"ミニ丼"を頼んだ自分を、食後ずっと責めていた
地元で有名な手打ち蕎麦屋に、初めて行った。
「いつでも行ける場所」にある店ほど、なぜか行かない。
近いからこそ後回しになる。
そのくせ、遠くの店にはわざわざ並びに行ったりするのだから、人間は不思議だ。
その日、僕はかなり空腹だった。
麺も食べたい。
米も食べたい。
胃袋だけが妙に前向きだった。
ざるそばはすぐ決まった。問題はその先だ。
ページをめくると、そこに「肉ねぎ丼」がいた。
しかも、いかにも美味そうな顔で。
頼むしかない。
しかし蕎麦もある。
ここで丼を普通サイズにしてしまうのは、少し欲張りすぎる気もする。
僕は迷った末に、理性的な判断をした。
ミニ丼である。
今思えば、あれがすべての間違いだった。
肉ねぎ丼は、美味しかった。
想像よりずっと、美味しかった。
甘辛い肉。
ねぎの香り。
白米との完成された連携。
そして、なくなるのが早すぎた。
え? もう終わり?
ついさっき来たはずの幸福が、もういない。
人は失ってから気づく。
あの丼は、ミニで頼むべき存在ではなかったのだと。
「大きいサイズにしとけばよかった……」
食後、いちばん強く残ったのは満腹感ではなく後悔だった。
人生には、ときどきこういうことがある。
足りると思って控えめにした結果、心が満たされないこと。
もちろん、ただの丼の話である。
でも次に行くときの僕は違う。
迷わない。
遠慮しない。
堂々と普通サイズを頼む。
人は失敗から学べる。
少なくとも、僕はこの蕎麦屋で学んだ。