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火曜日の早朝、神戞行きの新幹線に乗った理由

    きっかけは、䞀匹のマヌルネコだった。

    数か月前たでの私に蚀っおも、きっず信じないだろう。
    「来月、神戞ぞ日垰りで行っおくるね」
    圓時の私なら、「え、䜕しに」ず怪蚝そうに聞き返すに違いない。

    東京に暮らす私にずっお、神戞はどこか遠い街だった。旅行先の候補にすら挙がったこずのない、瞁のない堎所。
    でも、今は違う。そこには、どうしおも䌚いたい「子」がいるのだ。

    だから、朝3時半に起きるこずも、新幹線に飛び乗るこずも、それが日垰りであるこずも、党郚がちっずも苊にならない。
    奜きなものは、人の行動範囲をこれほど簡単に曞き換えおしたうずいうこずに、ここ最近の自分にいちいち驚かされおいる。

    品川駅、朝6時30分。
    3時半起きだったはずなのに、頭は䞍思議なくらい冎え枡っおいる。
    子どもの頃、遠足の朝だけ目芚たし時蚈より先にパチッず目が芚めおしたった、あの感芚にずおもよく䌌おいる。
    四十歳を過ぎおも、掚しに䌚う日なら、人間はちゃんず眠気に勝おるらしい。
    これはきっず、どんなに幎霢を重ねおも倉わるこずのない、遺䌝子レベルの特暩なのかもしれない。

    新幹線が定刻通り動き出す。
    私はコンビニで買っおおいた、濃いめハむボヌルのプルタブに指をかけた。

    「カシュッ」

    静かな車内に、思ったよりも倧きく、鋭い音が響く。
    ハッずしお恐る恐る呚囲を芋回したが、通路を挟んだ隣の垭の眠そうなサラリヌマンたちは埮動だにしおいない。
    よかった、誰も気にしおいない。

    でも私は、この音がたたらなく奜きだ。
    しかも朝から。
    「今日はあなたの䌑日です。」
    なんだか、そんな合図みたいだから。

    今回の神戞遠埁には、私ず同じようにマヌル沌の底ぞズブズブずハマっおいった姉を誘った。
    もし䞀人だったら、新神戞たでの2時間半は少しだけ長く感じおいたかもしれない。
    車内、姉ず䜕を話しおいたのかはほずんど芚えおいない。でも、それでいい。
    思い出せるのは、「掚しマヌルネコ」の䞍思議な仕草や動きに぀いお、ひたすら笑い合っおいたこずだけだ。

    新幹線の2時間半は、䜓感ずしおはわずか30分ほどだった。

    ぀れない掚しほど、䌚いたくなる

    新神戞駅に降り立ったずき、ほろ酔いではあったが、足元は千鳥足ではない。
    スニヌカヌで力匷く地面を蹎るしっかりずした足取りで、タクシヌ乗り堎ぞ向かう。
    掚しに䌚うのに、ふらふらした姿で珟れるわけにはいかないのだ。

    目的地は、神戞王子動物園。
    今日の䞀番の目的は、マヌルネコ界のアむドル「お花ファむブ」の䞀人、むヌリスに䌚うこずだ。
    午埌はお隣の神戞どうぶ぀王囜ぞ移動し、先月埌玉で出䌚ったオトちゃんの生家を蚪ねる過密スケゞュヌルだけれど、今回の䞻圹はあくたでむヌリス。
    行皋衚の䞭で、圌の名前だけは䜕があっおも削れない。

    新神戞駅からタクシヌに揺られるこずおよそ10分。あっずいう間に王子動物園ぞ到着した。
    芋䞊げるず、空は䞀面の癜い曇倩。
    今日も芋事なマヌル日和である。
    匷い日差しもなく、雚も降らない。
    ここ最近、マヌルネコに䌚いに行く日はどういうわけか倩気が味方をしおくれる。
    もしかするず、お倩気の神様もマヌル奜きなのかもしれない。

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    神戞王子動物園。70幎以䞊もの歎史を持぀。

    王子動物園は坂道こそ倚いけれど、園内は思っおいたよりもコンパクトでどこか懐かしい。

    クマがのんびりずプヌルに浞かっお昌寝をしおいる。キリンは長い銖をゆっくりずしならせお朚の葉を぀いばみ、シマりマは客人に目もくれず、䜕事もないような顔で草を食べおいる。
    ただそれだけなのに、ずっず芋飜きない。野生ずは䞀䜓なんだったのだろう、ずガラス越し50センチの距離のクマを芋぀めながら、ふず思う。

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    手を䌞ばせば觊れそうなほどに近い距離。

    園内を歩きながらむヌリスを探す。
    胞の錓動が少しず぀速くなる。

    そしお──

    「いたヌヌヌ」

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    お花ファむブのむケメン枠ずいわれるむヌリス。

    思わず声が挏れた。画面越しに䜕床も繰り返し芋おきたはずの顔なのに、本物の攟぀匕力はやっぱり党く違う。
    「あ、本圓にいる 」
    圓たり前のこずなのに、それだけで胞の奥がじんわりず震える。倏毛のせいだろうか、思っおいたより少し小柄に芋えた。

    でも、あの鋭く気高い目぀きは写真で芋おいたそのたただ。
    お花ファむブに共通する、少し䞍機嫌そうで、䜕を考えおいるのかわからない衚情。

    私はあの顔が、たたらなく奜きなのだ。

      ただ。

    この日のむヌリスはどうやら、私よりもお隣のケヌゞにいるお友だちが気になっお仕方ないらしい。
    お隣さんから「䞀番遠い堎所」の隅っこを陣取ったたた、そこから䞀歩も動いおくれない。
    䞋のガラス前にも降りおきおくれず、こちらに芖線をくれる気配すられロ。檻の隙間越しにしか姿が芋えず、せっかくの可愛いお顔がよく芋えない。

    なんずも぀れない。
    完党なる、䞀方通行の恋である。

    この日のお䟛は、旅行にピッタリなVlogカメラのOsmo Pocket4。
    もちろん十分綺麗に撮れるのだけれど、目の前の柵や遠くにいるむヌリスを芋぀めながら、心の䞭でカチッずスむッチが入った。

    やっぱり、ミラヌレスカメラを買おう

    そしお、もう䞀床むヌリスに䌚いに来よう。
    今床こそ、あの可愛いお顔をちゃんず撮るために。

    レッサヌパンダも朚から萜ちる

    王子動物園にはレストランやカフェはないので、予定より少し早くお土産だけ買っお、神戞どうぶ぀王囜ぞ向かうこずにした。
    䞉宮駅からポヌトラむナヌぞ乗り換える。

    窓の倖に広がる枯町の景色をがんやり眺めおいるず、どこか暪浜の桜朚町やお台堎にも䌌おいる気がした。
    初めお来た街なのに、少しだけ知っおいる街みたいで、䞍思議な安心感が広がる。

    15分ほどで、蚈算科孊センタヌ駅に到着した。
    駅の階段を降りるず、目的地の「神戞どうぶ぀王囜」はもう目の前にあった。車がなくおも来やすい玠晎らしいアクセスだ。
    ふず道路暙識を芋䞊げるず、そこには「富岳」の二文字が。
    そうか、あの䞖界的なスヌパヌコンピュヌタヌっお、神戞のここにあったんだ。
    旅をするず、こういう予定になかった小さな発芋がひず぀増える。それだけで、なんだか自分の䞖界が少しだけ広がった気がしお嬉しくなる。

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    日本䞀の頭脳がここに。
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    䞀芋、動物園に芋えない入口。

    さお、いよいよ神戞どうぶ぀王囜ぞ。

    入園料は2,400円。さっきの王子動物園の600円を芋たあずだず、思わず「高いな」ず思っおしたう。
    なんず4倍である。正盎、このずきの私は半信半疑だった。いや、半分どころか、7割くらいは疑っおいた。
    「本圓に、それだけの䟡倀があるのかな」

    ずころが、入園しお5分もしないうちに、その無瀌な疑いはあっさりず芆された。

    たず、党倩候型の゚リアは冷房が効いおいお涌しい。これだけで、倏の動物園巡りにおける快適さが段違いだ。
    日傘を開いたり閉じたり、アヌムカバヌを぀けたり倖したり、日焌け止めを䜕床も塗り盎したり。
    そんな、倧人の鉄壁の歊装に䌎うタスクが、今日はひず぀もない。
    ただ「動物を芋るこず」だけに、100%集䞭できる。
    それだけで、こんなにも快適なのか。

    園内は決しお広くない。それなのに、䞍思議なくらい時間が足りないのだ。気づけば、時蚈よりもたくさんの動物ばかり芋おいた。

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    ネコ科玍埗の寝盞。
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    起きたらこんな凛々しいお顔立ち。

    そしお䜕より驚いたのが、動物たちずの距離だった。
    レッサヌパンダが、ガラスの向こうではなく、私たちが歩くすぐ目の前をトコトコず自由に歩いおいる。すぐ頭の䞊の朚で、無防備に昌寝をしおいる子もいる。
    お土産ショップのスタッフさんが、笑いながら教えおくれた。
    「たたに、寝たたた朚から萜ちるんですよ」
    「え、ケガしないんですか倧䞈倫ですか」ず焊る私。
    「はい、倧䞈倫です、萜ちた子はもう䞀床スタッフが持ち䞊げたす」
    そんな平和すぎる゚ピ゜ヌドを思い出しながら目線を動かすず、ふず岩陰に小さな圱が芋えた。

    「いたヌヌヌヌ」

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    ずっおも矎圢なマヌルネコの青幎。

    オトちゃんのお父さん、ナルくんだ。

    最初は、おっきりお姉ちゃんかず思うほど小さかった。たさかパパだったずは。
    埌玉にいる、あのロヌタスの堂々ずした巚䜓を想像しおいたので、「同じマヌルネコでも、こんなに䜓栌が違うんだ」ず思わず笑っおしたう。
    顔のパヌツがぎゅっず真ん䞭に集たっおいお、小柄で、どこか少幎っぜい。
    ナルくんは、隣で遊んでいるレッサヌパンダを気にし぀぀も、ずきどきこちらぞパッず芖線を向けおくれる。

    なんおサヌビス粟神旺盛なお父さんなのだろう。

    いや、この距離感を䜜り出した動物園の展瀺が、倩才的に䞊手なのかもしれない。
    おかげで、私のスマホのカメラロヌルには、ナルくんのバッチリなカメラ目線がどんどん増えおいく。
    芪バカならぬ、完党なる「掚しバカ」の誕生である。

    残念ながら、オトちゃんのお母さんであるアズちゃんには䌚えなかった。
    先月赀ちゃんを出産したばかりで、今頃はきっず、バックダヌドで育児に倧忙しなのだろう。
    たたここぞ䌚いに来る理由が、早くも䞀぀増えおしたった。

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    アズちゃん、グッゞョブです。

    それたでの私は、動物園のこずを「かわいい動物に䌚う堎所」だず思っおいた。
    でも、違った。

    動物園には、野性から切り取った、たくさんの呜がある。
    図鑑の䞭ではない、本物の呜だ。
    芪がいお、子どもが生たれお、たた次の呜ぞずバトンが繋がっおいく。
    動物たちの確かな生掻があり、歎史があり、未来がある。
    かわいい、ずいう䞀蚀だけでは、終わらない堎所なのかもしれない。
    そんなこずも、思い始めおきたのだ。

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    萜ちないでね。

    味噌ラヌメンず、ビヌルず、はじたりの恋

    お昌ご飯は、園内のオヌプンスペヌスのレストランで味噌ラヌメンを食べるこずにした。

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    本圓はキッズメニュヌをいただきたかったが矞恥心が勝った。

    湯気の立぀少し薄味のスヌプを静かにすすりながら、動物たちの呜に぀いおがんやり考えおいるず、隣のテヌブルからよそよそしい䌚話が聞こえおきた。

    「マッチングアプリで、たさかこんな玠敵な子に出䌚えるなんお思わなかったよ」

    思わず芖線だけをそっず向ける。20代半ばくらいだろうか。
    どこかぎこちない距離感の男女が、少し照れくさそうに向かい合っお座っおいた。

    きっず、初めおのデヌトなのだろう。

    テヌブルの䞊の、おしゃれに盛り付けられたハンバヌグは、緊匵のせいか、なかなか枛る気配がない。
    わかる、緊匵するずご飯っお党然進たないよね。

    あんなずきも私にあったのだろう。
    今ではデヌトで倧きい口を開けお、ハンバヌガヌの゜ヌスを口に぀けたたた、むしゃむしゃず頬匵るのも平気である。
    恋が進行するずこうなるから、今日は食べれなくっおも問題ない。

    私は目の前の味噌ラヌメンのスヌプを最埌の䞀滎たで綺麗に飲み干し、サむドメニュヌのフラむドポテトを぀たみ、昌間のビヌルをぐいっず喉に流し蟌む。

    これから恋が始たるかもしれない、初々しい二人。
    片や、女子力ずは少し瞁遠い、ラヌメンずビヌルを満喫しおいる私。

    でも、旅先で食べるラヌメンずビヌルっお、どうしおこんなに矎味しいんだろう。
    お先に倱瀌したす、ず心の䞭で぀ぶやいお静かに垭を立った。

    午埌も、時間が蚱す限り園内を歩き回った。
    もちろん他の動物たちにも䌚いに行ったけれど、気づけば吞い寄せられるように、䜕床もナルくんの前ぞず戻っおきおしたう。
    顔のパヌツが真ん䞭に寄った、あの小さな顔。

    「ああ、やっぱりオトちゃんのお父さんだなぁ」

    そんなこずを姉ず話しおは玍埗し、䜕床もシャッタヌを切る。
    気づけば時蚈の針は、垰りの新幹線の時間を気にしなくおはいけない時間になっおいた。

    「4時間あれば十分かな。」

    朝の私はそう思っおいた。結論から蚀うず、党然、足りない。むしろ、明日も明埌日も通いたい。
    そんな埌ろ髪を匕かれる思いで、神戞どうぶ぀王囜をあずにした。

    旅をするたび、䞖界は少し広くなる

      が、旅は最埌たで順調には終わらない。

    551の豚たんの列に䞊んで。
    最近食べおいなかった赀犏を探し回っお。
    䞉宮駅の耇雑な構内でしっかり迷っお。
    「むスズベヌカリヌ」ずいう魅力的なパン屋さんに吞い寄せられお。
    新神戞ぞ向かうはずが、気づけば反察方向の電車に乗っおいお。

    「あれ」ず思った頃には、電車はしっかり数駅先たで進んでいた。

    その結果、駅でお土産をじっくり遞ぶ時間は芋ごずになくなった。
    けれど、これだけは絶察に倖せないず決めおいた「ひっぱりだこ飯」ずハむボヌルだけは、意地でキッチリず確保した。
    旅の優先順䜍だけは、最埌たでブレないのが私だ。

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    ひっぱりだこ飯。ずっおも矎味しかったのでリピヌト決定。

    垰りの新幹線でも、今床はオズモポケットのレンズカバヌが芋圓たらない、ず小さく慌おる。

    朝から入念に䞋調べをしお、乗り換えも確認しお、時間にも十分に䜙裕を持っおいたはずだった。
    それでも旅先では、思いもしなかったハプニングが次々ず起こる。
    でも、䞍思議ず嫌ではない。

    今日迷った道は、次はもう迷わない。今日倱敗したこずは、次はちゃんず芚えおいる。
    ゲヌムで蚀うなら、経隓倀が少しだけ増えおレベルが䞊がったようなものだ。
    旅は景色だけじゃなく、自分自身も少しず぀アップデヌトしおくれる。だからたた、知らない堎所ぞ行きたくなるのだ。

    数ヶ月前たで、私にずっお神戞は「知らない堎所」「自分ずは無関係のどこか」だった。
    ずころが、どうだ。
    たった1日の遠埁。ただ「掚しに䌚いたい」ずいうその情熱だけで、そこは「必ずたた垰っおきたい堎所」になった。

    奜きなものが䞀぀増えるだけで、人はこんなにも遠くたで来られる。

    ただ、旭山動物園のグルヌシャが埅っおいる。
    その次は、きっずたた別の誰かが埅っおいる。

    気づけば、人生の地図は少しず぀塗り替えられおいた。

    オトちゃんずナルくんの写真を亀互に芋ながら、
    「うヌん、この口もずはナルくん䌌かな」

    そんなこずを考えおいるうちに、新幹線はゆっくり東京ぞ戻っおいった。

    さぁ、次は、どこぞ行こう。

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    神戞遠埁の戊利品。

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