
【連作短編】【一番効く薬】【08:時間】
【連作短編】【一番効く薬】【08:時間】
三題噺:完成/笑顔/効く
「かんせーい!ママ、兄貴、お疲れ様!彼女さんも!」
娘が最後の瓦をはめ込む。ドヤ顔のお手本ね。
新しく生まれ変わった我が家の屋根。
張り替えた瓦の確認でもするように。爽やかな風がその表面をサラリと撫でていく。
久しぶりに家族がひとつになって。我が家を直していくのは……良かった。
やってよかった。ホントに。
雨漏りの後、手放さなくて。……良かった。
不意に息子が口を開く。
「母さん、知ってる?『忘却は神様が人間に与えたギフト』なんだってさ。辛いことも忘れていくことで生きていけるんだって。………でも。でもさ。選ぶってゆうか。父さんを失った悲しみは忘れていっても。父さんがいた頃の思い出とか、楽しかった記憶とか。あの、人懐っこい笑顔とか。……僕は、忘れないよ」
「ふふ。そうね」
ふと見ると
彼女さんじゃなくて!お義姉ちゃんって呼んで!
なんて言いながらハグしてる。
近い近い、なんて言いながら払い除けてるけど、あの子も笑顔。
「いい子見つけたわね。……その手を離しちゃダメよ?」
「……ん」
照れくさそうに。耳まで真っ赤。
職人さんのアドバイスを貰いながら。素人ながら、3ヶ月かけて、家族みんなで修理した。
新しくなった屋根の我が家を家族みんなで見ながら。
私たちは。笑えていた。
あの人のいなくなった我が家を見ながら、あたしは思う。
この子の言う通り。
時間は誰に対しても。とても残酷で、とても優しい。あの人を失ったあたし達家族は大きく傷つき、一度は壊れた。
そんな傷ついた心も、ゆっくりと。でも確実に。
癒されてはいく。それは薬のように。
ふとあの人のことを思い出す。
亡くなる数日前、あたしに言った。
『君には本当に感謝している。ありがとう。あの子たちのこれからをよろしく頼む。……なんでこんな治療薬もない病気になっちまうかなー……。ん、でもな。不思議と。不思議なことに。あの子たちのこれからの未来を考えてる時だけは、少し気持ちが楽になる気がするんだ』
へへへ、コホコホッ。
痛くて苦しいはずなのに。
あの時のあの人は、確かに。
笑顔だった。