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トイレ事情

インドの安宿で、最初に困ったのはトイレだった。

いや、正確に言うと、

「トイレに入ったあと、どうすればいいの?」

だった。

私が泊まっていたのは、サダルストリートにある安宿。

部屋は決してきれいとは言えなかったけれど、18歳の私は「まあ、こんなものか」と思っていた。

問題は、トイレだった。

日本のトイレなら、便器の横には当然のようにトイレットペーパーがある。

でも、ここにはない。

「あれ?」

最初は、たまたま切れているのだと思った。

でも、どうやら違う。

そもそも、トイレットペーパーを流すという習慣自体が違っていた。

私は自分の荷物から持ってきていた紙を取り出した。

持ってきていて、本当によかった。

そして、もう一つ戸惑ったのが、水だった。

トイレには、小さなカップのようなものが置いてある。

「……これは何に使うんだろう?」

18歳の私には、最初はよく分からなかった。

水を使って洗うためのものだった。

使い終わった紙は便器に流さず、袋に入れる。

日本では当たり前だったことが、ここでは当たり前ではない。

トイレひとつで、こんなにも違う。

私はそのとき初めて、そんなことを実感した。

最初は戸惑ったけれど、人間は不思議なもので、何日かすると少しずつ慣れてくる。

「紙は流さない」

「水を使う」

「使った紙は袋へ入れる」

いつの間にか、それが私の日常になっていた。

旅をしていると、観光地や有名な建物だけが「異国」を感じさせるわけじゃない。

むしろ、こういう何気ない生活の中に、その国の違いが詰まっている。

昨日まで知らなかった街を、少しずつ自分の生活の一部にしていくように。

高級ホテルは勿論こういうトイレではないけれど、私が泊まっていた安宿、パラゴンホテルのトイレは、そんなトイレだった。

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