
放課後の儀式「ベントラベントラスペースピープル」
枚方市立招提小学校、5年4組。
ぱっつん前髪の私は、
クラスの男子に声をかけられた。
「UFO呼ぶから来いや」
へぇ、この子、身内以外とも喋るんや。
勉強も運動も得意じゃなくて
存在感も薄い。
だけど、お金持ちの家の子で
長崎屋やニチイには売ってない
最新の文房具を持っていた。
向山君と大槻君と三人いつもくっついていて
UFOよりも私に声をかけてきたことの方が
おもしろくてついて行った。
気づけば10人以上集まっていて驚いた。
どこにそんな集客力があったんだろう。
「UFO呼ぶの何回目?」
「来たことあるん?」
「何分くらいで来るん?」
私は訊いた。
男子は何も答えない。
7年ほど住んでいた名古屋の小学校
2年8組のときもそうだった。
「ツチノコ捕まえに行くから入れ物持って来い」
と家まで誘いに来たから、
「どれぐらいの大きさ?」
「それ、泳ぐ?飛ぶ?」
「どうやって捕まえるん?素手?」
黙って帰った。
男子って、
そういう生き物なのかもしれない。
やがて厳かに呪文が始まる。
ベントラベントラスペースピープル。
覚えられない。
「べったらべったら… 」
男子は怒った。
「お前、真面目にやれや!」
私は思いっきり笑ってしまった。
「それくらい真剣に授業中先生の話聞きや!
体育も真面目に走りや!」
「お前、帰れ!」
そろばん教室の日だったので
少しだけホッとした。
それでも時々、教室の窓から中庭を見た。
「見んなや!」と言われた気がして
いつしか視線を傾けることもなくなった。
三学期になると担任が産休に入り
代わりの先生が全員に自己紹介を求めたとき
あの男子がいないことに気づいた。
でも、誰も何も言わない。
引っ越した生徒も、欠席の生徒も、
いないはず…
ベントラベントラスペースピープル。
思い出せるのは呪文だけ。
放課後、
向山君と大槻君の間に
不自然な隙間だけが残っていた。