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七夕とウィンカーと現在地

    この道を右に曲がれば職場に着く。
    少しだけ勇気を出してウィンカーを操作する。
    カッチ、カッチと聞き慣れた音がする。
    毎朝通っている走り慣れた道だ。

    昨日は七夕だった。




    7月7日の夜。
    プロ野球中継の中で、選手が短冊に願いを書く企画をやっていて、今日が七夕だったことに気がつく。

    ついでに、冷蔵庫の鶏もも肉の消費期限が今日までだったことも思い出す。2枚入りを買ったのに1枚も使えていない。
    はぁ、冷凍しておかなきゃ。それだけのことなのに、ため息が出てしまう。面倒で気分が重い。

    思えばここ最近は、鬱々としている。何がって訳でもないけど、全てが面倒くさい。
    料理を楽しむ余裕も、七夕に願いごとをする風情も失っていた。
    はぁ、こんなんじゃダメだな。また、ため息が出る。



    今朝、仕事をサボった。

    いつも通りの朝だった。
    いつも通り朝食を食べ、ダラダラと準備をする。
    いつも通りの時間に家を出て、運転する。
    いつも通りの道で、職場に向かう。

    それなのに、いつもと違って職場まで辿り着かなかった。
    鬱々としたこの状態で、1日働くことに耐えられる気がしなくて逃げ出した。なんでもいいから、休みが欲しかった。

    右に曲がれば、まもなく職場という交差点を直進していた。少し走り、路肩で停まる。職場に体調不良だと嘘の連絡して、また走り出した。

    不思議な気分だった。今日はとことん休んでやるという気持ちの裏に、はっきりと怖さを感じている。なんて事をしているんだという自分への怖さ。もう戻れないのではという怖さもある。


    職場に大きな不満がある訳ではない。仕事はつまらないし、惰性でこなしているのは事実だけど、夜遅くまで残業が必要な激務でもないし、ハラスメントもない。

    こんなのただの甘えだ。
    そう分かっていながら、情けないことに、休む自分を肯定して、アクセルを弱々しく踏んでいた。



    行くあてはなかったけれど、後ろめたさからか、とにかく遠くに行きたいと思った。職場から逃げるように車を走らせた。

    カーナビで現在地を確認する。
    少し走り、また画面を見る。

    職場から離れることだけを目的に、どこに向かっているかは自分でも分からない。
    悪い夢の中にいるような感覚だった。
    もうどうにでもなれと車を進める。


    結局、大して遠くへは行けなかった。
    居眠りをした授業のノートに残る筆跡のようにふらふらと走った後、近くのショッピングモールの駐車場に落ち着いた。目立たない端っこを選んで車を停め、ダラダラと過ごす。YouTubeを見たり、うたた寝をしたり、現実を忘れた。


    虚無だ。
    ネガティブに飲み込まれないようにする代わりに、感情を失っている気がした。
    だけど、どうにも笑えない。何かを頑張れる気がしなくて、ただダラダラと時間を溶かした。

    こんな自分が大っ嫌いだ。
    自己嫌悪だけは、無視することができない感情として残り続けていた。





    夕方、普段と同じ時間を狙って帰宅する。
    今日の1日を誰かに言えるはずはなく、妻といつも通りの団欒を過ごす。
    ああ、今日は七夕だった。

    プロ野球選手になれますように。



    無邪気に願っていた頃から、何が変わってしまったんだろう。
    今は、なりたい自分を想像することさえ難しい。考えてもワクワクする感情がない。

    ずいぶん寂しく感じるけど、これが今の私の現在地だ。大人の責任感も、子どもの無邪気さも持ち合わせていない。


    2026年7月7日。
    この1日を忘れないでいよう。

    気づかなかった七夕。
    進むべき方向を無視したウィンカー。
    ふらふらと彷徨うカーナビの現在地。



    これが、私の現在地。
    こんなものだ。
    もうどうにでもなれと人生を進めることにする。

     
     
    右投/右打 【ポジション】野球エッセイ 【サブポジ】内省と自己分析エッセイ 【特殊能力】比喩◎、ユーモア◯、後味◯、調子不安定 別のアカウントで絵本作家を目指してます https://note.com/eeeda_yot

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