきはで子どもを育てていると、地下水はただの地域資源ではなく、子どもの身体をつくっているものとして感じられます。

    「水のまち」と言うだけなら、それはまちの特徴を説明する言葉です。
    でも、「うちの子は、地下水育ち」と語り直すと、その言葉は暮らしの実感に変わるのではないか。

    地域資源が、生活者の身体感覚に近づく。
    行政や観光の言葉だったものが、日々の子育てや食卓やお風呂の時間に価値としてつながっていく。

    発信には、そうした翻訳の力があるのだと思います。

    これは、ほんの小さな例でしかありません。

    けれど、こうした発信を重ねることで、「地域資源」は単なる観光情報や産品情報ではなくなっていきます。
    水は、こどもの麦茶やお風呂やごはんを支えるものになる。
    果物や野菜は、季節を知らせ、人との会話を生むものになる。
    山や川や田畑は、風景として見るだけでなく、暮らしの手ざわりとして感じられるものになる。

    シビックブランディングにおける発信とは、地域の中にすでにある価値を見つめ直し、まちのビジョンとつなげて語り直すことです。

    その語りが、市民にとっては「自分たちのまちを見直すきっかけ」になるかもしれません。
    職員にとっては「自分たちの仕事の意味を捉え直すきっかけ」になるかもしれません。
    これから住むかもしれない人にとっては、「このまちで暮らすとはどういうことか」を想像する手がかりになるかもしれません。
    関係人口として関わる人にとっては、「このまちと関わり続けたい」と思う理由になるかもしれません。

    発信は、外に伝えるためだけのものではなく、内側の認識を整える編集行為でもある。

    うきは市公式noteのような取り組みも、そうした役割を担えるのではないかと感じています。

    観光案内でもなく、行政からのお知らせでもなく、まちの暮らしを編むこと。日々の小さな出来事の中にある価値を見つけ、まちの未来とつなげていくこと。
    その積み重ねが、まちへの愛着を育てる一つの入口になるのではないか。

    記事を書くだけでまちが変わるわけではありません。
    発信だけで、ビジョンが実装されるわけでもありません。

    けれど、発信によって見え方が変わることはあります。
    見え方が変わると、関わり方が変わることがあります。
    関わり方が変わると、まちとの距離が変わることがある。

    だからこそ、発信は最後の広報ではなく、意味づけのプロセスなのだと思います。

    毎日、思考と試行錯誤

    ここまで書いてきたことは、完成された理論ではありません。

    「シビックブランディング」という言葉も、確立された方法論として使っているわけではありません。
    むしろ、行政の中でブランドをどう捉え、どう実装していけるのかを考えるための、現在進行形の仮説です。

    正直に言えば、これをどう実践に落とし込んでいくかは、まだまだこれからです。壁も課題もたくさんあります。

    ビジョン的なものを、どうビジョンとしてかたちにするか。
    ビジョンを、どう職員の実感につなげていくのか。
    各課の取り組みを、どう市民の体験として編み直していくのか。
    発信を、どう単なる広報ではなく意味づけのプロセスにしていくのか。
    市民や事業者、関係人口の人たちと、どう一緒にまちへの愛着を育てていけるのか。

    うきは市公式note『うきは編集部』を立ち上げたり。
    市役所内外の方々に、たくさんインタビューをしに行ってみたり。
    市長をはじめ、課をまたいだメンバーを集めた「ブランド戦略検討会」をはじめてみたり。
    職員同士の対話の場「オフサイトランチ会」や、企業との共同イベントを企画してみたり。
    仮説として考えていることを、このnoteに書いてみたり。
    ひとつひとつを、いま試しているところです。

    ただ、少なくともいま感じているのは、自治体のブランドを「見せ方」だけで捉えるのではなく、「関係性の育て方」として捉え直すことには、これからのまちづくりにとって大きな意味があるのではないか、ということです。

    そのまちにすでにある価値を見つめ直すこと。
    ありたい未来に向けて、何を大切にするのかを選び取ること。
    政策や制度や発信や職員のふるまいの中に、その価値を少しずつ落とし込んでいくこと。
    そして、いま住んでいる人、これから住みうる人、関係人口として関わる人の中に、「このまちに関わり続けたい」という愛着を育てていくこと。

    まちをよく見せるためだけではなく、まちとの関係性を育てるためのブランディング。

    その営みを、「シビックブランディング」と呼んでみたいと思います。

    まだ仮説です。
    けれど、市役所の中で、そして地域の人たちとの対話の中で、この仮説を少しずつ試していきたいと思います。


    参考リンク

    ・OECD “Local Identity, Pride and Branding in Place Transformation”
    https://www.oecd.org/en/publications/local-identity-pride-and-branding-in-place-transformation_9ccee12a-en.html

    ・スターバックス コーヒー ジャパン 採用サイト
    https://www.starbucks.co.jp/recruit/

    ・BIOTOPE note「ブランドは『スタイル』から『スタンス』の時代へ ──理念から始める、インサイドアウト・ブランディング」

    ・うきは市公式note「うちの子は、地下水育ち。」

    ブランディングディレクター/ 地域おこし協力隊(うきは市)
    松隈 太翔

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    福岡県うきは市に住んでます。写真と子どもと遊ぶこと、それから考えて書くことが好きです。 Branding/ Copywriting/ PR/ Facilitation | 慶應SFC→博報堂→戦略デザインファーム BIOTOPE→うきは市民

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