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Photo bybxl_angie

この世の果て(短編小説 4)

    1976blue

    《 今までのあらすじ→ 幽体離脱に成功した真希は、北へと向かった。海峡を通り過ぎようとした時、2年前に観光船の沈没事故で亡くなった女性の
    亡霊と出会った。女性の話しを聞き、真希はしばらく傍にいた。明日また来ることを約束し、真希は一旦帰宅する 》




    (上手く肉体に戻れるだろうか?)
    自宅アパートの上空に戻ってきた真希は、少し不安になる。

    (大丈夫、落ち着いて)

    ゆっくりと屋根をすり抜け、自分の部屋に向かう。
    ベッドに横たわる自分の抜け殻が、何だか死人のように見えた。

    (もし仮に、何日も幽体離脱の状態が続くと、自分の肉体に戻れなくなる場合もあるのかしら?)

    そんなことを考えながら、ベッドの上に移動すると、ゆっくりと下降した。
    自分の体に乗るイメージで入り込もうとする。
    が、離脱する時と違って、なぜかスムーズに入り込めない。入り込もうとすると、押し返されるような感覚がある。それでも、どうにかこうにかして肉体の中に収まった。どことなく窮屈な感じが否めない。不思議に思いながらも、真希はそのまま眠りに落ちていった。

    その日の夜、入浴後に就寝の準備を済ませると、早速ベッドに入った。スマホに幽体離脱の動画を表示させ、目を閉じる。もう3度目だから怖さや不安もなく、リラックスした状態で離脱の時を待つ。
    やがて意識が薄れ、気づくとベッドの上から、横たわる自分を見下ろしていた。

    屋根をすり抜け、屋外に出る。
    あの女性との約束を守るため、昨夜通りかかった海峡へと向かう。

    (女性はあれから1人で大丈夫だったかしら?)

    できることなら、ずっと傍にいてあげたかった。

    海峡が近づいてくると徐々に高度を下げ、下界に注意を向ける。深夜の海岸は見渡す限り、無人だ。
    昨夜、女性がいた場所と思われる地点に降り立つ。
    女性の名を呼んでみようと思ったが、女性の名を聞いていなかったことに気づいた。

    とりあえず、真希はしばらくこの辺りを探してみることにした。

    (女性は、私との約束を忘れたのだろうか?)



    規則的な波の音が聞こえるだけで、夜の無人の砂浜は侘しさだけが募る。
    女性は自分の骨が発見されるまでは、この界隈から離れられないのではないかと思っている。だから、きっとどこかにいるはず。

    それから、またしばらく彷徨っていたが、女性を見つけることはできなかった。

    (さて、どうしたものか)

    その時、犬の鳴き声が聞こえたような、気がした。
    真希は周囲を見渡してみる。
    野良犬でもいるのかと思ったが、姿は見えない。

    「ワン、ワン……」

    (この吠え方、どこかで聞いたことあるわ)

    耳を澄ますと、また聞こえた。
    なぜか、懐かしい気持ちになった。

    (そうだ、実家で飼ってたダイスケの鳴き声に似てるわ)

    鳴き声は大きくなったり、小さくなったりしながら聞こえてくる。真希はじっとしたまま、鳴き声が聞こえてくる方向を探ろうとした。
    風に乗って途切れ途切れに聞こえてくる鳴き声は、ここではなくどこか遠くから聞こえているように思えた。
    今は亡きダイスケを思い出し、深い郷愁が込み上げてくる。死に目に会えなかったから、それがいつまでも心残りだった。

    女性の行方が気がかりではあったが、真希は上空に舞い上がり、鳴き声が聞こえる方向へと向かった。
    進んで行くうちに、ハッとする。

    (この方向は?!)

    鳴き声に導かれるように向かっている方向は、真希の実家がある隣の県だ。

    両親が亡くなってからは、一度も帰省はしていない。借家だったから、そもそも帰りたくても帰る家がないのだ。
    既に新しい住人が住んでるかもしれない。
    故郷はあるのに故郷を失った気分がして、それがずっと続いている。

    上空を進んで行くうちに、次第に犬の鳴き声が大きくなってきた。

    しばらくすると、今度ははっきりと聞こえた。
    下界を見ると、かつて両親が住んでいた平屋建ての借家があった。
    懐かしさで、ぎゅっと胸が締め付けられる。

    真希は地面に降り立つ。
    ここに来るのは何年ぶりだろう。

    窓から明かりが漏れている。新しい住人だろうか?

    「ワン、ワン!」

    (ダイスケ?! 明らかにダイスケの声だ。間違いない)

    真希は窓辺に近寄る。

    「ダイスケ、そろそろ寝なさい」

    母の声だ。

    (えっ、母が生き返った? イヤ、そんなはずはない)

    「ワン、ワン! ワン、ワン! ワン、ワン!」

    ダイスケの鳴き声が、激しくなった。
    懐かしさと愛おしさで、泣きそうになった。

    動揺していると、突然玄関の引き戸が開き、母が顔を覗かせた。

    「あら、真希、いたの? ダイスケが吠えたから、誰かいるのかと思ったら、真希だったのね。ずっと待ってたんだよ。遅かったのね」

    「母さん……」



             つづく












     
     
     
    人生の折り返し地点を過ぎ、今後 ますます後悔しない選択をしていきたい。愛読書は渡辺淳一、連城三紀彦の作品。知、意より情が大事。空虚より傷心を望んでる。過去に自費出版しましたが、なかなか売れず、在庫山積み状態です。趣味でベリーダンスを始め、定期的に発表会やイベントで踊ってます。

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