メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bywarauyo

ボウリングの神

     音楽サークルのメンバーと一緒だったか、或いは学科の友人らと一緒だったのか、どちらだったかもう判然しないが、数人で大学前のボウリング屋に行った。
     自分は一体、昔からボウリングが下手くそである。今なら上手くいかない原因を分析しながら試行錯誤を楽しめるけれど、この当時はそうでない。
     みんなと同じようにピンに向かって真っ直ぐ投げたはずのボールが、自分の場合に限って側溝にしか行かないというのは、これはどうやらそういう星の下に生まれついたためなので、改善するにはボウリングの神に誓いを立てて血の滲むような修練を重ねる以外にない。即ちその場の工夫でどうなるようなものではないと考えていたから、自分のプレイに何らの希望も見出せなかったのである。
     だからと云って、自分だけが断って帰るようではもっとつまらない。それで一緒に行く方を選んだけれど、やってみると案の定ひどいありさまで、一向愉快を感じない。
     みんながわいわいやっている中で、これなら帰っても同じだったと独り陰鬱になっていると、不意に後ろから声をかけられた。
    「すみません」
    「?」
     見るとハンバーガー屋のユニフォームを着た女子が、バスケットを提げて立っている。
     ボウリング屋は二階にあって、階下にはハンバーガー屋が入っている。そこの女子店員が店長に云われて、行商に来たものに違いなかった。
    「新発売のライスバーガーのご案内をしてるんですが、いかがですか?」
     店員女子は整った笑顔を輝かせながら、メニューを提示する。
    「……じゃぁ、一個買おうか……」
    「ありがとうございます。五百円です」
     思っていたより高い。とはいえ、今さらやっぱりやめるは云いにくい。自分は平気な顔をしながら、五百円硬貨を支払った。
     店員女子はバスケットからライスバーガーを手渡すと、もう一度「ありがとうございました」と言って、すぐに次のターゲットへ声をかけに行った。仲間内で買ったのは、自分だけであった。
     包みを開けると、パンの代わりに焼きおにぎりでハンバーグを挟んだような物が出て来た。果たして見た目通りの甘辛い醤油の味である。こんなものなら普通のハンバーガーの方がいいと思いながら、もそもそ食った。

     
     
     
    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

    あなたへのおすすめ