
あしもとの ほじまる 第14話「ソファの向こうへ。」
その日。
風が、
すこしだけ 強かった。
ソファの 向こうから、
なにかが 流れてきた。
ころり。
黒っぽい。
細い。
すこし、
かたい。
「……なんだ これ。」
コ太が言った。
カールが、
そっと 近づく。
持ち上げる。
「軽い。」
「まっすぐだ。」
「……くるくるじゃないけど。」
すこし、
間があく。
「つけてみる?」
ハナが言った。
「やめとけ。」
カールは、
少し 考えた。
そして、
そっと 置いた。
「……でも。」
「向こうから 来た。」
「風に乗って。」
五人は、
ソファの 向こうを見た。
まだ。
見たことのない場所。
ハナが、
ぽつりと 言った。
「……あっち。」
あの日から。
カールは、
少し 変わった。
くるくるは、
まだ 戻らない。
「ノープロブレム」も、
あまり 言わなくなった。
でも。
消えたわけじゃない。
ただ。
すこしだけ、
静かになった。
ある夕方。
コ太が、
ぽつりと 言った。
「ねえ。」
「くろいやつって。」
「また 来ると思う?」
「来る。」
カリが言った。
「あいつは、
また来る。」
「コ太を狙ってる。」
ミズが言った。
「毎回、コ太だ。」
しん。
ハナが、
口を開いた。
「……出よう。」
「ここを、出よう。」
「くろいやつは、
ここを知ってる。」
「だったら。」
「動くしかない。」
「どこへ。」
カリが聞いた。
ハナは、
ソファを見た。
「ずっと、
気になってた。」
「あの向こう。」
「まだ、
行ったことがない。」
すこし、
間があく。
「風に乗る。」
「窓が開くと。」
「あの風は、
あっちへ流れる。」
「タイミングを
合わせれば――」
「乗れる。」
カールが言った。
静かな声。
ハナは、
カールを見た。
カールも、
見た。
短く、
目が合う。
翌朝。
窓が、
すこし 開いていた。
五人は、
ソファの 足もとに並ぶ。
風を待つ。
「来るぞ。」
カールが言った。
カーテンが、
ふわりと ふくらむ。
「今だ!」
走る。
みんなで。
一斉に。
角を曲がる。
風が、
ふわっと 持ち上げる。
そして。
すとん。
すとん。
すとん。
しん。
ハナが、
顔を上げた。
広い。
でも。
どこか、
知っている気もする。
かたくて。
つめたくて。
白い。
遠くに。
高いものが、
いくつも並んでいる。
どこかで。
水の音。
「……ここか。」
カールが言った。
「そうだ。」
ハナが、
胸を張った。
「ぼくたちは。」
「来た。」
「新しいところに。」
五人は、
顔を見あわせた。
それから。
すこしだけ、
笑った。
ここが、
どこなのか。
まだ、
わからない。
でも。
ここから、
また。
つづく。
―― 第一部 完 ――