メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bymomonotane

虫と寿司

     仕事帰りにコンビニへ寄ったら、ちょうど店に入るタイミングで、シャツの後ろへカナブンが入り込んだ。
     パタパタやって追い出したいけれど、店内に虫を放すのは迷惑だろう。しかし、そのためにわざわざ外へ出るのも面倒くさい。結局そのまま買い物をしていたら、支払い中に虫の方から飛び出した。
     これはもう不可抗力で、自分のせいではない。まさか怒られることもないだろうと店員を見たら、果たして気が付いてもいない様子である。気付いていないところへわざわざ「今、虫を放したよ」と教える要もない。そのまま黙って金を払った。
     ちょうどそこへ辻が来た。この当時、自分は辻の近所に住んでいたから、帰りに出くわすことは度々あったのである。
     せっかくだからミスドで茶でもしようということになり、待っていたらじきに辻が寿司のパック詰めをレジに持って行った。
     店員の後ろの壁にさっきのカナブンが止まったが、店員はやっぱり気付かないまま、「温めますか?」と言って来た。
     寿司を温めるかとは随分妙な質問だ。訊かれた辻も変な顔をしている。そうして、「…………これ、普通温めないですよね?」と言った。店員は一瞬固まったようだった。
     自分は、辻にしては随分真っ当な事を言うものだと感心した。それから急に可笑しくなって噴き出した。
     店員は何もなかったようにレジを打ち、寿司をビニール袋に入れた。この時分にはまだコンビニ袋は無料だったのである。
     店を出た後で辻は、「あいつ、いつも何か抜けてるんだよ」と吐き捨てるように言った。
     以前は、袋が小さくて入りきらないところへ無理矢理押し込まれて、パンが潰れたのだそうだ。
     それからミスドへ行った。ミスドはコンビニの隣のつもりでいたけれど、別の店が間に三軒入っていた。

    この記事が参加している募集

     
     
     
    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

    あなたへのおすすめ