ファンタジー掌編小説 『三日月に住む猫』
家の猫が三日月に住みたいと駄々を捏ねるので、近所の不動産屋さんを一緒に訪ねた。
「三日月で部屋をさがしているのですが……」と尋ねる僕の横で、氷の浮かんだ小さいグラスの麦茶を一舐めして、「冷たすぎ」と猫は不満げだ。
お店の担当者は「……三日月期間だけなら」とディスプレイを見つめ、すごい速さで画面をスクロールする。
猫は、その横で「ゴメンね。冷たすぎたかな」と笑いかけるスタッフに、「子供扱いすんな」と"やんのかステップ"を踏んでいる。
お店の担当者の話では、どうやら満月期間は予約でいっぱいらしい。猫に「三日月期間だけでいいんだよね?」と聞くと、「今度の三日月の時だけでもいいよ。満月期間は、どうせ兎でしょ」と物知り顔だ。
早速、手続きしてもらう。契約書に肉球で捺印して完了だ。
帰り道、「家賃は、僕が払うんだからね」と嫌味を言うと、「はい、はい」とシッポを振りながら軽く返事をして、猫は僕の前を歩いて行く。
赤信号で横に並ぶと、「たまには、出かければ。僕がきてからずっと旅行とか行ってなかったでしょ」と、猫が赤信号を見ながら呟く。
………。
「離せ。赤ちゃんじゃないんだぞ」と手足をバタバタさせる猫をギュッと抱きしめて、僕は青になった横断歩道を渡る。
家まで、離さないよ。少しだけ麦茶の匂いが残る猫の口元に顔をくっつけた。

(了)
※下記、片桐みかん様の企画に参加させて頂きました。今回、お題①の作品です。
#3つのお題に空想のひらめきを
『3つのお題に空想のひらめきを』第62回
🍊第62回 3つのお題(ファンタジー)
🎈お題①:「三日月に住む猫」
🐾お題②:「空から落ちてきた羽根」
⏳お題③:「湖の底に眠る城」
