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逢魔が時に、スレ違う-第䞉刷-投曞欄の幜霊

    海銬日報かいばにっぜうが入るこのビルは、鏡町かがみたちの腐敗を凝瞮したコンクリヌトの墓石狂宀がせききょうし぀だ。か぀おは自瀟ビルずしお嚁容を誇っおいたらしいが、昚秋のオむルショックが匕き起こした䞍況の波に屋台骚をぞし折られ、今や各階には埗䜓の知れないテナントが寄生しおいる。

    二階には耳の欠けた男たちが入り浞る雀荘、䞉階には十䞀トむチで路頭に迷わせる悪埳金融屋。゚レベヌタヌの前では、蛇の刺青を芗かせた極道ダクザが、借金に震える債務者を無慈悲に远い詰めおいる。筋モンじゃあるたいし、俺は千切れかけた巊手小指をポケットに深くねじ蟌み、その暪を足早に通り過ぎた。

    ビル党䜓に挂うのは、安物のポマヌドず、錆び぀いた血、そしお焊げたダニの匂い。地䞋の印刷所から這い䞊がる振動が、ボロビルの骚組みを絶え間なく軋たせ、俺の足裏から神経を逆撫でする。四階の線集郚ぞ足を螏み入れるず、そこは屠殺堎の冷たい静けさだった。数十人の聞屋ブンダが怒号を飛ばしおいたフロアも、今や数人の疲れ果おた男たちが、死んだ魚の県で原皿甚玙ずいうたな板に向かっおいるだけだ。敎理郚ず瀟䌚郚の境目など、ずうの昔に腐り萜ちた。デスクの䞊には、締め切りに殺された没ボツ原皿の死骞ず、吞い殻の山が散乱し、酞っぱいダニの臭いが空気を黄色く淀たせおいる。


    「黒田ぁ。ワレ、い぀たでサボっずる぀もりや、のう」


    奥のデスクから、ひどく黄ばんだダミ声が飛んでくる。蛍光灯を鈍く反射する犿頭に、底知れぬ黒県鏡。この泥舟の舵を取る線集長の瀬䞭せなかだ。

    裏瀟䌚の連䞭ずも気脈を通じるず囁かれるこの男は、血走った県で俺を睚み぀けるが、俺の曎半玙になった右耳には䞀瞥いちべ぀もくれない。蚘者の肉が玙屑に倉わろうが、茪転機りんおんきが札束ネタを刷る音しか欲情しない男だ。瀬䞭はドサリず、分厚い玙の束を俺のデスクに叩き぀けた。鏡町ずいう胃袋が吐き出した、消化䞍良の汚物だ。


    『隣の赀ん坊が倜な倜な般若心経を唱える』

    『公衆電話の釣銭口に他人の指が詰たっおいる』

    『電信柱の圱から赀いマントを矜織った男が笛を吹いおいる』


    錻で嗀わらう気にもなれん。どい぀もこい぀も、電波に圓おられおのがせ䞊がりやがっお。俺の曎半玙の小指は、こんな玙屑を敎理するために千切れたわけやない。舌打ちず共にハガキを乱暎に匟いおいるず、束の底にぞばり぀いおいた分厚い黒い封筒が滑り萜ちた。切手はない。衚には『黒田䞀郎様』ずだけ、血が凝固したような赀黒いむンクで蚘されおいる。忌々しい。裏返せば、


    『海銬ビル 侃階 䞃〇四号宀』


    心臓が肋骚の裏で重く軋んだ。

    䞃階やず物理的な欠番䞃階からの郵䟿物だ。封を切る指先が、酷いアル䞭のように小刻みに震えおいる。胃袋の底で冷たい鉛がゎロンず転がる。䞭から出おきたのは、むンクの匂いも生々しい䞀枚のゲラ刷りだった。


    『海銬日報蚘者・黒田䞀郎、凄惚な死──』


    極倪の明朝䜓が、県球を盎接殎り぀けおくる。蚘事には、俺が明日の倜明け前、党身の皮を掻字の版朚ずしお剥がされお死ぬ様子が、ひどく事務的な筆臎で綎られおいた。ゲラに觊れた俺の曎半玙の小指からむンクが逆流し、玙面の掻字がドクドクず脈打ち始める。掻字の矀れが、俺の死を明日の枠にねじ蟌もうず玙面の䞊で蠢いおいるのだ。

    口の䞭に、叀い鉛の味が広がった。この俺をむンク代ネタにしお、誰がゲラを組んだ殺される前に、䞃階の息の根を止める。俺はデスクの䞋からバヌルを匕ったくり、非垞階段を駆け䞊がった。


    六階ず䞃階を隔おる螊り堎。そこには分厚いベニダ板が打ち付けられ、芪の仇のように䜕重にも鎖が巻かれおいる。赀ペンキで殎り曞きされた『欠番』の二文字が、䟵入者を冷たく突き攟しおいた。コンクリヌトの段の隅、誰が吐き捚おたのか、干からびお黒ずんだガムの塊に埃がびっしりずこびり぀いおおり、それがなんずなく掻字にも芋えおきお、思わず顔を近づけるず、なんずもいえない唟液の臭いが錻を突いたが、そんなこずどうでもいい。

    俺は玙切れの小指ごず、力任せにバヌルをねじ蟌む。金属の断末魔が吹き抜けの底ぞ萜ちおいき、錆びた鎖が匟け飛んだ。分厚いベニダ板を蹎り砎り、俺は封印された䞃階ぞず螏み入った。

    途端、むせ返るようなカビず酞化した鉛の匂いが、肺の裏偎にねっずりずぞばり぀く。時蚈の針が錆びお萜ちた、灰色の廃墟だ。床に積もった埃を螏みしめるたび、足元からカシャリず叀い掻字が擊れ合う音が鳎った。懐䞭電灯の光が、壁に疥癬かいせんのようにぞばり぀いた叀いゲラ刷りを、ゆっくりず舐め回しおいく。


    ┌ 䞃〇䞀、䞃〇二、、䞃〇䞉  。┌


    壁の四隅には、巚倧な『 ⌖ 』芋圓暙。
    足元のタむルには、唐突に『 ✂―――― 』ずいう裁ち萜ずしの砎線が走っおいる。


    この
               線を越えれば
    、  俺の肉䜓は
          裁断される。   
    巚倧な 死
         の印    刷機に、俺はもう
               喰われおいる。
    ✂――――


    最果おの䞃〇四号宀。
    ¶ ドアの隙間から、ドロリずした生むンクが出血のように滎っおいる。鉛の味ごずドブ氎のような唟を呑み䞋し、俺は錆びたドアノブを曎半玙の小指ごず捻り回した。
    〓〓 蝶番の悲鳎ず共にドアを蹎り開ける。
    ¶ 懐䞭電灯の光が切り取った四畳半の䞭倮に、そい぀は鎮座しおいた。鈍く黒光りする無骚な鉄の塊。小型の茪転機だ。だが、光が舐めた鉄の衚面には、生皮の䜓枩ず、ヌメりずした脂汗が滲み出しおいた。〓〓


    ガ写シャン、画ガタン。蚀《ゎト》、沈《チヌン》。┌


    画像


    ただの鉄塊が、芏則正しく脈打っおいる。目を凝らすず、むンクを延ばすロヌラヌの衚面にはうっすらず産毛。無機質なシリンダヌは肺臓そのものの䌞瞮を繰り返す。機械油の匂いに混じっお、れェ、れェずいう粘り気のある呌吞音すら聞こえおくる。吐き出し口には、すでに山積みにされた玙の束。䞀番䞊に芋える極倪の明朝䜓は、



    『俺の死』だ。
    ✂――――


    #創䜜倧賞2026
    #ホラヌ小説郚門

    タむトル画・挿絵/胡貌こちょう 十倜ずや


    第四刷はコチラ☟


     
     
    1998幎より鏡町にお、芋䞖物パンク䞀座【ストロベリヌ゜ングオヌケストラ】の座長を担い、鏡町より死神䞉寞離れた区画に斌いおは、唖の描く月絵に䜵せコトノハを吐き散らす【瀉葬文幻庫】瞜・宮悪戊車デス。このnoteでは、僕が曞いおきた戯曲・小説・詩䞖界・挔劇䜜品等を発衚しおいきたす。

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