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Photo bysuisei_581

新・車窓から(3) 〜実在する駅〜

     とっくに昼を過ぎていたので上郡駅で何か食べるつもりでいたが、下りてみると売店すらなかった。
     小さな田舎駅で、自分たちの他にお客はいない。これなら外出させてくれるだろうと思い、改札でこの近くにコンビニはありますかと駅員に訊いた。
    「コンビニはないですねぇ」
    「食べる物を売ってるような店は?」
    「それなら、あそこのドラッグストアでみなさん買われてます」
     少しばかり離れた所にチェーンのドラッグストアが一軒あるのが見える。
     元々すぐ近くにコンビニがあるつもりでいたから、それに比べるとあのドラッグストアはちょっと遠い。遠いのは構わないが、行き帰りの間に電車に間に合わなくなるようではつまらない。次の電車は二十分後である。
    「あそこまで行って、次の電車に間に合いますかね?」
    「大丈夫だと思いますよ」
    「じゃぁ、ちょっと行って来てもいいですか」
    「どうぞ」
     娘の手を引いてドラッグストアまで歩いて行った。三分ほどで着いた。
     何か食べたい物を選ぶように云うと、娘はアンパンマンのメロンパンを選んだ。自分はランチパックのピーナッツを選んでおいた。
     買ったパンをホームのベンチで食べていたら、じきに電車が来た。

     上郡駅が何県なのかずっと知らずにいたけれど、先刻調べたら兵庫の内陸にあった。そんな駅は見つからなかったという方が話としては面白いが、そういうわけにもいかないのだろう。

     上郡を出て、次は岡山駅で下りた。ここまで来ればいつものルートである。岡山から山陽本線に乗って広島に着いた。名古屋を出てから、九時間の行程であった。
     娘は喜んで、祖母の前で『ヤングマン』を歌った。平成生まれの幼稚園児が歌うにしては随分渋い選曲だろう。赤ん坊の頃から自分が車で流していたら、気に入って歌うようになったのである。もう少し前まではウルトラマンレオの歌を好んで聴いていたが、さすがにそちらはプリキュアに代わってしまった。
    「西城秀樹? 古い歌知ってるのねぇ。ヒデキだったら、ばあばは『ブルースカイ・ブルー』が好きよ」と母が言った。そのレコードは確かに昔家にあった。


    ファーストシーズンはこちら。


     
     
     
    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

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