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Photo byzuckinside

仏頂鯰と変型ズボン

    百裕(ひゃく・ひろし)

     登校すると校門前へ仏頂面の鯰みたいなおやじが立っていた。黙って通り過ぎようとしたら、「お前、ちょっと待て」と仏頂鯰が言って来た。
     何だこいつとは思うまでもない。鯰は生活指導担当の教師なので、そう言われたのは自分の学生ズボンが校則にそぐわないものだからに違いないのである。
     果たして仏頂鯰は「何だそのズボンは」と言う。
     何だと云われても、何を訊かれているのかわからない。「ヤーバンです」とブランドを言ったら、先方も返しに困ったか、ふんと云った。他人にものを訊ねて「ふん」とは失敬な鯰だが、そんなことを云うといよいよ面倒くさそうだから、黙ったまま首の関節を鳴らしておいた。
    「クラスと名前」
    「一年五組の百」
     鯰は持っていた名簿にマルを付けた。
    「放課後、生活指導室へ来い」
    「……」
    「返事は?」
    「ふぁ」

     教室で鏑木かぶらぎがぷりぷり怒っていた。その隣で、矢田がどんよりしている。二人とも校門で鯰にやられたらしい。
     放課後に三人で生活指導室へ行った。
    「失礼します」
     部屋に入ると、鯰が面倒くさそうに目を向けて来た。グレーのスチールデスクに汚いコップが置いてあり、中には何だかどす黒い液体が入っている。
    「そこの椅子へ座れ」
     やっぱり面倒くさそうに、隅のパイプ椅子を指す。
     云われた通りに座ると、いよいよ面倒くさそうな顔をして説教を始めた。そんなに面倒くさいならいっそ止せばいいと思ったが、云うと怒り出すのに違いない。それで丹田に力を入れながら、ぐっと堪えて黙っておいた。
     そうして聞き流していたら、鯰は調子に乗って、変なことを云い出した。
    「それにしても、三人とも五組か。五組は違反者が多いのぉ」
     それは違う。
    「いや、たまたま今日捕まったのが五組ばっかりだったので、実際は七組とか九組の方がよっぽど多いです」
     他の二人がぷっと吹き出した。
     鯰は黙って、ぐいとこちらを睨めつけた。

     
     
     
    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

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