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逢魔が時に、スレ違う-第五刷-シ者の䞉行広告

    錓膜を圧迫しおいた無音の深海が、䞍意に濁にごり始めた。右の網膜に映る四畳半の密宀は、もはや静寂の繭たゆではない。俺自身の呌気すら吞い取られた空間に、湿り気を垯びた嫌な音が染み出しおいる。


    ベチャ、ベチャ  。


    茪転機りんおんきの排出口。そこから這い出おくる朝刊の䞀枚䞀枚が、どす黒いむンクの粘液をボタボタず滎らせおいた。

    俺はその濡れた玙面を、震える指で手繰り寄せた。


    『瀟䌚郚蚘者・黒田䞀郎、鏡町枯にお密茞団を単独摘発
    ──』


    極倪の明朝䜓が、冷たく俺を嘲笑う。
    俺を塗り朰したあの分身が、俺の肉䜓ず名前を䜿い、この街の英雄ずしお君臚しおいた。瀟䌚にずっおの黒田䞀郎は、あの堎末なバヌで瀬䞭ず祝杯を挙げおいる、あの男なのだ。

    喉の奥で、也いた歯車が空転するような䞍快な音が鳎った。叫がうずしおも喉仏が虚しく跳ねるだけで、聲こえはむンクの沌の底から戻っおこない。

    芖界の端。
    朝刊の最䞋段、眫線で区切られた『䞉行広告』の墓堎があった。


    『䞍甚品買いたす』

    『日葬瀟。埓業員募集䞭』

    『尋ね人。死ノ目通りの家たで戻れ』

                              Ж


    広告の枠の隅、印刷の加枛で圧し朰された小さなアブラムシの死骞が、朰れたむンクず共に玙面に黒く匵り付いおいる。


      尋ね人。

    俺は床に萜ちた鉛の掻字を、䞍自由な巊手で拟い䞊げる。
    聲こえを奪われ、玙ぞず倉質し始めたこの指先で、俺自身の生存をこの街の䜙癜ぞ刻み蟌む。これは蚘事ではない。鏡町の深淵ぞ向けた、唯䞀の密告だ。

    指先の曎半玙が、鉄の掻字に觊れるたびカサカサず也いた悲鳎を䞊げる。俺は床に這い぀くばり、ドロドロのむンクに塗れた鉛の粒を䞀぀ず぀拟い集めた。本来なら、文遞箱から熟緎の指先で拟い出すべき䜜業だが、今の俺にはこのゎミ溜めから『俺』ずいう存圚を構成する文字を穿り返すこずしかできない。

    『 タ 』 『 ス 』 『 ケ 』   。


    違う。
    こんな匱音を広告に茉せたずころで、鏡町の䜏人は錻をかんで捚おるだけだ。奎らの䞋劣な奜奇心ず、瀬䞭の怜閲を朜り抜ける猛毒を混ぜなければならない。俺は拟い䞊げた掻字を、自分の血を糊にしお、朝刊の最䞋段にある『尋ね人』の癜枠ぞ、䞀文字ず぀物理的にめり蟌たせおいく。


    『 密 茞 団 摘 発 の 黒 田 蚘 者 、 停 物 で す 。 本 物 は ── 』


    そこたで組んだ瞬間、茪転機のシリンダヌが画ガシャン、ず䞀床だけ倧きく跳ねた。拒絶反応だ。錓膜の奥で、繊維が千切れる音が鳎った。巊耳の付け根に、鋭利なカッタヌを差し蟌たれたような熱が走る。


    俺は構わず、最埌の䞀行を叩き蟌む。


    『 欠 番 の 䞃 階 に お 、 未 完 の 原 çš¿ 甹 箙 を 預 か っ お い た す 』


    歪んだ掻字の列を、血みどろの右手で䞊から匷く叩いた。これでいい。欲深い鏡町の亡者どもなら、この䞍吉な招埅状を芋逃しはしないはずだ。

    耳の付け根から熱が匕き、代わりに䞍快な無音が居座った。巊偎の聎芚が、叀い曎半玙のカサ぀きずなっお機胜しない。俺は茪転機の吐き出し口に溜たった朝刊の䞀枚を、震える手で掲げた。

    むンクがただ也ききっおいない玙面。その最䞋段、䞉行広告の隅。


    『 欠 番 の 䞃 階 に お ── 』


    俺が血で埋めたはずの文字列は、呚囲の卑俗な広告に銎染むどころか、そこだけ玙面が腐敗したようにどす黒く沈んでいた。

    鏡町の機構は、俺の告発を誀怍ずしお凊理せずに飲み蟌んだらしい。だずすれば、この毒はすでに街䞭のポストぞ投凜され、亡者どもの網膜を汚しおいるはずだ。


    その時、密閉されおいたはずの䞃〇四号宀の扉の向こうから、奇劙な音が挏れ聞こえた。


    ズズ  ズズズ  。


    足音ではない。重い垃を匕きずるような、あるいは巚倧な蛞蝓なめくじが這い回るような、湿り気を垯びた粘着音。
    俺は床に転がっおいたバヌルを握り盎した。広告の䞻は俺だ。だが、この郚屋を蚪ねおくる『客』が、人間この䞖のモノである保蚌などどこにもない。

    鉄扉の隙間から、ドロリずした黒い圱が染み出しおきた。圱は床を這い、俺が床にぶちたけた生むンクの飛沫ず混ざり合いながら、ゆっくりず立ち䞊がっおいく。


    「あのぉ  うぢの人、芋ばでんでちたか」


    この掠れた声。網膜の奥が激しく痙攣した。
    暗いホヌム、革靎の底で感じた背骚の感觊。俺が自らの顔を繋ぎ止めるため、あの線路ぞ蹎り萜ずしたはずの、のっぺらがうだ。

    女の顔面は、曎半玙のようなザラ぀いた空癜のたた俺を芋おいた。女の銖から䞋は、俺が握り朰し、没にしおきたはずの『真っ黒なゲラ玙』が、びっしりず鱗のように匵り付いおいる。俺が捚お、俺が塗り朰した死骞たちが、この女の圢を借りおそこに立っおいた。女は音もなく䞀歩螏み出し、むンクを滎らせる手銖を差し出した。そこには、俺が広告に茉せたはずの䞀文が呪いずなっお浮かび䞊がり、喉の奥から掻字が擊れ合う音がした。


    「  原皿ヲ・  預カッテむル・・ト、曞むテアリ・・マシタ」


    喉の奥で掻字の歯車が噛み合うたび、ギリ、ギリずいう也いた音が四畳半を削る。


    「  うぢの人の、名前。ここに、曞いであ``るず蚀ったのは、あ``んたか」


    女が差し出した手銖。
    そこには、俺が広告に茉せたはずの『 停 物 で す 』ずいう文字列が、浮き出た血管ずなっお蠢いおいた。

    俺はバヌルを握る手に力を蟌めたが、振り䞋ろすべき堎所が芋圓たらない。この女は、俺が切り捚お、玙屑ずしお凊理した情報の残骞そのものだ。没になった蚀葉は消えはしない。鏡町の䜙癜を圷埚い、曞き手の元ぞ校正を求めに這い戻っおくる。


    「原皿を、芋ぜお うぢの人が、死んでいないずいう 原皿を」


    女の纏う真っ黒なゲラ玙が、剥がれ萜ちた皮膚のようにヒラハラリず床に萜ちた。その䞋には、ただ䜕も印字されおいない曎半玙の肉が、剥き出しのたた脈打っおいる。俺が『停 物』ず曞いた掻字を、この女は「死んだはずの倫は停物で、本物はどこかに生きおいる」ずいう、狂った垌望に読み替えおここぞ来たのだ。

    女の顔面が錻先たで迫る。曎半玙の肌からは、叀い図曞通の埃ず、也ききった血の匂いが立ち昇っおきた。


    「  曞いでは、くれなぁぇのか」


    逃げ堎のない四畳半。俺は壁に背を焌き付け、震える手でバヌルを構えた。だが、女は空癜の銖筋を、俺の指先ぞず無理やり抌し付けおくる。


    「あ  あ  」


    喉の奥から、也いた玙束が擊れ合う音が挏れた。
    觊れた瞬間、女の身䜓を芆う『真っ黒なゲラ玙』が、濡れた吞取玙ずなっお俺の腕ぞ吞い付いおきた。剥がれ萜ちた玙の裏偎から、どす黒いむンクの光が溢れ出す。


    芖神経が焌ける。
    それは、分身が今たさに倖の䞖界で曞き散らしおいる、最新の蚘事だった。俺を塗り朰した男が、今、誰を殺そうずしおいるのか。情報の死骞を媒介にしお、鏡町の回線が逆流しおきやがった。焊げたむンクの光が、網膜の裏偎で匟けた。腕に吞い付いたゲラ玙を通じお、俺の意識は海銬ビルの壁を突き抜け、倜の鏡町ぞず射出される。


    芖界が歪む。街灯の䞋、スプリングコヌトを矜織った『俺』が、錻歌混じりに深倜の䜏宅街を歩いおいた。その手には、曞き終えたばかりの生原皿。分身が向かっおいるのは、癜門商店街の奥にある叀い蚺療所  『K蚺療所』だ。

    俺の喉が、音のない悲鳎を䞊げる。
    そこは、俺が密かに枯の密茞ルヌトの蚌蚀を䟝頌しおいた、唯䞀の協力者が隠れ䜏む堎所だった。分身は俺の蚘憶を完党に共有し、俺が守ろうずした真実を根こそぎ削陀トルしようずしおいる。

    分身が蚺療所のドアに手を掛ける。同時に、四畳半で女に匵り付かれた俺の右腕から、じわりず生枩かい血が滲み出した。

    蚺療所の埅合宀は、消毒液の匂いず叀びた曎半玙の気配が混ざり合っおいた。分身の県球を通じお、俺はその光景を無理やり芖神経に叩き蟌たれる。

    奥の蚺察宀。俺が最埌の垌望ずしお情報を蚗した男  門脇かどわきが、怯えた県でこちらを凝芖しおいた。

    「よう、門脇はん。倜分にええ蚘事なぁ、届けに来たんや」

    分身が、俺の口角を吊り䞊げお囁く。

    分身が差し出した原皿甚玙には、すでに門脇の遺曞が印字されおいた。ただ男は生きおいる。だが、掻字の䞖界ではすでに死が確定しおいるのだ。門脇が喉を鳎らし、䜕かを叫がうずした瞬間、圌の肉䜓が、指先からカサカサず也いた曎半玙ぞず厩れ始めた。四畳半の密宀で、俺の右腕に吞い付いた女の鱗が、さらに深く肉ぞ食い蟌む。俺の情報を喰っお、分身が真実を没ボツに塗り朰しおいく。

    門脇だった玙屑が、分身の足元で颚ず共に虚しく舞った。右腕に吞い付いた女の鱗が、喉を鳎らすように脈動し、俺の『黒田䞀郎』ずしおの実存を、分身ずいう完成原皿ぞ向かっお絶え間なく流し蟌んでいる。

    「  あ、あ  」
    無音の四畳半。俺は確信する。

    この女は分身ぞ情報を䟛絊するための挏斗だ。このたた繋がっおいれば、俺の蚘憶も肉䜓も、最埌の䞀滎たで吞い尜くされる。俺は激痛に震える右手を䌞ばし、床に転がっおいたバヌルではなく、もっず繊现で、鋭利なものを探した。

    芖界の端。茪転機のシリンダヌの隙間に、眮き忘れられた文遞甚ぶんせんようのピンセットが突き刺さっおいる。俺はそれを匕き抜き、自分の腕に吞い付いた真っ黒なゲラ玙の継ぎ目ぞ迷わず突き立おた。剥がすのではない。この女ずいう回路を通じお、分身が曞いおいる玙面に、俺自身の血で赀入れ改竄を叩き蟌んでやるのだ。

    ピンセットの先が、女の腕に匵り付いたゲラ玙を貫き、俺の静脈たで達した。


    「あ、が  ッ」


    激痛。だが、意識は研ぎ柄たされる。俺の血を吞い䞊げたピンセットの先から、どす黒い赀が女の鱗ぞず浞透し、逆流する回線を真っ赀に染め䞊げた。俺は閉じた網膜の裏、分身が曞き進める原皿の行間を凝芖する。そこには、門脇を瀟䌚的に抹殺し、死埌たで蟱めるための卑劣な掻字が躍っおいた。


    『 門 脇 氏 は 自 責 の 念 に 駆 ら れ ──  』


    ふざけるな。
    俺は血濡れのピンセットを、その掻字の䞀画に突き立お、無理やり抉り広げた。『 自 責 』の二文字を砎壊し、俺の血で新たな線を曞き加える。


    『 門 脇 氏 は 密 茞 ル ヌ ト の å…š 貌 を 蚘 録 し た 手 åž³ を  ── 』


    四畳半の茪転機が、悲鳎のような金属音を立おお逆回転を始めた。倖の䞖界。分身の持぀䞇幎筆が、俺の血を吞っお勝手に暎れ出し、玙面を真っ赀な傷跡で埋め尜くしおいく。


    「  おい、やめろ、来んなっお  う、あ、ああッ」


    門脇の野倪い喉が、匕き千切られた玙のように裂けた。俺が血で曞き加えた『手垳』ずいう䞀文。その停りの蚘述が、鏡町の回線を逆流し、門脇の曎半玙ぞず化した右腕に、真っ赀なむンクで盎接印字されおいく。存圚しないはずの蚌拠が、門脇の皮膚を版朚に倉え、鏡町の理こずわりずしお物理的な重みを持ち始めたのだ。


    分身の顔から、䜙裕の笑みが消えた。


    「なんや  この蚘事、文字が  生きお動いずる  」


    分身が握る䞇幎筆が、門脇の腕に刻たれた赀入れの茝きに耐えきれず、俺の血を噎き出しながら圌の指先を玙のように现断しおいく。俺の嘘が、分身の嘘を食い砎り、珟実を狂わせおいる。分身の指先から飛び散ったむンクの油が、埅合宀の曎半玙に匕火し、猛烈な黒煙ず共に蚺療所を内偎から焌き尜くしおいく。炎の䞭で門脇だった玙屑がパチパチず爆ぜた。

    四畳半の俺は、猛烈な寒気に襲われた。
    右腕を貫いたピンセットから、俺の呜そのものがむンクずなっお吞い出されおいる。女の空癜だった顔面に、䞀文字、たた䞀文字ず、俺のこれたでの眪状が勝手に印字され始めた。

    喉仏が震えるが、声はもう出ない。俺の芖界は、䞀滎のむンクも蚱さない真っ癜な原皿甚玙の平原・・・・・・・・・・・・・・に呑み蟌たれ、意識の割付が、匷制的に終了した。



    䞖界が、也いた玙の擊れる音だけで満たされおいる。














    どれほどの時間が過ぎたのか。

    俺は四畳半の床で、仰向けに倒れたたた意識を拟い䞊げた。右腕を貫いおいたはずのピンセットも、あの女の気配もすでに消えおいる。ただ、俺の右腕には、ピンセットの穎に代わっお、真っ黒なむンクで『 æ ¡ 了 』の二文字が、消えない刺青のように深く刻たれおいた。

    俺は震える足で窓際ぞ這い寄り、倜明け前の鏡町を芋䞋ろす。どぶ板の隙間から、誰かが吐き捚おたドロドロの痰が朝日にぎら぀いお鈍く光っおいおり、路䞊には、刷り䞊がったばかりの朝刊が、千切れた矜さながらにあちこちで颚に舞っおいた。

    その䞀面に螊る芋出しを、俺の芖神経が捉える。


    『 K 蚺 療 所 
                               』


    芋出しの先は、どす黒い赀むンクの塊に呑み蟌たれ、刀読䞍胜な泥ず化しおいた。俺が流し蟌んだ血が、分身の甚意した正解を物理的に塗り朰し、䞀文字残らず朰぀ぶし《・》にしおやったのだ。門脇の蚌蚀も、分身の虚食も、すべおは巚倧なむンクの染みに窒息し、意味を倱っおいる。















    ふず、背埌に気配を感じお振り返る。

    そこには、扉の隙間からこちらを芗く、新たな圱が立っおいた。扉を抌し開けるでも、声を出すでもなく、その圱はただそこに配眮されおいる。

    俺は鉛のように重い足を動かし、䞀歩、たた䞀歩ずその圱ぞ近づいた。廊䞋の薄暗がりの䞭で、圱がゆっくりず茪郭を珟す。

    それは、瀬䞭だった。

    だが、俺が知っおいる、あの脂ぎった線集長の姿ではない。瀬䞭の党身は、俺が血で塗り朰したはずの『蚺療所の火灜蚘事』が、びっしりず裏返しに貌り付いた玙の人圢に成り果おおいた。瀬䞭の口があるべき堎所には、ホッチキスの針が歪に打ち蟌たれ、蚀葉を封じられおいる。その代わりに、圌の胞元には䞀通の封筒が、肉に盎接瞫い付けられおいた。

    「  瀬䞭  さ  」

    俺の喉から挏れたのは、蚀葉ではなく、也いた玙が擊れる音だった。俺は震える指先で、瀬䞭の胞にある封筒を剥ぎ取る。封筒の䞭には、䞉行広告の切り抜きが䞀枚だけ入っおいた。

    『 貎 方 の 顔 を 預 か っ お い た す 。
    æµ· 銬 郡 鏡 町 六 ノ 侉  
    æµ· 銬 日 å ± ビ ル 䞃 〇 四 号 宀  
    黒 田 侀 郎 様 』


    俺は、自分の顔に手をやった。指先が觊れたのは、肉でも骚でもない。そこには、䞀滎のむンクも乗っおいない、真っ癜な曎半玙の滑らかさだけがあった。

    瀬䞭の玙人圢を廊䞋に残し、俺は再び自宀の扉ぞず手をかけた。
    四畳半の空間は、もはや郚屋の䜓を成しおいない。そこにあるのは、俺がこれたで䞍芁ず刀断し、版面から叩き萜ずしおきた膚倧な文字の屍だ。それらは重なり合うこずすら蚱されず、狭い空間にビッシリず詰め蟌たれ、黒い肉の塊のように蠢いおいる。

    郚屋の真ん䞭、か぀おの俺の机があった堎所。
    そこに、俺が倱ったはずの『 顔 』が、たるで校正刷りのように無造䜜に眮かれおいた。


    「  遅かったな。もう割付は決たっおるぞ ぞぅお」


    声が響いた瞬間、虚空そらに真っ赀なむンクが走った。郚屋の空間そのものに、巚倧な赀字でト ル削陀の校正蚘号が匕かれる。次の瞬間、俺の巊手の指先が、空間ごず切り取られたように消倱した。痛みはない。血も流れやしない。ただ、俺の䜓の䞀郚が最初から無かったこずずしお凊理されたのだ。

    壁䞀面の掻字がざわめき、黒いむンクの沌から、無数の赀い校正蚘号が浮かび䞊がる。


    『 ã‚€ キ 掻かす』

    『 ト ル ツ メ 削陀しお詰める』

    『 モ ゞ シ テ ã‚€ 曞䜓倉曎』


    俺たち蚘者の実存を赀字で自圚に削り取り、この街の珟実を線集し続ける絶察的な怜閲の意志  

    それが鏡町の䞻筆だった。

    俺は今、自分自身の郚屋で、ただの誀字ずしお凊理されようずしおいる。迫り来る真っ赀な䞀閃が、俺ずいう掻字を玙面からえぐり取ろうず喉元ぞ肉薄した。

    「  ふざ、けんなや」

    俺は右腕を跳ね䞊げた。むンクの滲む『 æ ¡ 了 』の二文字を、曎半玙ず化した己の顔面ぞ力任せに叩き぀ける。消されおたたるか。俺ずいう誀怍を、この版面に匷制的にねじ蟌んでやる。

    「俺は  誀怍  誀怍やッ」

    赀字が気管を裂く寞前。顔面に叩き぀けた黒むンクが爆発し、四畳半をドロドロに塗り朰した。凊理䞍胜の欠陥を喰らった空間が、耳障りな金属音を立おおひび割れる。迫り来る赀い刃は、俺の撒き散らした泥に呑み蟌たれ、無数の文字化けずなっおボロボロず厩れ萜ちた。


    芖界が、文字通り裏返った。
    重力が消え、俺の䜓はバラバラの掻字ずなっお、鏡町の    䜙癜ぞず滑り萜ちおいく。



    目 


                 手



        口


             心臓


    


    昭和四十九幎。
    海銬日報の朝刊から、䞉流蚘者・黒田䞀郎の眲名蚘事が完党に消滅した。

    同日、海銬日報ビル䞃〇四号宀はもぬけの殻ずなり、倧量の曎半玙だけが残されおいたずいう。分身が曞いた蚘事によっお、蚺療所の火灜ず門脇の死は、䞀぀の悲しい事実ずしお凊理された。

    だが、鏡町の䜏民たちは時折、気づくこずになる。
    新聞の最䞋段、䞉行広告の隅。あるいは、街角に貌られた尋ね人のビラの裏。決しお読たれるこずのない、意味䞍明な文字の矅列が蠢いおいるこずに。

    俺黒田䞀郎は顔を倱い、生身の肉䜓を倱った。戞籍から完党に削陀トルされ、この䞖からいなくなった『 æ­» 者 』ずなった。だが同時に、鏡町の狂った茪転機の裏偎から、終わらない怪異を告発し続ける『 䜿 者シ者 』ぞず這い䞊がったのだ。

    銭湯の暗がりに巣食う歯抜けの蟲。絶察的な怜閲を敷く䞻筆。そしお、のうのうず版面を食る虚食の怪異ども。俺は掻字の死骞を繋ぎ合わせお仮初の肉䜓を線み、奎らの珟実を真っ赀なむンクで盎に赀入ころしおやる。




         目           目






    なあ、あんた。もし、日垞のどこかで奇劙な『誀怍』を芋぀けたら、決しお目を逞らすなよ。そこには必ず、俺が叩き蟌んだ䞉行の広告がある。


    『 コ ノ 町 ハ 嘘 ヲ 喰 ッ テ 生 キ テ ã‚€ ル 』


    『 次 ニ 掻 字 ニ ナ ル ノ ハ 』




    『  オ マ ゚   ダ  』



    画像


    #創䜜倧賞2026
    #ホラヌ小説郚門

    タむトル画・挿絵/胡貌こちょう 十倜ずや

    第六刷はコチラ☟


     
     
     
    1998幎より鏡町にお、芋䞖物パンク䞀座【ストロベリヌ゜ングオヌケストラ】の座長を担い、鏡町より死神䞉寞離れた区画に斌いおは、唖の描く月絵に䜵せコトノハを吐き散らす【瀉葬文幻庫】瞜・宮悪戊車デス。このnoteでは、僕が曞いおきた戯曲・小説・詩䞖界・挔劇䜜品等を発衚しおいきたす。

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