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Photo bybannba

あと1分だけ ❲掌編小説❳

    1976blue


    助手席に乗り込んだ途端
    私は怯える。
    また、いつものように時間が瞬く間に過ぎ
    別々の場所に帰る時が訪れる。
    その辛さに耐えるのは
    容易ではないことを知ってるから。

    「久しぶりだね。今日は何時まで大丈夫なの?」
    彼の問いに、いつも通りと私は答える。
    私の胸中など知る由もなく、彼は車を発進させる。
    やっと会えて嬉しいはずなのに、私は途端に寂しくなる。

    ハンドルを握る彼は
    時折、笑顔を向けてくる。

    (あなたは寂しくならないの?)
     
    逢瀬の時間は瞬く間に過ぎていくのに
    彼はそれに気づいてないみたい。
    時々盗み見る彼の横顔は、どことなく無表情に感じられ胸中を読み取ることはできない。
    私は今、この時を愛おしむことを忘れ
    別れの時を憂える。

    夜景の見える場所に車を停め、言葉を交わす最中も
    彼の顔のどこにも寂しさは微塵も感じられない。
    笑顔の彼に反比例して、私は次第に笑顔を無くしていく。

    別れの時が迫り、それでも平然としている彼が
    憎い、とすら思う。
    きっと彼のような性格は、最も禁断の恋に適しているのだろう。

    「まだ、帰りたくないわ」
    言うだけ無駄だと思っても、つい口から零れ出てしまう。
    「いつもより遅くなるのはダメだよ。お互い、家人に疑われるようなことはしないほうがいい。それが、僕たちの関係を続ける秘訣だ」
    あっさりと言い切る彼に、私は落胆する。
    禁断の恋を続けていくためには、掟は破ってはいけない。それは充分承知しているが、彼のようにあっさりと割り切るのは、なかなか難しいことだった。(私は、不倫には向いてないのかもしれない)

    「じゃあ、また連絡するよ」
    さばさばとした口調の彼に落胆しつつ、私はわがままを言う。
    「もう少しだけ、一緒に居ていい? あと、1分だけでいいから」
    彼は、少し困った顔をする。
    が、私を抱き寄せ、彼の手が愛おしむように髪を撫でる。
    その、心地良さに浸りながら私は目を閉じる。

    「明後日くらいには、また時間取れると思う」
    彼の言葉に安堵した。
    来週まで会えないと思っていたから、嬉しさが込み上げてくる。

    (これでまた、次に会う時まで何とか生きていけそう。良かった)

    そうして、名残惜しい気持ちと幸福感がない混ぜになりながら、私は寂しさから逃れようとしていた。

    でも本当は、もっと彼の傍にいたい。
    彼から離れたくない。
    「じゃあ、そろそろ……」
    私の肩を抱き寄せていた彼の腕が、離されようとしていた。
    「イヤ、あともう少しだけ、いいでしょう?」
    そう言いながら、彼に抱きつく。
    彼は溜め息をつき、
    「分かった。本当に、これで最後だよ」
    再び、彼は労るように優しく抱き締めてくる。

    彼の胸元に額を押しつけ、温もりを感じながら思った。
    (なぜ、別々の場所に帰らなければならないの?
    今、この時がずっと続いていけばいいのに)
    彼の腕の中で、叶わぬ願いを欲していた。

    私は更に額を強く押しつけ、彼にしがみついた。







     
     
     
    人生の折り返し地点を過ぎ、今後 ますます後悔しない選択をしていきたい。愛読書は渡辺淳一、連城三紀彦の作品。知、意より情が大事。空虚より傷心を望んでる。過去に自費出版しましたが、なかなか売れず、在庫山積み状態です。趣味でベリーダンスを始め、定期的に発表会やイベントで踊ってます。

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