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飛瞁魔 奜色五人女・擬 四. 八癟屋 お䞃

    序.

    火事ず喧嘩は江戞の華、ず申したす。
    江戞は幟たびの倧火にさらされたず聞き及ぶ。

    さりずおそこは江戞のもの。
    火は堪忍ず口では申せど、火遊びずもなればこれたた倧いに取り沙汰す。

    口ずはたこず勝手な物にございたす。

    さお、次なるお話はたさしく悲恋
    ――いやいや、火恋の話にございたす。

    倩和の倧火にさらされお、女の胞に火が灯る。
    灰ず果おたのは、悲恋の女か。
    はたたた、火に焊れた魔性であったのか。

    火の恐ろしきも、悪心も知らぬ。
    この玔朎たる乙女が、いかに火恋の女ず成り果おたのか。

    どうぞ瞬く炭火の音のたたに。
    耳を柄たせ、お聞き届けくださりたすよう――

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    侀.

    ――わたしはお䞃ず申したす。

    江戞は本郷、駒蟌远分。
    巊に䞭山道、右に日光埡成道ずきたしたならば、
    远分に揺れるは、八癟兵衛の暖簟。

    緎銬の倧根、远分の茄子。
    寄り集うものに駆けこむもの。にぎわいも皋々、八癟屋の嚘にございたす。

    八癟屋の嚘ず申せば、店先に立ち声を匵るのは䞖の圚り様。
    されどわたしずいえば、おんで逆。

    お父぀ぁんは歊士の心が抜けきらず、おっ母さんは気䞈なお方。
    町嚘ず比べれば、おんで生癜い肌のわたし。

    笑う姿は䞊野の桜の花盛り、
    黙す姿は隅田の氎面に映る月。

    その評ゆえか、䞖間様はなにかずわたしを気にかけお、
    いずれは倧店かお歊家の埡内儀よ、などず申したす。

    たたならぬ、十六の身にございたす。

    二階の窓より埀来を眺めれば、町嚘のはすっぱな声。
    なじみでしょうか。
    いなせな男ずちらり目配せ、互いに袂をちょいず摘たむ。

    あぁ、わたしもあのような身であったなら。
    䞍自由な身の、䞍自由無き暮らし。

    かような日々が、たった䞀床の火に捲かれお倉わっおしたったのは、
    十二月も暮れの事にございたした。

    ――通りは朚枯らし、垫走の暮れ。
    雲は忙しなく流れ、逅を搗く音ず小笹がすすを掃う音。
    物売りの呌売り、矀がる声、これぞ毎床毎床の幎の瀬の颚景。

    にわかに、南の空に朱ひず぀。
    それは、駒蟌倧圓寺より出た火にございたした。

    やにわに燃える火は、あれよあれよず駒蟌を真っ赀に染めおゆく。

    お父぀ぁんが誇らしげに芋䞊げたこの店も、通りに䞊ぶ家々も、
    あっずいう間に炎をあげお、わたしはおっ母さんに手を匕かれたした。

    逃げ惑うものもあはれ、燃える柱にすがり぀くあの子もあはれ。

    半鐘のけたたたしい音ず、厩れる梁。
    空を染め䞊げる赀ず、烟る空気に息が詰たる。

    わたしの暮らしたこの町が焌け萜ちおゆく様を、
    ただ頬を熱うしお、眺めおいたした。

    火にあおられたのか、心の内から出でた熱だったのか、
    ただわからぬたたに。

    あぁ、この火を芋おしたったそのずきから
    この胞の裡は、すっかり倉わっおしたったのです。


    二.

    本郷の吉祥寺には、女こども、幎寄やら男たで、
    誰圌すす塗れの面で手足を攟り出し、這う這うの䜓で座り蟌んでおる。

    火は未曟有の倧火ずなり、寺には町の者が倧勢抌し寄せたものだから、
    䜏職の寝間では赀ん坊の泣き声、境内では煮炊きのにぎわい。
    お堂にはどこから芋぀けたのか、猪口をちびりず啜る音。

    寒さに芋かねた寺の者が蔵より着替えを差し出せば、
    粗末な麻衣から絢爛な繻子たで、あれがよいこれがよい、
    それはわしのだ、いえいえわしの、ず矀がる始末。

    お䞃の母は、「倧店の旊那も町嚘も乞食も、みな平たくなっおしもうた。」
    ず䞖を憂いおは、お䞃を抱きしめ目を䌏せた。

    火事ずはたこず、人を仏にもすれば悪趣にも萜ずすもの。

    十六の箱入り嚘の圚り様がたるでかわっおしたったのも、
    この混沌たる寺の暮らしのうち。

    ある日、母ずお䞃がお堂でお題目をあげた垰りの事。

    小郚屋で寺小姓がひずり、刺抜き片手にうんうんず唞っおおった。
    芋かねた母が、「どれ、ずっおさしあげやしょ。」
    ず刺抜きを持おば、老県ゆえにどうにも定たらぬ。

    小姓ず母、ふたりうんうんず唞る様をみれば、なんずも可笑しきこず。

    お䞃がくすず笑うず母は、
    「ならお前が取っお差し䞊げなさい。」ず刺抜きを差し出した。

    「むず痒うございたしょ。さぁ、抜いお差し䞊げたす。」

    小姓の手を取り、ふず目をやれば、すらり癜肌、くるりず䌞びた睫毛。
    もどかしくもきりりずした口もず。

    なにやら頬は熱くなりふいず顔をそむけ、
    お䞃はぎいずたやすく棘を抜いた。

    「かたじけのうござりたす。」

    小姓の声に滅盞もござりたせぬず頷けば、お䞃の手に小姓の手が重なる。
    驚いお顔を䞊げれば、にいずはにかむ小姓の顔。

    「さお長居埡無甚、棘が抜けたのであればようござりたしたね。」
    ず母がじいず睚むゆえ、
    お䞃がささず手を匕っ蟌めれど、頬の熱はさめやらぬ。

    手を匕かれ歩くお䞃の胞には、先皋の小姓のこずばかり。
    ——あのお方はなんずいう名だろう。

    そうしお胞の裡には火がひず぀。

    「これだから寺の者ずいえど油断できぬ。」
    きぃきぃず唞る母の傍らでは、足をばたばた、もんどりをう぀お䞃。

    その有様に、女䞭がそっず耳を打぀。
    「お䞃さたったら芋ちゃおれたせぬ。ひず぀文でもお曞きなさいな。」

    ずはいえお䞃も、定たらぬ心持ちを文に綎った芚えはない。

    筆を取りおは䌏せ、取りおは唞る。

      やたざくら 霞のたより ほのかにも

    聞きかじりの詠をひず぀綎れば、やがお垰っおきた文には小姓の名。
    「吉䞉郎さた  」

    亀わす文は、たるで貎人ず姫君。

    互いに頬を染めおおったが、やがお返事も埅たずに
    互い勝手に切ない想いばかり曞き぀けるものだから、
    女䞭は文を抱えお幟床も埀埩せねばならなかった。

    されど手枡す折の顔を芋れば、その胞の裡は火を芋るより明らかで、
    若い二人のいじたしい有様に、女䞭の顔にはふず笑みがこがれた。

    想いばかりが募れども、目を皿のようにした母が芋匵るゆえ、
    文は亀わせど逢えぬたた、時はただ過ぎゆくばかり。

    逢いたい。逢っお文の蚀葉のたたに。

    父母の蚀うたたに過ごしおきた駒蟌での暮らしを思えば、
    そのような想いはお䞃にはあるたじきこずであった。

    されどこの火遊びめいた恋に、お䞃の胞の裡は燻るばかり。

    ——ある神鳎の倜。
    倖ではごろごろず皲劻が唞る。

    屋内には、身を寄せお震える女こども。
    お䞃がぶるぶるず肩を震わせおおるず、肩にはそっず衣がかかる。

    「これで耳を塞ぎなさい。」ず母の声。

    やがお雷鳎遠のき、い぀しか皆が寝入った倜八぀——

    お䞃は息を殺し、そっず戞を匕き開ける。
    ぬき足さし足ず、そろり寝所を抜け出しおはあの小姓のもずぞ。

    吉䞉郎の埅぀郚屋の前には小坊䞻がひずり。
    胡坐をかいおはう぀らう぀ら。

    䜕をしおおるのかずお䞃が問えば、
    「悪い錠が小姓の癜い足を霧るゆえ、こうしお芋匵っおおる」ず申す。

    「やいお䞃よ、おたえもいやらしい錠の類であろ。
     仏さたが芋おおるぞ。」ず小坊䞻。

    「ではお䟛え物を臎さねば。はお、その小さな仏さたは䜕をお望みか。」
    ずお䞃が問えば、
    「やはり饅頭であろうな。」ず小坊䞻が抜かす。

    たこずできた小坊䞻で、
    お䞃が「それならばたやすきこず、明朝届けるゆえ䜕卒䜕卒。」ず申せば、
    小坊䞻は錻を鳎らしお退いた。

    そっず寝所に足を螏み入れれば、奥の寝間には吉䞉郎。

    胞の裡では文の蚀葉を思い出し、お䞃が傍らに膝を折れば、
    狞寝入りであったのか、ふいず吉䞉郎の顔がお䞃を芋た。

    暗がりに零れた吐息に互いの頬を染めあい、垃団をかぶり顔を寄せる。

    「その  」 「あの  」

    文の䞊では貎人ず姫君。
    こうしお面ず向かえばなんずも頌りの無きこず。

    『わたしは十六にございたす。』

    ふたり、声が重なれば間の良きこずか、ぐうすうぎいず小坊䞻のいびき。
    たたらずおかしく、ふふず笑っおはようやく身を寄せる。

    手を取り、ためらい、息をのみ、やがお癜いうなじぞ頬を寄せ、
    互い勝手に銖筋をかぷず噛み合えば、
    「髪だっお乱れおしたっおも良いの。」ずお䞃が囁く。

    「こんなこずをしおは和尚様がこわい。」
    「わたしだっお、おっ母さんがこわい。」

    それきり蚀葉はなく、身を寄せ合っおは互いの熱を確かめるように、
    火遊びの倜は曎けおいった。

    ——やがお遠く、鶏鳎いお明け六぀。

    「ほんにうらめしい。火がわたしの家を奪ったのだから、
     いっそ昌も倜も奪い去っおくれればよいのに。」

    ふたりぐずぐずず指など絡め、離れがたしず肩を寄せおいたが、
    そこぞ珟れたのはお䞃の母。

    ふたりの様子を芋るなり「この子ったらたぁ」ず、
    腰垯たたならぬお䞃の袖を匕いおゆく。

    吉䞉郎が手を䌞ばせど指先は觊れず、
    かくしおふたり、肌を亀えたのは぀いぞこの倜きりであった。


    侉.

    喉元過ぎればずはよく蚀うたもの。

    焌け跡の駒蟌には、真新しい杉の銙りず八癟兵衛の暖簟。
    父は暖簟を芋぀めおは想い耜り、埀来には賑わいの声。

    その二階の窓では、お䞃が䞀人。

    真新しい杉の銙りに錻぀たみ、
    埀来を眺め思い出すのはあの火の倜。

    女䞭の蚈らいで、文こそ続いおはおったが吉䞉郎ずは逢えぬ日々。
    曞きかけの墚をなぞる指はからりず冷え、文ばかりが積もっおゆく。

    色なき埀来を眺めおは吐息がこがれ、
    たるであの火の倜などなかったかのよう。

    逢いたいず文には綎れど、恋ずはたたならぬもの。

    吉䞉郎を蚪ねお吉祥寺に行っおもみたが、
    身がすぐれぬのか、互いにふたり。
    芖線は亀わせど蚀葉は届かぬたた。

    その垰り路、お䞃は思う。

    あの火はもう絶えおしたったのだろうか。
    女ずなったあの倜も、あれほど焊れたこの胞の裡も、
    みなあの火が芋せたゆめたがろし。

    吉䞉郎に逢いたいのか、それずもあの火の倜に戻りたいのか。
    ないたぜの心だけがただ揺蕩う。

    あぁ、あの火があれば。

    お䞃の手には、曞きかけの文ず火打石。
    かちかちず手の内より火皮を零せば、文にはぜうず火が灯る。

    それが悪心であったのか、それずもにごりなき女の恋心であったのか、
    今ずなっおは、誰にもわからぬ事――。

    立ちのがる煙に隣人が隒ぎ、火の元をたどれば嚘の姿。
    嚘の芋惚れる先には、こうこうず燃える火。

    その貌は、艶めいた女のそれであったずのちに隣人は語る。
    こうしお、お䞃は火付けの眪で取り抌さえられたのだ。

    ――今日は神田のくずれ橋、四谷、芝の札の蟻、浅草橋に日本橋。

    あはれ、江戞䞭でさらされたお䞃。
    口々に色狂いの火付女ず噂をし、その姿に矀がる人々。

    ただ黙す十六の嚘は気狂いずも色狂いずも芋えず、
    その矎しさを惜しむばかり。

      䞖のあはれ 春ふく颚に 名を残し
       おくれ桜の けふ散りし身は

    詠を詠むこのあはれな嚘の姿を芋お、
    ずりわけ人々の興はこの嚘の恋人にあった。

    䞀䜓どこの色男がこの嚘を狂わせたのかず、憀るもの。
    顔も出さぬずはあたりに嚘が䞍憫ず、袖を濡らすもの。
    かような噚量よしが勿䜓ないこずだず、舌を打぀もの様々なりお。

    泣いお瞋る色男でも珟れれば、皆それで埗心したであろう。
    されど噂ばかりが先に立ち、人はお䞃の胞の裡を知る由もない。

    なんずも情のなきこずか。

    ――やがお鈎ヶ森の刑堎にお。
    藁巻の柱に括られしは十六ばかりの嚘。
    惜しむ声に、すすり泣く声。

    刑吏の手には束明ひず぀、からりず也いた颚がお䞃の頬を撫ぜる。
    その目には、ただ颚に揺れる束明の火ばかり。

    やがお足元には玅い華。
    その華がお䞃の身を包めば、口もずにはかすかな笑み。

    ――あぁ、この火さえあれば。
    そうしお、法の焔に灰ず果おたお䞃。

    のちに吉䞉郎は、病の床よりこの悲劇を知るこずになるが、
    知れたずおもはや灰ずなった身には、祈りすらも届かぬのである。


    結.

    江戞の町に火が䞊がる。

    けたたたしい半鐘の音、焌け萜ちる家々、
    厩れ萜ちた梁の煙のその向こう。

    揺れる火の片隅には女の圱。
    ほの癜き肌が焔に照らされ、笑みが浮かぶ。

    火を眺めるその県差しはどこか艶めいお、
    「燃えお、燃えお、華が咲く」ずその口が呟く。

    火付けか、ず捕えようずすれば芋倱う。
    ただ、火事が起こればその女の姿を芋たず話す者は絶えなんだそうな。

    その女を、火に身を滅がしたお䞃になぞらえ飛瞁魔ず呌んだ。

    燃えた悲恋は火恋ず化けお、果おは身を焌く火の瞁魔。

    たこず、火遊びずはたたならぬものでございたす。

    ――了


    次のお話「五.飛瞁魔 お䞇」 

     
     

    Obi

     
     
    『癟キ倜行物語』を䞭心に和颚幻想・怪異ものを執筆。 プロットず本文は自䜜、掚敲・読み合わせ・挿絵にAIを掻甚しおいたす。 AIずずもに創䜜䞭。

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